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第二章 キースの寄宿学校生活
王太子一家とのお茶会
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侍従が呼びに来たので、ゲームを切り上げ、庭に出ていく。そよ風が気持ちがいい。
ゲームに熱中して凝った肩をほぐしながら、ゆっくりと歩いた。
パーゴラの下に、ザ・アフタヌーンティーという雰囲気のお茶の支度が出来ている。
色とりどりのクッションが華やかで、居心地がよさそうだ。
侍従に促されて、椅子に座る。ジョン王子は僕の横だ。
あれれー、もう2つ席が用意されているぞ。僕の勘は逃げろと言っている。
そう思った時には敵の大将、まだ王太子だから副将かな、が夫婦でお出ましになった。
3人ともご機嫌だが、包囲された僕は全然嬉しくない。
これは、人物調査とかなのだろうか。王子に近付く人間を、面談して判断するとかの。
ちょうどいいから、落としてもらおうかと思ったが、張り切っていた祖母を思い出して堪えた。また爪弾きにされたら、もっと落ち込むだろう。
僕は行儀よく、口数少なく、控えめな、いい子供として振る舞った。
和やかな会話のリズムが狂ったのは、父の話題になった時だった。
会話は定番の、そっくりだなあ、から始まった。
「そうですね」
「アトレーはどうしている?」
「知りません」
王太子様、ちょっと動揺した様子だ。
「会っていないのか?」
「誕生日に来ましたよ。話をしないので、どうしているのかは知りません」
「じゃあ、誕生日にやって来て、彼は何をしているの?」
「プレゼントを持ってきますね」
「会えて、嬉しいかい?」
一応首をかしげて、子供ぶっておく。
「特には」
「あ~、昔したなあ。こんな会話」
王太子様が頭を抱えた。
王太子妃様が、アトレーについて悪い噂を聞かされて、嫌いになったからなの? と聞くので、ここはゲート家の品位を汚してはいけないと思い、はっきりと説明した。
「ちゃんと話を聞いたのは学園に入学する数日前です。それまでは何も聞かされていませんでした。
単に父が素っ気ないので、僕も懐かなかっただけです。年に1日しか来ませんし」
王太子妃様も、年に一日、と言って絶句する。
「じゃあ、全く両親との関わり合いが無いままで生活してきたの?」
「まあ、そうですけど。祖父母がすごく可愛がってくれるので、特別何とも思いません」
「ソフィとは全く会ったこともないのでしょう?」
「入学前に会いに行って、少し話をしました」
ええっと言って驚いたのは、二人だけではなかった。側に仕える侍従と侍女達も一緒に驚いていた。
母って周囲からどう思われているんだろう。
かなりビビった。
「何を話したの? というか、あなたと話をしたの?」
その質問、おかしいでしょ。
「僕の母って、そんなに変わった人なんですか?」
「お母様の事を知らないの?」
「はい。祖父母や周囲はなるべく話題にしないようにしていたし、僕もなんとなく触れないほうがいい気がしていました。でも、学園に入学する前に、一度だけ会いに行こうと思ったんです」
お茶や、お菓子の追加をしながら、侍女たちが距離を縮めてきているような気がする。
気のせいかな。
「ソフィは社交界の華と呼ばれている有名人よ。綺麗な人だったでしょ」
「はあ、まあ」
自分の母を王太子妃に向かって綺麗だと言うのは、駄目なんじゃないかと思ったので、言葉を濁した。
「あなた自身がそれだものね。羨ましいわ。ソフィは神秘的なムードの美女で、話題の人物よ。
そしてあなたと完全に縁を切ったことも有名なの」
「ああ、それで祖父母も驚いたんですね」
「で、どんな話をしたのか、教えてくれる」
王太子妃様は、おねだりするような顔をこちらに突き出してくる。
絶対に侍女達も、少しにじり寄ってきている。全員少し前傾姿勢だし。
仕方なしに、少し端折って会話の内容を教えた。
憎いと言われたことも勢いで話してしまったけど、表情が嬉しそうでチグハグだったので、そんなに傷ついていないことも話した。
ホーっと言う声があちこちから聞こえたが、王太子妃様が、キッと睨みつけ黙らせた。
「氷が解けたのかしら。これは楽しみね。何か面白い趣向の夜会を開かなくちゃ」
王太子妃様、張り切っているな。
ジョン王子が静かにお茶を飲むのが横目に見えた。すごく静かで、いつものキラキラ感は薄い。気配が消えているレベルだ。
もしかしたら、王族は東の国のニンジャという術を習うのだろうか。
それならぜひ僕も教わりたい。
ジョン王子と友達になるのも悪くないと思えてきた。
夕暮れが迫り、少し薄暗くなった頃、王太子夫妻に、また遊びにおいでと言われた。
今回も定型パターンで返したら、王太子妃様がフフーンという含みのある笑い方をした。
「あんまり乗り気じゃあないのかしらね」
ばれている。だが、定型文に文句は付けられないはず。そう思った僕は、更に定型文で応戦してみた。
「とんでもございません。コウエイの至りです」
発音がなんとなく棒読みになるのは仕方ない。さて、お許しが出るかな?そう思って、チラっと王太子妃様を見ると、面白がるような目と目が合った。
「あなたはグレッグに似ているのね。その人を食ったような性格、あの人そっくり」
王太子様も僕を見つめてきた。
「容姿はアトレーで、性格がグレッグか。それは末恐ろしいな」
伯父さんの評判も、なんなんだ。
母の家は不倫をしたマーシャおばさん含め、変わり者集団なのだろうか。
ゲームに熱中して凝った肩をほぐしながら、ゆっくりと歩いた。
パーゴラの下に、ザ・アフタヌーンティーという雰囲気のお茶の支度が出来ている。
色とりどりのクッションが華やかで、居心地がよさそうだ。
侍従に促されて、椅子に座る。ジョン王子は僕の横だ。
あれれー、もう2つ席が用意されているぞ。僕の勘は逃げろと言っている。
そう思った時には敵の大将、まだ王太子だから副将かな、が夫婦でお出ましになった。
3人ともご機嫌だが、包囲された僕は全然嬉しくない。
これは、人物調査とかなのだろうか。王子に近付く人間を、面談して判断するとかの。
ちょうどいいから、落としてもらおうかと思ったが、張り切っていた祖母を思い出して堪えた。また爪弾きにされたら、もっと落ち込むだろう。
僕は行儀よく、口数少なく、控えめな、いい子供として振る舞った。
和やかな会話のリズムが狂ったのは、父の話題になった時だった。
会話は定番の、そっくりだなあ、から始まった。
「そうですね」
「アトレーはどうしている?」
「知りません」
王太子様、ちょっと動揺した様子だ。
「会っていないのか?」
「誕生日に来ましたよ。話をしないので、どうしているのかは知りません」
「じゃあ、誕生日にやって来て、彼は何をしているの?」
「プレゼントを持ってきますね」
「会えて、嬉しいかい?」
一応首をかしげて、子供ぶっておく。
「特には」
「あ~、昔したなあ。こんな会話」
王太子様が頭を抱えた。
王太子妃様が、アトレーについて悪い噂を聞かされて、嫌いになったからなの? と聞くので、ここはゲート家の品位を汚してはいけないと思い、はっきりと説明した。
「ちゃんと話を聞いたのは学園に入学する数日前です。それまでは何も聞かされていませんでした。
単に父が素っ気ないので、僕も懐かなかっただけです。年に1日しか来ませんし」
王太子妃様も、年に一日、と言って絶句する。
「じゃあ、全く両親との関わり合いが無いままで生活してきたの?」
「まあ、そうですけど。祖父母がすごく可愛がってくれるので、特別何とも思いません」
「ソフィとは全く会ったこともないのでしょう?」
「入学前に会いに行って、少し話をしました」
ええっと言って驚いたのは、二人だけではなかった。側に仕える侍従と侍女達も一緒に驚いていた。
母って周囲からどう思われているんだろう。
かなりビビった。
「何を話したの? というか、あなたと話をしたの?」
その質問、おかしいでしょ。
「僕の母って、そんなに変わった人なんですか?」
「お母様の事を知らないの?」
「はい。祖父母や周囲はなるべく話題にしないようにしていたし、僕もなんとなく触れないほうがいい気がしていました。でも、学園に入学する前に、一度だけ会いに行こうと思ったんです」
お茶や、お菓子の追加をしながら、侍女たちが距離を縮めてきているような気がする。
気のせいかな。
「ソフィは社交界の華と呼ばれている有名人よ。綺麗な人だったでしょ」
「はあ、まあ」
自分の母を王太子妃に向かって綺麗だと言うのは、駄目なんじゃないかと思ったので、言葉を濁した。
「あなた自身がそれだものね。羨ましいわ。ソフィは神秘的なムードの美女で、話題の人物よ。
そしてあなたと完全に縁を切ったことも有名なの」
「ああ、それで祖父母も驚いたんですね」
「で、どんな話をしたのか、教えてくれる」
王太子妃様は、おねだりするような顔をこちらに突き出してくる。
絶対に侍女達も、少しにじり寄ってきている。全員少し前傾姿勢だし。
仕方なしに、少し端折って会話の内容を教えた。
憎いと言われたことも勢いで話してしまったけど、表情が嬉しそうでチグハグだったので、そんなに傷ついていないことも話した。
ホーっと言う声があちこちから聞こえたが、王太子妃様が、キッと睨みつけ黙らせた。
「氷が解けたのかしら。これは楽しみね。何か面白い趣向の夜会を開かなくちゃ」
王太子妃様、張り切っているな。
ジョン王子が静かにお茶を飲むのが横目に見えた。すごく静かで、いつものキラキラ感は薄い。気配が消えているレベルだ。
もしかしたら、王族は東の国のニンジャという術を習うのだろうか。
それならぜひ僕も教わりたい。
ジョン王子と友達になるのも悪くないと思えてきた。
夕暮れが迫り、少し薄暗くなった頃、王太子夫妻に、また遊びにおいでと言われた。
今回も定型パターンで返したら、王太子妃様がフフーンという含みのある笑い方をした。
「あんまり乗り気じゃあないのかしらね」
ばれている。だが、定型文に文句は付けられないはず。そう思った僕は、更に定型文で応戦してみた。
「とんでもございません。コウエイの至りです」
発音がなんとなく棒読みになるのは仕方ない。さて、お許しが出るかな?そう思って、チラっと王太子妃様を見ると、面白がるような目と目が合った。
「あなたはグレッグに似ているのね。その人を食ったような性格、あの人そっくり」
王太子様も僕を見つめてきた。
「容姿はアトレーで、性格がグレッグか。それは末恐ろしいな」
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