COLOR CONTACT 〜『堕天使』と呼ばれた最強の悪魔の血を引く女子高生は、平凡な日常を取り戻したい〜【1巻】

じゃがマヨ

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霊術院出のエリート

第189話

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 天守閣の影へと潜り込んでいた数体は、矢を掻い潜るための飛行を続けていた。

 影に入り込むや否や旋回し、天守閣の壁スレスレを飛ぶ。

 何本かの矢は屋根に接触し、散り散りとなった氷の結晶が宝石のようにあたりに飛び散った。

 キラキラと光に乱反射しながら、無数の粒が飛散していく。

 クリーチャーを追尾する矢の数は、距離を重ねるごとに低下していった。

 屋根と屋根の隙間を通りすぎる飛行は、矢の追跡を逃れるだけの“スペース”を着実に増やしていた。

 線から点へ。

 ——点から、線へ。

 直線的な動きは、矢が命中する確率、及びその「時間」を高めてしまう要因になる。

 クリーチャーは本能的に動く。

 上下左右、その全方向へのバリエーションを空間内に散りばめる。

 時折斜めに軌道を傾け、風を蹴る。

 急加速したように上昇したかと思えば、また、下降する。

 天守閣の周りを密着するように飛びながら、両者の軌道は入り組んだ線を紡いでいった。

 自由に空間を使うクリーチャーが、優勢に飛行範囲をコントロールしているように見えた。


 途中までは。


 クリーチャーを追う矢の数は減少していたが、それは遮蔽物とぶつかったことによる落下が“全て”ではなかった。

 クリーチャーが飛ぶ飛行圏内は、すでにチサトの領域だ。

 そして矢の数は数百本にも及ぶ。

 “自由に空間を動く”

 この場合で使える実質的な「スペース」は、クリーチャーが使える「自由」とは比較にならないほどの距離と奥行きを有していた。

 空間や時間はすでにチサトの掌の上だ。

 滑空を続けるクリーチャーの目の前に現れたのは、天守閣の壁の向こうから先回りしてくる大量の矢だった。

 クリーチャーを追跡していた「霧雨」の一部は、チサトによって掬い上げられ、逆の方向へと軌道を変えていた。

 クリーチャーを追う矢の数が減少したのはそのためだった。

 すでに半分近くは、先回りするように反対側への移動を開始していた。

 そして同時に、クリーチャーの意識を誤魔化せるだけの“カモフラージュ“も施していた。

 追跡する矢の数は、それ相応の魔力量を持っている。

 クリーチャーは「目」で矢の動きを認識する反面、自らの器官を使って魔力の動きを捉え続けていた。

 チサトの風域は、空間内のエーテル濃度をも操作できた。

 どれだけの矢が追ってきているか。

 その「認識」を得るためのクリーチャーの感知器官を阻害する。

 『ダミー』を擬似的に作り出していた。

 チサトならではの工夫だ。


 遮蔽物として使っていた天守閣の壁は、一時的な視界の死角としても効果を発していた。

 しかしキョウカやチサトにとっては、「死角」にはならなかった。

 飛行に意識を集中していたクリーチャーは、まさか目の前から矢の追跡が迫ってくるとは思いしなかった。

 エーテル粒子で構成されたあらゆるオブジェクトは、「複眼」を持つクリーチャーにとっては遮蔽物になり得ないケースが多いが、この場面は違った。

 後方への意識に集中した視点は、空間内に幾つかの死角を作るだけの意識の阻害を断続的にもたらしていた。

 追尾してくる矢が接触すれば、そこに「死」がある。

 その事象への対処に気を取られるあまり、前方から大量の矢が降ってくるとは思いもしなかった。

 もっとも、その「死角」を生み出したのは、チサトのダミーがあってこそだった。

 チサトのダミーは擬似的な矢の気配を作り出すことはもちろん、気配を一時的に”薄める”ことも可能だった。

 強烈な風によって音がかき消されるのと同じように、「風」を使って魔力流域を乱すことで、一時的な「認識」のズレを起こすことができる。

 飛行に意識を集中させていたクリーチャーに対しては、決定打とも言うべき有効な影響を及ぼしていた。
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