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第四話 補って満ちるもの
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それは突然だった。
「システィーナ、お前にヴァルドリック卿を下賜することに決めた」
お父様――国王の言葉は、まるで余った備品の行き先を決めるような軽さだった。
「……はい?」
「いやあ、卿がどうしてもと言うんでな。彼の功績は国を三つ救うレベルだ。
それに対する報酬が「お前」で済むなら、安い……いや、最高に最適な縁だ」
「お父様! 娘を供物みたいな扱いで嫁がせないでくださいませ!」
思わず声が裏返った。
けれど父は少しも気にしていない。
「何を言う。行き遅れの第四王女と功績十分な軍団長。双方にとってこれ以上ない落としどころだろう」
落としどころ。今、わたしの人生が書類整理されている。
「第一、卿は礼儀も立場も申し分ない。顔もいい。それに――」
そこで父は妙に満足そうに頷いた。
「お前を欲しがっている」
……一番重たい情報を最後に足さないで。
「確認ですがわたしの意思は」
「もちろん尊重する」
一瞬、希望が芽生える。
「と言いたいところだが、ここまで話が進んでから断るのは国益的に少々面倒だ」
希望、即座に撤回。
「安心しろ。初夜までは丁重に扱うよう釘は刺してある」
そこ、安心ポイントじゃありません。
それでももう行き遅れから脱出している事実には正直かなり安堵していた。
そうして色々ありまして、現在は初夜の直前です。
人生、思ったよりも展開が早い。
「……失礼する」
扉の閉まる音が寝室の静けさを震わせた。
月光の下、軍服を脱ぎ捨てたアレスは薄い寝衣一枚で立っていた。
戦場を駆け抜けた肉体の質量と熱が息を詰まらせるほどに迫ってくる。
彼はベッドの傍で膝をつき、まるで聖遺物を前にした信者のように私を見つめた。
「システィーナ様……ようやく、この腕の中に」
震える指が頬に触れる。熱い。
行き遅れと嘲っていた自分が一瞬で女として目覚める。
……って、待って。今のわたし、何を期待してるの?
「……本当に私を欲しかったの?」
「欲しかった、では足りない。十年あなただけを想い続けてきた」
十年。
その重みが胸に沈む。
腰を抱き寄せられ、深い抱擁に思考が溶ける。首筋への口づけは優しく。けれど執拗に。
甘い痺れが全身を駆け巡る。
声が漏れる。
恥ずかしいけど止められない。
指が絡み、鼓動が肌越しに響き合う。
「……怖いか?」
「……あなたがこんなに震えているから、怖くないわ」
強大な軍団長の体が私の前でだけ小鹿のように震えていた。
その脆さが愛おしくて胸の奥から熱が溢れる。
私は彼の首に腕を回し、自ら唇を重ねた。
「システィーナ……愛している」
書類上の婚姻だったはずなのに。
今、この腕の中の熱だけは紛れもない本物だ。
「……アレス」
名前を呼んだ瞬間、彼の瞳に獣のような情熱が宿り理性の鎖が音を立てて切れた様だった。
背中を支える手が柔らかな寝台に沈み、彼の重みが覆い被さる。
……重い。でも、悪くない。
「もう、逃がさない。一寸の隙間も、残したくない」
「……愛している、システィーナ。ずっとこうしてあなたを私のものにしたかった」
彼の声が掠れている。
十年、待ち続けた男の声が。
灯りが消えた。
夜は深まっていく。
「システィーナ、お前にヴァルドリック卿を下賜することに決めた」
お父様――国王の言葉は、まるで余った備品の行き先を決めるような軽さだった。
「……はい?」
「いやあ、卿がどうしてもと言うんでな。彼の功績は国を三つ救うレベルだ。
それに対する報酬が「お前」で済むなら、安い……いや、最高に最適な縁だ」
「お父様! 娘を供物みたいな扱いで嫁がせないでくださいませ!」
思わず声が裏返った。
けれど父は少しも気にしていない。
「何を言う。行き遅れの第四王女と功績十分な軍団長。双方にとってこれ以上ない落としどころだろう」
落としどころ。今、わたしの人生が書類整理されている。
「第一、卿は礼儀も立場も申し分ない。顔もいい。それに――」
そこで父は妙に満足そうに頷いた。
「お前を欲しがっている」
……一番重たい情報を最後に足さないで。
「確認ですがわたしの意思は」
「もちろん尊重する」
一瞬、希望が芽生える。
「と言いたいところだが、ここまで話が進んでから断るのは国益的に少々面倒だ」
希望、即座に撤回。
「安心しろ。初夜までは丁重に扱うよう釘は刺してある」
そこ、安心ポイントじゃありません。
それでももう行き遅れから脱出している事実には正直かなり安堵していた。
そうして色々ありまして、現在は初夜の直前です。
人生、思ったよりも展開が早い。
「……失礼する」
扉の閉まる音が寝室の静けさを震わせた。
月光の下、軍服を脱ぎ捨てたアレスは薄い寝衣一枚で立っていた。
戦場を駆け抜けた肉体の質量と熱が息を詰まらせるほどに迫ってくる。
彼はベッドの傍で膝をつき、まるで聖遺物を前にした信者のように私を見つめた。
「システィーナ様……ようやく、この腕の中に」
震える指が頬に触れる。熱い。
行き遅れと嘲っていた自分が一瞬で女として目覚める。
……って、待って。今のわたし、何を期待してるの?
「……本当に私を欲しかったの?」
「欲しかった、では足りない。十年あなただけを想い続けてきた」
十年。
その重みが胸に沈む。
腰を抱き寄せられ、深い抱擁に思考が溶ける。首筋への口づけは優しく。けれど執拗に。
甘い痺れが全身を駆け巡る。
声が漏れる。
恥ずかしいけど止められない。
指が絡み、鼓動が肌越しに響き合う。
「……怖いか?」
「……あなたがこんなに震えているから、怖くないわ」
強大な軍団長の体が私の前でだけ小鹿のように震えていた。
その脆さが愛おしくて胸の奥から熱が溢れる。
私は彼の首に腕を回し、自ら唇を重ねた。
「システィーナ……愛している」
書類上の婚姻だったはずなのに。
今、この腕の中の熱だけは紛れもない本物だ。
「……アレス」
名前を呼んだ瞬間、彼の瞳に獣のような情熱が宿り理性の鎖が音を立てて切れた様だった。
背中を支える手が柔らかな寝台に沈み、彼の重みが覆い被さる。
……重い。でも、悪くない。
「もう、逃がさない。一寸の隙間も、残したくない」
「……愛している、システィーナ。ずっとこうしてあなたを私のものにしたかった」
彼の声が掠れている。
十年、待ち続けた男の声が。
灯りが消えた。
夜は深まっていく。
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