サマーバケーション

平木明日香

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なんでアイツの体に…?

第7話

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 「…なん…で!?」


 落ち着いてと、周りから諭される。

 …いや、落ち着けないでしょ

 アイツになってんだよ!?

 私じゃなくなってんだよ??


 ……え

 ………でも

 …………ってことは、「私」は?


 母さんに尋ねた。

 「私」はどこに行ったんだって。

 自分でも何言ってんのかがよくわからない。

 だけどとにかく尋ねた。

 アイツになってるんだったら、私の体は…?

 それをうまく言葉にはできなかった。

 母さんも全然理解してくれなくて、周りと同じように落ち着けと言ってくる。


 “祐輔になってる”


 そのことを伝えようとして、とにかく夢中に訴えかけた。

 そしたら…


 「三夏…?三夏なら、すぐそこに…」


 …何言ってんの?

 母さんは、さっきまでいたベットの方を指差す。

 その方向に、視線を傾ける。


 ベットには人が横たわっていた。

 部屋を見渡せば、みんな治療を受けている。

 中には意識がある人も、全身包帯を撒かれた人もいる。

 母さんが指差した方向には、片足を天井から吊り下げられ、顔に包帯を巻かれている女の子の姿があった。

 それが“女の子”とわかったのは、髪が長いっていうのと、体つきがそうだったからだ。

 細い腕に、足。

 あの人がどうかしたの?

 私が聞いてんのは、「私」がどこにいるかであって…


 「私の娘も、同じ電車に乗っていたの…。でも、今は意識がなくて…」


 あんたの娘はここにいる。

 意識がない…?

 見ての通り、目が覚めた。

 ずっと眠ってたんでしょ?

 事故があって、それで…


 「私ならここにいる!」

 「…え?」


 祐輔の顔になっているせいか、母さんは不思議そうにこっちを見た。

 そんな顔しないでよ…

 何が起こってんのか知らないけど、「私」はここにいるって…!

 なんで顔が変わってんのか知らないよ?

 でも目の前にいるのは私。

 三夏だよ!



 「祐輔…、落ち着け」


 祐輔なんかじゃない。

 その言葉は虚しく響いた。

 誰も理解してくれないんだ。

 必死に訴えかけてんのに、落ち着いてと言ってくるばかりで。
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