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目を覚ましたルースは一瞬ここがどこかわからず戸惑った。慣れ親しんだ自分の部屋だとわかるとさっきまで見ていた夢とは違う場所にいることに無性に寂しさがこみ上げてくる。
(……アルレーネのことを聞いたからか)
ルースは大怪我を負って川辺に倒れていたところを近くの村人たちに助けられた。辛うじて名前だけは覚えていたもののそれ以外の記憶は思い出せず身元がわかる物も持っていなかったため、怪我が治った後も村に住まわせてもらった。
気の良い彼らと過ごすうちにルースはこの村が自分の家なのだと実感し、たくさんの家族たちができたことを誇りに思うようになった。しかし、何か大切なものを失ってしまったように心にはいつもぽっかりと穴が空いており1人になると悲しみがこみ上げてきた。
そんな自分を元気づけてくれたのが怪我の治療をしてくれた薬師のアルレーネだった。しっかり者の彼女は「助けてあげた分しっかり働いてもらうわよ」とルースをくたくたになるまであちこち連れまわした。そのうちにルースが植物に興味があるとわかると助手として傍に置いて自分の知識を教えてくれた。
ルースはいつかすごい商品を作って愛する村のためにがっぽり儲けるのだと熱く語るアルレーネに惹かれ、彼女の手伝いをしながら作った品を売り込みにあちこちの街を回った。
そんなある日、遠出をした街でルースは男性に声をかけられた。学生時代からの友人だという男爵は無事を喜んだが、ルースが記憶を失くしていると知ると深刻な顔をした。
「ルース、新しい生活に馴染んでいるおまえには酷なことを言うが。おまえには王都に結婚したばかりの夫人がいる。彼女もお兄さんたちも今もおまえを探していて、帰りを待っている」
自分の行方を探していた家族と帰りを待つ妻がいると聞いてルースは胸がどくりと脈打つのを感じ、反射的に手を当てた。
(俺に妻がいる?)
妻の名前を聞いた時に「そうだ、サティアが帰りを待っている」とどこからか自分の声が聞こえ、自分が失ったものは彼女なのだとわかった。
(そうだ、サティア。俺は彼女のところに帰らないといけない。しかし……)
顔すらも思い出せない彼女の元に早く帰らないといけないと焦りを感じる反面、今の自分の家族のアルレーネや村人たちと離れたくないと強い拒絶を感じる。
ルースの迷いを感じとったのか。男爵は気の毒そうに「良い返事を待っているよ」と考える時間をくれた。
2つの反発する想いに憔悴して帰って来たルースをアルレーネは心配そうに出迎えてくれたが、事情を聞くと「元の家族のところに帰りな」ときっぱりと言った。そして、見放されたのかとショックを受けるルースを静かに諭した。
「あんたは律儀な男だから、このままあんたを待っている優しい奥さんたちを忘れてしまったら一生後悔する。だから、あんたの家に帰って大事な家族たちに会ってうんと安心させてやってきな。で、それでもどうしてもここで私にこき使われたいって言うんだったら。また助手にしてやるよ」
ルースはその言葉に背を押されて元の自分の家に帰ることを決めた。
(……アルレーネのことを聞いたからか)
ルースは大怪我を負って川辺に倒れていたところを近くの村人たちに助けられた。辛うじて名前だけは覚えていたもののそれ以外の記憶は思い出せず身元がわかる物も持っていなかったため、怪我が治った後も村に住まわせてもらった。
気の良い彼らと過ごすうちにルースはこの村が自分の家なのだと実感し、たくさんの家族たちができたことを誇りに思うようになった。しかし、何か大切なものを失ってしまったように心にはいつもぽっかりと穴が空いており1人になると悲しみがこみ上げてきた。
そんな自分を元気づけてくれたのが怪我の治療をしてくれた薬師のアルレーネだった。しっかり者の彼女は「助けてあげた分しっかり働いてもらうわよ」とルースをくたくたになるまであちこち連れまわした。そのうちにルースが植物に興味があるとわかると助手として傍に置いて自分の知識を教えてくれた。
ルースはいつかすごい商品を作って愛する村のためにがっぽり儲けるのだと熱く語るアルレーネに惹かれ、彼女の手伝いをしながら作った品を売り込みにあちこちの街を回った。
そんなある日、遠出をした街でルースは男性に声をかけられた。学生時代からの友人だという男爵は無事を喜んだが、ルースが記憶を失くしていると知ると深刻な顔をした。
「ルース、新しい生活に馴染んでいるおまえには酷なことを言うが。おまえには王都に結婚したばかりの夫人がいる。彼女もお兄さんたちも今もおまえを探していて、帰りを待っている」
自分の行方を探していた家族と帰りを待つ妻がいると聞いてルースは胸がどくりと脈打つのを感じ、反射的に手を当てた。
(俺に妻がいる?)
妻の名前を聞いた時に「そうだ、サティアが帰りを待っている」とどこからか自分の声が聞こえ、自分が失ったものは彼女なのだとわかった。
(そうだ、サティア。俺は彼女のところに帰らないといけない。しかし……)
顔すらも思い出せない彼女の元に早く帰らないといけないと焦りを感じる反面、今の自分の家族のアルレーネや村人たちと離れたくないと強い拒絶を感じる。
ルースの迷いを感じとったのか。男爵は気の毒そうに「良い返事を待っているよ」と考える時間をくれた。
2つの反発する想いに憔悴して帰って来たルースをアルレーネは心配そうに出迎えてくれたが、事情を聞くと「元の家族のところに帰りな」ときっぱりと言った。そして、見放されたのかとショックを受けるルースを静かに諭した。
「あんたは律儀な男だから、このままあんたを待っている優しい奥さんたちを忘れてしまったら一生後悔する。だから、あんたの家に帰って大事な家族たちに会ってうんと安心させてやってきな。で、それでもどうしてもここで私にこき使われたいって言うんだったら。また助手にしてやるよ」
ルースはその言葉に背を押されて元の自分の家に帰ることを決めた。
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