氷の貴婦人

文字の大きさ
24 / 56
第二章 キースの寄宿学校生活

色々な人達との出会い

しおりを挟む
「それは褒められているのでしょうか。僕はグレッグ伯父様に会った事がないので、どんな人物か全く分からないのですが」

「会ってごらんなさいよ。ソフィの許しが出たなら、あちらのご家族も会いたいはずよ。
 グレッグは特にね。あなたが3歳になるまで、でれでれだったんですもの。そのうち、あちらから何か言ってくるわ」

 変わり者一家との交流。それも気が進まない。社会に出るというのは面倒なものだ。

 ずっと静かだったジョン王子が、それじゃあ、馬車まで送るよ、と言って先に立った。後ろについて花園の中を歩いて行く。

 その先に小さい女の子が侍女と二人で花を摘んでいた。

「リデル、もう薄暗くなってきたから、部屋に戻りなさい」

 ジョン王子が声を掛けると、女の子がぴょんと立ち上がった。振り向くと、お兄様ーと言いながらこっちに駆けてくる。

 そして少し手前で立ち止まると、言った。

「王子様」

 うん、王子様だね。君の兄は。

 それで、なぜ僕の前に来るの?
 僕はしがない伯爵家子息だよ。どこかの国の王子様でもないよ。


 その晩、宮廷の侍女の間に、美しいお話が広まる。

 夕暮れ時の落日の光の中、美しい少年が高貴な美少女に、出会う。時が止まったかのように見つめ合う二人。
 その先の物語を、私たち王宮の侍女は、リアルタイムで見れるのよ!


 キースの性格を見抜いていて、娘の性格も知っている両陛下は鼻で笑った。
 ジョンは面白がっていたが、これを知れば、二度と遊びに来なくなるとわかっていたので、黙っていることにした。


 次の週からは、何の遠慮もなくなった王子様が、頻繁に僕の部屋にやってくる。

 仕方がない。なぜか僕たちはお友達なのだ。

 ジョン王子の同室の面々とも打ち解け始め、ランチはいつも十人くらいで食べるようになっていった。

 食堂で働いている女性はベスと名乗った。僕が二歳くらいになるまで伯爵邸で働いていたそうだ。
 母とも仲が良かったらしい。
 今度じっくり、話を聞かせてもらう約束をしている。

 上級生にも、ハッピーと気やすく声をかけられる。
 上級生と仲良くなると、テストの山を教えてもらえるという特典がついてくる。これがとってもありがたい。
 皆でノートを回し読みした結果、その全員が結構良い点を取ることができた。

 おかげで僕の人気も更に上がり、入学前に考えていたのと、真逆の学園生活になっている。

 1回目のテストが終わった頃、家から週末に帰ってこいと手紙が届いた。ここ最近、テスト勉強と、学友たちとの交流で忙しくて、帰っていなかったのだ。

 テストも終わったことだし帰省することにし、ぐずる王子様を撒いて帰って来た。

 家に着くと、前回同様、大騒ぎで迎えられたが、今度は人数が増えている。

 構成からいって、母の両親と伯父かな、と思ったら、やっぱりそうだった。
 彼らが名乗った後で、僕も名乗った。

「はじめまして。キース・ゲートです」

 祖母が、まあ、と言って扇子で口元を隠した。

「子供の頃のソフィとグレッグの声を足したみたい。まだ声替わりしていないものね。
 嬉しいわ。あなたが子供の内に、また会えるなんて思ってもいなかった」

 祖父は黙っている。
 伯父も黙っている。

 無口な質なんだな。それはありがたい。

 エントランスから場所を移し、応接間で思い思いに座ってから、お互いを改めて観察した。
 それから、ゲート家の祖父が、今日までの経緯を話してくれた。


「モートン侯爵家子息夫人、つまりお前の母親が、ランス伯爵家に行って、お前に会いに行って欲しいと頼んだそうだ。庭から忍び込んできたその日、初めて真直ぐお前を見る事が出来たと言っているそうだよ」

 ふ~ん。何でだろう。憎んでいると言っていたのに、難しすぎて僕にはわからない。
 やはり、母は謎の塊だ。

 ランス伯爵が、気遣わしげに僕を見ている。他の大人たちも同じくだ。
 この際だから、そのまま聞いてしまおうと思った。

「僕の事を憎んでいると言っていたので、何でそうなるのか、さっぱりわかりません」

 伯父のグレッグが、お前素直に育ったな、と言って笑った。

「それは、そうだろう。わかったらおかしいよ。
 つまりだな、ソフィからお前への拒絶感が消えたんだ。今はもう大丈夫だってことさ。だからって急に母親面する気もない。でも、祖父母や伯父の私達は付き合いを再開してくれってことだ。わかるかい?」

「解りやすいです。グレッグおじさんて頭いいですね」

 皆がほっとしたように笑い出した。

「そうだよ。こいつは口が立つのを買われて、外交官の仕事をしているんだ」

「よかった。王太子夫妻に、グレッグおじさんに性格が似ているって言われたから、どんな人なのか気になっていたんです」

「王太子夫妻と会ったのかい? どこで?」

 ゲート家の祖父母も驚いている。そういえば、話していなかった。
 なるべく近付かないようにすると言った手前、バツが悪いが、黙っていてもいずれ知れてしまうだろう。

「すみません。ジョン王子に誘われて家に行ったら、四人でお茶をすることになって、そこでちょっと話しました」

しおりを挟む
感想 269

あなたにおすすめの小説

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

いくつもの、最期の願い

しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。 夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。 そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。 メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。 死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。

【本編完結】アルウェンの結婚

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
シャトレ侯爵家の嫡女として生まれ育ったアルウェンは、婚約者で初恋の相手でもある二歳年上のユランと、半年後に結婚を控え幸せの絶頂にいた。 しかし皇帝が突然の病に倒れ、生母の違う二人の皇子の対立を危惧した重臣たちは、帝国内で最も権勢を誇るシャトレ侯爵家から皇太子妃を迎えることで、内乱を未然に防ごうとした。 本来であれば、婚約者のいないアルウェンの妹が嫁ぐのに相応しい。 しかし、人々から恐れられる皇太子サリオンに嫁ぐことを拒否した妹シンシアは、アルウェンからユランを奪ってしまう。 失意の中、結婚式は執り行われ、皇太子との愛のない結婚生活が始まった。 孤独な日々を送るアルウェンだったが、サリオンの意外な過去を知り、ふたりは少しずつ距離を縮めて行く……。

【完結】どうか私を思い出さないで

miniko
恋愛
コーデリアとアルバートは相思相愛の婚約者同士だった。 一年後には学園を卒業し、正式に婚姻を結ぶはずだったのだが……。 ある事件が原因で、二人を取り巻く状況が大きく変化してしまう。 コーデリアはアルバートの足手まといになりたくなくて、身を切る思いで別れを決意した。 「貴方に触れるのは、きっとこれが最後になるのね」 それなのに、運命は二人を再び引き寄せる。 「たとえ記憶を失ったとしても、きっと僕は、何度でも君に恋をする」

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

処理中です...