行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います

木蓮

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 ルースはサティアと離婚し、後任に仕事の引継ぎが終わり次第村に帰ることになった。それを聞いた兄はルースの気持ちに薄々気づいていたらしく

「おまえは昔から自分のしたいことを我慢していつも俺を支えてくれて助かったよ。本当にありがとうな。
サティアちゃんのことは任せろ、おまえがいないことを忘れるぐらい幸せにする。だから、おまえもめいっぱい幸せになれ。でも、たまには顔を出せよ」

 と、幼い子どもにするように頭をぐしゃぐしゃと撫でまわされた。ルースは父親のような温かで偉大な兄に認められたことに喜びがこみ上げてくるのを感じた。

(俺はこの家に帰って来て良いんだな……)

 クリフと話をしてからルースはいつも村に帰って愛するアルレーネと研究を続けたいと思いに囚われていた。けれどもサティアや兄たち優しい家族たちを裏切って嫌われたくないと、妻がいると知った時のように1人で悶々と思い悩んでいた。
 そんな答えのでない殻にこもってしまった自分を引っ張り出してくれたのがサティアだった。
 彼女は「ルースはいつも皆を幸せにしてくれているの。今度はあなたが幸せになって」と笑って、自分がしたいことをすれば良いと背を押してくれた。
 彼女と話しあううちにルースは愛するアルレーネはもちろん、家族のサティアやここの皆とも家族でいたいと望んでいることに気づいた。
 そんなルースの身勝手な望みにサティアは「もちろんよ、離れてもルースは私の大好きな人で大切な家族よ」と笑って受け入れてくれて。
 いつも傍にいてくれた彼女が変わらず自分と一緒にいてくれると知ってルースの目からはとめどなく涙が溢れた。それは未だに心の奥深くで眠る以前の自分が妻のサティアと離れる辛さに流した涙かもしれないし、今の自分がサティアに家族として受け入れられたことへの感謝かもしれない。ただ、以前と今の2人のルースは村と王都、どちらの家族も大事にしようと決意した。
 ルースとサティアは離れるまでの間一緒に過ごし、たくさんの思い出を作った。

 そして、村に帰る日。兄や商会の人間たちを始めとしたたくさんの人たちが見送りに来てくれた。皆がルースの新しい旅立ちを祝ってくれて。思わず目頭が熱くなると隣に立つサティアがそっと「あなたが皆を愛しているから、皆あなたが好きなのよ」とささやいた。そして、悪戯っぽく笑ってルースの手をそっと両手で包んだ。やわらかな感触に思わず驚くとサティアはにっこりと笑った。

「私もルースが大好きよ。だから、私のこと忘れないでね?」
「ああ、もちろんだ。必ず帰ってくるよ、約束する。……行ってくるよ、サティア」
「ええ、行ってらっしゃいルース。あなたのお手紙を楽しみにしているわ」

 馬車に乗ったルースはサティアと見送ってくれるたくさんの家族と友人たちが見えなくなるまで見つめ、彼らの姿を心に刻み付けた。
 ルースが乗った馬車を見送ると、サティアはいつも一緒にいた彼がいなくなってしまったことに少しだけ寂しさを感じた。けれども、旅立つ前に彼と交わした約束を思いだして顔を上げた。

「村を出る前に花を育てていたんだ。君にそっくりな愛らしい黄色い花だ。その花が咲いたら君に名前を付けてほしい」

(……ルース、あなたの大事なお庭も思い出も私が受け継いでいくわ)

 サティアはルースから受け継いだ彼の庭を思い浮かべた。彼が大事に育てた花はきっとあの美しい庭の彩りの1つになって、皆を笑顔にしてくれるだろう。
 ルースの新たな約束の言葉は幸せをまた1つ増やしてくれた。サティアはこの約束を大事に抱えて新たな一歩を踏み出した。

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ここまで読んでいただきましてありがとうございました!
連載開始からのたくさんのお気に入り、いいね、閲覧ありがとうございます! おかげさまで18日にはHOTランキング上位にも入れていただきまして、モニターの前で喜びで転げまわって汗だくになりました(笑)
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
(25.6.19)18時に見ましたらHOTランキング5位になっていました。たくさんの方々に読んでいただいた上に応援もいただきましてありがとうございます!! アイスを買ってきて祝います(笑)
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