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三話 丸ごと愛す アレス視点
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最初に見たのは十五のデビュタントだった。
正直に言えば、
その夜は王女の顔なんて一人も覚える気はなかった。
貴族の娘が列を成して笑い、
未来の婚約先として値踏みされる、
あの空気が嫌いだったからだ。
だから視線を逸らした。
――のに。
中央から外れた場所で彼女だけが、
「自分は選ばれる側だ」と思っていない顔をしていた。
あれはまだ王女という役割になる前の人の気配だ。
役割を引き受ける前に、もう一度だけ自分を諦めた人間の目。
十五歳にして、
あんな目をしていいはずがない。
それからだ。
夜会のたびに、無意識に位置を確認するようになった。
彼女が立つ場所。
照明の角度。
誰が隣にいるか。
――まだ誰のものでもない。
それだけで、
胸の奥が静かに落ち着いた。
軍で功績を重ねたのは、
野心だけじゃない。
「いつか殿下を丸ごと包める男になる」
その考えが、いつの間にか当然の前提になっていた。
彼女が誰かに嫁ぐ前に。
政治の駒として消費される前に。
だから、戦った。
だから、生き残った。
だから、剣を血で汚すことも躊躇わなかった。
――下賜、という言葉を
起こってもおかしくない地位まで、自分を押し上げた。
その途中で、
王女の婚約話が何度か浮かんだ。
有力貴族。
同盟国。
王家にとって「都合のいい話」。
どれも少しずつ静かに消した。
誰かが情報を誤解し、
誰かが時期を逸し、
誰かが「今回は見送ろう」と判断する。
剣で斬るよりずっと簡単だった。
――俺が手を下したと
誰にも分からない形で。
彼女は気づいていない。
自分が「行き遅れ」と呼ばれるようになるまで、
どれだけ多くの道が意図的に閉じられてきたか。
でも、いい。
彼女が自分を守るために身につけた
あの距離感も、
一人で立つ癖も、
全部、俺は知っている。
十五の夜からずっと見てきた。
だから分かる。
ローストビーフを差し出したとき、
ほんの一瞬だけ戻った、
あの顔。
あれは、誰にも奪わせなかった時間の名残だ。
恋していないふり?
結構。
彼女が「待つ」ことをやめた瞬間を、
俺は見逃さない。
下賜でもいい。
命令でもいい。
制度でもいい。
どんな形でも構わない。
彼女が俺の視界から消えない限り。
――十五から始まった執着に、
今さら綺麗な名前なんて要らない。
丸ごと愛す用意は出来た。
許される機会は一度きり。
確実に貰い受ける。
正直に言えば、
その夜は王女の顔なんて一人も覚える気はなかった。
貴族の娘が列を成して笑い、
未来の婚約先として値踏みされる、
あの空気が嫌いだったからだ。
だから視線を逸らした。
――のに。
中央から外れた場所で彼女だけが、
「自分は選ばれる側だ」と思っていない顔をしていた。
あれはまだ王女という役割になる前の人の気配だ。
役割を引き受ける前に、もう一度だけ自分を諦めた人間の目。
十五歳にして、
あんな目をしていいはずがない。
それからだ。
夜会のたびに、無意識に位置を確認するようになった。
彼女が立つ場所。
照明の角度。
誰が隣にいるか。
――まだ誰のものでもない。
それだけで、
胸の奥が静かに落ち着いた。
軍で功績を重ねたのは、
野心だけじゃない。
「いつか殿下を丸ごと包める男になる」
その考えが、いつの間にか当然の前提になっていた。
彼女が誰かに嫁ぐ前に。
政治の駒として消費される前に。
だから、戦った。
だから、生き残った。
だから、剣を血で汚すことも躊躇わなかった。
――下賜、という言葉を
起こってもおかしくない地位まで、自分を押し上げた。
その途中で、
王女の婚約話が何度か浮かんだ。
有力貴族。
同盟国。
王家にとって「都合のいい話」。
どれも少しずつ静かに消した。
誰かが情報を誤解し、
誰かが時期を逸し、
誰かが「今回は見送ろう」と判断する。
剣で斬るよりずっと簡単だった。
――俺が手を下したと
誰にも分からない形で。
彼女は気づいていない。
自分が「行き遅れ」と呼ばれるようになるまで、
どれだけ多くの道が意図的に閉じられてきたか。
でも、いい。
彼女が自分を守るために身につけた
あの距離感も、
一人で立つ癖も、
全部、俺は知っている。
十五の夜からずっと見てきた。
だから分かる。
ローストビーフを差し出したとき、
ほんの一瞬だけ戻った、
あの顔。
あれは、誰にも奪わせなかった時間の名残だ。
恋していないふり?
結構。
彼女が「待つ」ことをやめた瞬間を、
俺は見逃さない。
下賜でもいい。
命令でもいい。
制度でもいい。
どんな形でも構わない。
彼女が俺の視界から消えない限り。
――十五から始まった執着に、
今さら綺麗な名前なんて要らない。
丸ごと愛す用意は出来た。
許される機会は一度きり。
確実に貰い受ける。
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