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93「余韻」
しおりを挟む玄関まで見送られ、教員寮を後にした。
ぼんやりとする頭のまま足を動かして海寮までただ歩く。
「……」
足取りがおぼつかない。
……、…う、うう…。
なんかまだ股の間が変な感じだ…。
今は男の姿なのに…。
”もし余裕あったら、女の子の身体でも補給してみてね”
玄関で靴を履いている時、佐々木先生が背後から声を掛けて来たのだが初めての事ばかりが起きたせいで何か考える余裕もなく気のない返事をしてふらふらと出てきてしまった。
自室にたどり着くと、一直線にベッドへ向かい寝ころぶ。
ふーっと息をついて天井を仰ぎながらも頭はまだふわふわとしていた。
…す、すごかった…。
自分の身体なのに、全然わけわからなくて…されるがままだったけど…。
女の子の、からだ…って…あんな感じなんだ…。
「…っ…♡」
男の身体でも、するの…気持ちいいけど、それとは違った感覚だった。
知ることもなかっただろう感覚を知ってしまった。
中で…指を動かされただけで、じわじわって気持ちよくなって…。
ク、クリ……、も…一緒に弄られたら頭の中まっしろになるくらいびりびりって…。
ぎゅうっと身体を抱き寄せてぶるりと震える。
熱い息を吐いて気持ちを落ち着かせようとするが、全然治まらない。
教員寮を出てからずっと身体がおかしい。
身体が疼いてる。
今の俺にはないところがじんじんしているような気さえする。
こ、こんなの、知っちゃったら…俺…♡
トントン。
「…っ!」
ドアのノック音にぱちっと目を開ける。
焦って起き上がるとドア越しに三ツ矢の声が聞こえる。
「律ちゃんいる?」
ふっと、息を吸って深呼吸をしてから、扉を開くと三ツ矢と壮馬が立っていた。
部屋へ招き入れると早々に三ツ矢が口を開く。
「……先生のとこ行ったんだよね…、大丈夫だった?」
「………えっ?……あ、ああ、………うん………」
ドキッと心音が上がる。
ご飯を食べた後三人で寮部屋へ戻ろうとしていたところを佐々木先生に呼び止められたから、三ツ矢たちは何してたか多分察してるかと思うと少し気まずい…。
「…その、足りてないって話は一応聞いてるけど…あいつに変な事されなかった?」
「……や、…ぜんぜん、大丈夫……」
心配するように問われ目線が泳ぐ。
先ほどの余韻が残った身体に力を入れて落ち着けようとするが、じわじわと熱くなる頬はごまかせない程赤くなってしまった。
相変わらず嘘が下手だな。
これじゃ、なにかあったとバレバレじゃないか…。
「…俺、明後日だから、…その…律ちゃんが嫌じゃなかったらいっぱい付き合うからね」
俺の反応に何を思ったかはわからなかったが、眉を寄せながらそっと頬を撫でられる。
三ツ矢の眼差しは心配している色を含んでいてきっと善意で言ってくれているのだろう。
撫でられた頬から伝わる指先の体温に思わず頷いてしまった。
「え?…ええっと…その、うん…ありがとう…」
俺の返事に、三ツ矢が満足そうに「うん…」と微笑む。
その空気を割くように壮馬が咳払いをする。
思わずはっとして壮馬へ視線を送ると、むすっとした表情で俺たちのやり取りを見ていた。
「律」
「そ、壮馬?どうしたの?」
「明日は俺だ、こいつに頼らんでも俺がなんとかしてやる」
「…な、なんとかって…」
「わ、ちょっと壮馬くんっ、いま俺と話してたんだけどー?」
むうー!とほっぺが膨らませる勢いで文句を垂れる三ツ矢に壮馬は冷ややかな視線を送るだけだった。
なんで三ツ矢に張り合ってるんだろ。
二人のやりとりをどこか他人事のように聞きながらも内心はドキドキバクバクと忙しなく心臓が跳ねていた。
また、あんなことをする…ってことは……壮馬や三ツ矢に……触られて、…ゆ、指で……?
いやいやいやいや……っ!
「さ、さすがに、…あんなこと二人にしてもらうわけには…」
ぽそっと先ほど事を思い出し呟いた。
女の子の身体の時の方が効率がいいみたいで、精気の増え方も多いらしいが…壮馬や三ツ矢に先生にされたみたいな事されるのはちょっと…いや…大分恥ずかしい。
た、確かに女の子の身体はすごかったけど…!けども…!
今だってキスしてもらってるだけで充分助かってるのにそれ以上をお願いするのは気が引ける。
ぎゅっと目を閉じてふっと首を振る。
むりむりむり……!
シン、と室内の音が止んだ。
不思議に思いながらそろりと目を開くと、こちらを見たまま黙り込んでいる壮馬と三ツ矢。
急に静かになってしまった二人をきょろきょろと交互に見る。
え、なに?どうしたんだろう…。
「律、あんなことってなんだ」
「律ちゃん?なに、あんなことって」
ほぼ同時に名前を呼ばれずいっと迫られてたじろぐ。
「えっ?…いや、あの…」
完全に失言だ。
つい呟いてしまった言葉に二人が食いついてきた。
なぜか室内の温度が下がった気がする。
冷え冷えとした室内で壮馬と三ツ矢から無言の圧力をありありと感じた。
あ……これは、言わないと開放してもらえないやつ……。
なんで俺はいつも余計な事を…。
失態を憂いても仕方ない、重々しく口を開いた。
「……その、女の子の身体の時の方が、精気の増え方がいいらしくて…、触ってもらったり…とか…しただけだよ…」
具体的な内容は伏せてふわっと伝える。
ちらりと、二人の様子を伺うと両者それぞれの反応を見せていた。
壮馬は苦い顔をして考え込んでいて、三ツ矢はなにやら興奮したように顔が赤くなっていた。
「だけ?…だけじゃねーだろ…お前な、それを早く言えよ…」
「……ま、まじか………、やば……」
眉を寄せた壮馬がぶっきらぼうに首を捻りながらため息を付いた。
三ツ矢はぼそっと呟いて顔を両手で覆うと唇をぎゅっと噛み締めている。
「あ?おい、お前…いま何考えた?変な事考えてないだろうな」
「え?…えー?…全然…考えてないって…」
壮馬に迫られて、三ツ矢がにやけそうになる口元を隠しながら首を振る。
えへへ、と誤魔化し笑いをしている三ツ矢を舌打ちしながら一瞥したあと壮馬がこちらへ向き直ると今度は俺をじとっと睨む。
「…つまりお前は佐々木に身体を触られたってことか」
「ッえ!……まあ、その…………はい…そうです」
壮馬の睨みに頷くしかなかった。
恥ずかしすぎる。こんなことを自白させられるなんて…。
「どこまで?」
「律ちゃん、それ重要だよ。俺も知りたい」
「え、ええ?」
二人して真剣な顔をして聞いて来るので自然と身体が後ろへ下がりそうになるが、ソファの上三人で座っているせいで身動きは取れなかった。
「……い、言わないとだめ?」
暗に言いたくないと匂わせて見るが目の前の二人は呆れたように首を縦に振った。
…で、ですよね…。
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