氷の貴婦人

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第二章 キースの寄宿学校生活

年末パーティー夜の部

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 夜になり、大人用の夜会の会場が開かれると、着飾った男女が続々と入場し始めた。

 昼の部に出席していた人達も、衣装を替えて再びやってきている。
 昼と夜のドレスコードは違う。夜の方が、より華やかになる。女性のドレスは肌の露出も多くなり、ヘアスタイルや装飾品含め、艶やかさを加える。

 会場に入った人々は、思い思いに集まり、または座り心地の良い椅子に陣取り、会場を眺め回している。

 一番人が集中している場所にソフィがいる。それはここ数年の約束事のようなものだ。

 そのソフィが変わった。
 今までのソフィにもう一つ新しい顔が加わったのだ。とても華やかで生き生きした人間の女の顔というのか。

 今までは、妖精との混血ですと言われても頷けるような、どこか人間離れした様子が魅力だったのが、それに血が通った。

 その威力は絶大だ。
 昼の部でキースに向けた笑顔は、周囲に被弾し、彼の周りの貴族子弟達をなぎ倒したそうだ。
 可哀想に。免疫が無い少年たちにとっては災厄だ。二、三年は、他の女に目がいかないことだろう。

 口の悪い男がこう言っている。

「中世だったら、即刻、魔女認定だよ。今日の様子を見て、魅力的すぎて魔女だと言われた女性が、過去にもいたと確信したね」


 王がパーティの最初の挨拶を行い、それに対してニコラスが臣下代表として挨拶を返した。例年は公爵家の当主が行うが、今年は皆、体調や年齢、領地の問題などで都合が悪かったので、モートン家が指名された。

 次期当主のニコラスが立派に挨拶を務め、その後に王と王妃、次に王太子夫妻、次にニコラスとソフィが踊った。

 どのカップルも存在感の大きさと、美しさは通常人の群を抜いている。

 見守る貴族達はため息を付いて見惚れていた。

 曲の途中から少しずつ、他の者達が踊りに加わり始め、それは次第に増えていった。そして、華やかにパーティが始まった。


 その様子を壁際に立って静かに見ている男がいた。グレッグだった。

 いつもは陽気で派手な彼が、とても静かに目立たないように振る舞っている。
 気付いた人が居れば、不思議がったことだろう。

 ゲート伯爵夫妻が人に囲まれている。今までは、華やかな場に出ず、控えめにしていたので、家中の様子はほとんど外部に聞こえてこなかったのだ。

 アトレーがどうしているか、子供はどうなったのか、聞きたい人はたくさんいた。

 キースが学園に入学し、子供のコミュニティで受け入れられたこと。そして、ソフィがキースを受け入れたことが公になった今、ゲート夫妻は注目の的だった。

 今までは、ランス家の人達に対しても、その話題はタブーだったのだ。
 興味の中心はアトレーと子供で、マーシャの事は付けたしくらいのものだった。マーシャは存在感が小さすぎて単なる脇役でしかなく、大して興味を掻き立てないのだった。

 社交の場は俄然活気付いた。



 グレッグは王太子夫妻のそばに、目立たないように近付いて行き、二人が挨拶やらダンスから解放された隙間を見計らい、声をかけた。

「今、少しだけ、いいでしょうか」


「やあ、久しぶりだな。グレッグ。帰国していたんだな」

 外国での勤務のせいだけではなく、不在のアトレーの影が二人の間に立ちはだかり、なんとなく昔のような付き合いがしにくくなっていた。

 グレッグが、友人としての顔で話しかけるのは久しぶりだ。

 王太子夫妻も、敏感に感じ取り、声を小さくした。

「なんだい?」

「この後、話が出来ないだろうか。アトレーとキースの件だ」

 二人は今夜の予定を頭に浮かべた。二時間後なら、自室に戻っている。

「二時間後に僕の部屋でいいか?」

「うん、ありがとう。良いウイスキーを手土産に、伺わせて貰うよ」

「侍従のバースに伝えておく。声を掛けて案内して貰ってくれ」

 それだけ話し、せいぜい3分ほどで、側を離れた。

 グレッグは大きな体をしているのに、目立たないように振る舞うことが出来る。学生時代、授業をサボるために身につけた技だ。
 王太子とアトレーはだめだった。どうやっても目立ってしまう。

 サイルスは久しぶりに、学生時代を思い出してしまい、それを振り払った。今まで勤めて思い出さないようにしてきたものだ。

 しかし、時代は動き、世代は交代していく。彼らの事を考える時だ。

 ローラが、侍従に向かって手を上げて、こちらに呼んだ。

「じゃあ、バースにウイスキー二本と、つまみと、良いワインを頼んでおくわね」

「おい、そんなに、飲まないぞ」

「いいえ、きっと私に感謝するわ。たぶん、4時間後にね」

 それは、正しい予言だった。


 二時間後に部屋のドアがノックされ、グレッグが案内されてきた。

「やあ。こんばんは。久しぶりだな。友人のサイルス君とローラ嬢」

「本当に」

 手土産だよ、と隣国の高級ウイスキーのラベルを二人に見せる。
 なかなか手に入らない幻のウイスキーだ。瓶を侍従に渡し、グラスと共に出して欲しいと頼んだ。

「今日は、時間を空けてくれてありがとう。大きなイベントの後で疲れているだろうけど、その時が一番スケジュールの穴場なのも知っているのでね」

「うん、いいよ。私たちも聞きたいことがあるし、伝えたいこともあるんだ」


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