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episode02:アダブランカ王国
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クノリスは、追いかけてきたアンドレアに「仕事が山積みなんですよ!」と連れ去られてしまった。
入れ替わるようにミーナが「失礼いたします」と部屋の中へ入ってくる。
「アンドレアがうるさくて申し訳ありません」
「いいえ。大丈夫ですけど、クノリス王は、仕事放り出して私を迎えに来たんですか?」
リーリエの質問に、ミーナは「アンドレアはいつも大袈裟なだけです」と淡々と答えた。
「ところで、リーリエ姫。晩餐まで時間が少しありますし、湯あみをされて身なりを整えることをお勧めいたします」
「分かりました」
昨晩入ってからずっと馬車の中にいた。
アダブランカはグランドールに比べるとずっと温かい国だ。
リーリエは、少しばかり汗をかいていた。
浴室は、リーリエとクノリスの部屋の間にあった。
クノリスの部屋はしっかりと鍵がかかっているようで、勝手に出入りはできないようだ。
こちらにも勝手に入ってこられないように気を付けなくてはと思いながら歩いていたが、浴室の豪華な造りを見てすっかり気持ちが切り替わってしまった。
「アダブランカ王国は、本当に豪華な造りが好きなのね」
「こちらも前王時代の残りです。あまり使用されていなかったようですが、クノリス様がお気に召されて使われております」
「そういえば、クノリス王に、真夜中の浴槽には近づくなと言われたのだけど、彼はモンスターか何かに変身する呪いでもかかっているの?」
冗談めしかして尋ねてみると、ミーナの表情が一瞬固まったように感じたが、すぐに作ったような笑みを浮かべた。
「王は、誰も浴槽に近づけたがりません。それだけでなく、この部屋にも限られた人間しか近づけないようになっております。リーリエ様の側近になれる人間も私を含めて数人しかおりません」
アダブランカ王国は、巨大な軍事国家だ。
先ほど城の使用人の数を見た限り、数人しか人数をつけられない理由は人手不足という訳ではなさそうだ。
リーリエの考えは一つだった。
「もしかして、私との結婚を認められていないのね」
リーリエの質問に、ミーナは苦々しい表情を浮かべ、躊躇した後、小さく頷いた。
***
「認められていないというよりも、賛成派と反対派に分かれているのです」
「やはり、グランドール王国が奴隷生産国だから?」
「それもございます。アダブランカ王国は、ここ数年苦労をして奴隷撤廃を掲げました。ですから、わざわざ奴隷を生産している国と友好を結ぶなどと言う者もいることは事実です。そして、王には元々結婚予定の姫がいたので、反対派はそちらを推しておりました」
「じゃあ、なぜ私は呼ばれたの?」
昨晩クノリスが答えをはぐらかした答えを知りたかった。
リーリエは助けられて感謝しているが、どうしても求められている理由が分からないのだ。
他国の姫と婚約が決まっていたのであれば、尚更。
「それは……王が頑なにグランドール王国のリーリエ姫を嫁にと仰っておりまして譲らなかったのです」
「アダブランカ王国の領土を拡大するため?」
「……それ、王がおっしゃっていたのですか?」
「はっきりとは答えてはくれなかったけれど、そう言っていたわ」
「そうですか……」
ミーナは何か知っているような素振りを見せるので、「何か知っているのなら、教えてちょうだい」とリーリエは言った。
「いえ。私が知っているのは、王が他の国の姫との結婚を蹴ってまでリーリエ姫を第一王妃に欲しがったということだけです」
腑に落ちなかったが、ミーナはこれ以上答える気はなさそうだ。
クノリスにしても、ミーナにしても、何か他に隠していることがある気がしてならない。
それが、何かリーリエには分からない以上、詮索を続けても答えは出て来なさそうだった。
「ところで、リーリエ姫に質問があります」
「いいわ。あなたとは長い付き合いになりそうだし、色々教えて欲しいこともたくさんあるから」
「なぜ、あのようなドレスを召していたのですか?」
入れ替わるようにミーナが「失礼いたします」と部屋の中へ入ってくる。
「アンドレアがうるさくて申し訳ありません」
「いいえ。大丈夫ですけど、クノリス王は、仕事放り出して私を迎えに来たんですか?」
リーリエの質問に、ミーナは「アンドレアはいつも大袈裟なだけです」と淡々と答えた。
「ところで、リーリエ姫。晩餐まで時間が少しありますし、湯あみをされて身なりを整えることをお勧めいたします」
「分かりました」
昨晩入ってからずっと馬車の中にいた。
アダブランカはグランドールに比べるとずっと温かい国だ。
リーリエは、少しばかり汗をかいていた。
浴室は、リーリエとクノリスの部屋の間にあった。
クノリスの部屋はしっかりと鍵がかかっているようで、勝手に出入りはできないようだ。
こちらにも勝手に入ってこられないように気を付けなくてはと思いながら歩いていたが、浴室の豪華な造りを見てすっかり気持ちが切り替わってしまった。
「アダブランカ王国は、本当に豪華な造りが好きなのね」
「こちらも前王時代の残りです。あまり使用されていなかったようですが、クノリス様がお気に召されて使われております」
「そういえば、クノリス王に、真夜中の浴槽には近づくなと言われたのだけど、彼はモンスターか何かに変身する呪いでもかかっているの?」
冗談めしかして尋ねてみると、ミーナの表情が一瞬固まったように感じたが、すぐに作ったような笑みを浮かべた。
「王は、誰も浴槽に近づけたがりません。それだけでなく、この部屋にも限られた人間しか近づけないようになっております。リーリエ様の側近になれる人間も私を含めて数人しかおりません」
アダブランカ王国は、巨大な軍事国家だ。
先ほど城の使用人の数を見た限り、数人しか人数をつけられない理由は人手不足という訳ではなさそうだ。
リーリエの考えは一つだった。
「もしかして、私との結婚を認められていないのね」
リーリエの質問に、ミーナは苦々しい表情を浮かべ、躊躇した後、小さく頷いた。
***
「認められていないというよりも、賛成派と反対派に分かれているのです」
「やはり、グランドール王国が奴隷生産国だから?」
「それもございます。アダブランカ王国は、ここ数年苦労をして奴隷撤廃を掲げました。ですから、わざわざ奴隷を生産している国と友好を結ぶなどと言う者もいることは事実です。そして、王には元々結婚予定の姫がいたので、反対派はそちらを推しておりました」
「じゃあ、なぜ私は呼ばれたの?」
昨晩クノリスが答えをはぐらかした答えを知りたかった。
リーリエは助けられて感謝しているが、どうしても求められている理由が分からないのだ。
他国の姫と婚約が決まっていたのであれば、尚更。
「それは……王が頑なにグランドール王国のリーリエ姫を嫁にと仰っておりまして譲らなかったのです」
「アダブランカ王国の領土を拡大するため?」
「……それ、王がおっしゃっていたのですか?」
「はっきりとは答えてはくれなかったけれど、そう言っていたわ」
「そうですか……」
ミーナは何か知っているような素振りを見せるので、「何か知っているのなら、教えてちょうだい」とリーリエは言った。
「いえ。私が知っているのは、王が他の国の姫との結婚を蹴ってまでリーリエ姫を第一王妃に欲しがったということだけです」
腑に落ちなかったが、ミーナはこれ以上答える気はなさそうだ。
クノリスにしても、ミーナにしても、何か他に隠していることがある気がしてならない。
それが、何かリーリエには分からない以上、詮索を続けても答えは出て来なさそうだった。
「ところで、リーリエ姫に質問があります」
「いいわ。あなたとは長い付き合いになりそうだし、色々教えて欲しいこともたくさんあるから」
「なぜ、あのようなドレスを召していたのですか?」
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