麦畑の見える丘で

平木明日香

文字の大きさ
上 下
3 / 3
限りなく青に近い空の下で

第3話

しおりを挟む


 あの日、彼女に嘘をついた日、私は彼女に、全てのことを打ち明けるつもりだった。

 世界で起こっていること、嘘をつかなくちゃいけなかった理由を。


 雨が降り初めたあの日の朝、街の交差点の上で、学校に向かう彼女とすれ違う。

 彼女と別れて1億年後の世界、——地球という星の地上で、私たちは秒速1メートル圏内の距離にいた。


 彼女は私のことには気づかなかった。

 「私」が誰で、何をしようとしているか。


 当然だ。

 彼女は、私の存在など知る由もない。


 それは何百年も前から決まっていたことだ。

 何百年も、何千年も前から。


 それは世界の「確定事項」だった。

 私たちは元々、この星の地上に生まれてはいなかった。

 違う星、違う時空。

 解釈をすれば、いろんな表現も許されるほどに隔絶した地平線上の果て。

 そんな遠すぎる次元の狭間に、私たちはいたんだ。

 宇宙に飛び立つ、あの日までは。



 灰色に染まる空の下で、降りしきる雨水が前髪を伝って地面に落ちる。

 交錯する視線の横で、彼女は次の瞬間に何が起きるか、わからないようだった。


 「こんにちは」


 聞こえるはずもないその声色の先端に触れるように、彼女はこっちを見た。

 届いた音の先で、目と目が合う。


 …誰?


 すれ違い際の私を見て、そんなことを聞けるゆとりもなく、まるでビデオの静止ボタンを押したかのように彼女が立ち止まる。


 交差点の真ん中で、重なり合う2人の影。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...