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霊術院出のエリート
第188話
しおりを挟むバキキッ
霧雨には貫通力は備わっていない。
少なくとも、この場面で投じた霧雨の「矢」は、敵の肉体を貫くために投じられたものではなかった。
キョウカは状況に応じて霧雨の「モード」を切り替えられる。
彼女はあくまでクリーチャーを“捕える”ために矢を放っていた。
チサトとの連携は、最初からその“一点”に於いて注力されていた。
シールドに着弾した後、クリーチャーは翼を持ち上げる。
しかし思うように動けなかった。
チサトの「風」が、前方から押し寄せてきていた。
風による抵抗力。
翼を動かそうとするも、強風によって遮られる。
動きが拘束される中、シールドの表面には次々と霧雨の矢が降りかかった。
風は大気の中に動く。
そしてその大気の中にある水分は、すでにキョウカの“支配下“にある。
チサトの風は、大気中を泳ぐ“糸”となって、『霧雨』を誘導していた。
上空に張り巡らされた風の糸は、魔力の流れを紡いでいく。
矢が届く「領域」は、その魔力の流れに沿って何倍にも膨れ上がっていた。
それはチサトとキョウカが連携して初めて成せる“技”だった。
ストーミー・クラウドの領域。
その中心に、キョウカが息を吐く。
ストーミー・クラウドの役割は主に3つある。
1つは領域内の「壁」の生成。
これは外にクリーチャーが逃げ出さないための役割を担い、『結界』のための魔力が展開される。
2つ目は「流域」の形成。
キョウカの矢を誘導するための風域。
それは“自動追尾機能“とも言えるべきサポート性能を有しており、敵の移動に応じて味方の攻撃を”運ぶ”役割を担う。
そして3つ目が、魔力の「拡散」。
これは、霧雨の射程距離にも通じるところではあるが、攻撃を及ぼせる範囲が遠くなればなるほど、魔力の質や「量」が下降する傾向にある。
キョウカの矢の精度は、500m圏内であれば人間程度の大きさの対象を確実に射ることができるが、それ以上離れると少しずつ精度は落ちていく。
しかもそれは「止まっている」対象を前提にしている。
前述した通り、動いた対象を射るとなると、その射程距離はガクッと落ちる。
しかしチサトの「拡散」を用いれば、彼女の魔力流域を利用して「動く対象」への命中精度を高めることができる。
この「精度」は、すなわち魔力の「量」や「質」をも含んでいる。
流域によって攻撃を誘導できる「ルート」が形成され、そこに「拡散」による魔力の“輸送“が可能になることで、あらゆる領域への攻撃が実行できるようになる。
『霧雨・雨』
シールドに降りかかった数百本もの矢は、敵を「凍結」させるのに十分な”量”を伴っていた。
離脱が一歩早ければ、あるいは、矢の雨から逃れることができたかもしれない。
しかしすでに逃げ場はない。
チサトが風域を展開している限り、大気中を移動することは拘束具を付けられた状態とほとんど変わらない。
それに加え、霧雨の「威力」はストーミー・クラウドの風域を介して増大していた。
夥しい氷の矢が弱まることなく空中を移動したのは、チサトのサポート力があってこそだ。
シールドごと凍結させられたクリーチャーは地上へと落下を始めた。
体は白く凍り、翼は彫刻のように固まっていた。
落下を始める頃にはすでに事切れていた。
体の機能を停止させるほどの魔力が、クリーチャーの命を呑み込んでいた。
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