山之神

TAKA

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振り珠の祭り

祭りの前

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「巽さん、君に頼みがあるんだが」

 親方様と呼ばれる老人がさくらの淹れたお茶を飲みながら静かに言った。

 村に戻ってから10日が経っていた。

 あっという間だった。特に何をした訳ではなく、朝ご飯のあと少し外を歩くと気がついたら夕方になっていた。そしてさくらの作るご飯を食べさくらと寝る毎日だった。

 いつも晩ご飯のあといきり立った股間とは裏腹に意識が薄れ、薄く意識が戻るとさくらが上になって昼間とは別人のように妖しく腰を動かしていた。さくらとSEXをしているという実感はなく夢を見ているようなふわふわした感覚だったが、これは現実だと心の奥では分かっていた。

 意識がはっきりとした状態でさくらを抱きたい、この手で胸をもみ下半身を触り、上になってさくらの中に深く突き入れたいと思ったが、食事をすると必ず頭がくらくらし意識が薄れてしまった。

 一度、食事をせずにいようと思い暫く箸をつけずに我慢したことがあったが、目の前に出された料理の誘惑に抗うことはできず、気がつくと一気に料理を掻き込んでいた。それからは無駄な抵抗は止めることにした。

 今日は朝の食事の時にさくらから老人が呼んでいると話があり、食事のあと老人が神主を務める霧山神社に2人で来たのだった。今のところ意識はしっかりしていた。

「実は3日後の新月の時に村の大事な祭りがあってな、それの手伝いをしてほしいんだが・・・」

「祭りですか・・・。それは構いませんが、私のような余所者でも大丈夫でしょうか」

 正直、村に来たばっかりで何も分からず村人とも全然交流がない中で祭りの手伝いと言われてもどうしていいか分からなかった。

「いや、なに、手伝いと言っても大したことじゃない。山神さまへお供えを届ける役目をしてもらいたいんだ」

「えっ、それこそ大事なことじゃないんですか。私のような余所者には無理です」

 そう言って断った。昔から目立つことは好きではなかった。

 老人の目がスッと細くなった。その目を見たとたん背筋が凍りつき金縛りにあったように声が出せなくなった。鼓動が早くなり汗が吹き出した。心の奥で本能が警鐘を鳴らしていた。

「君はさくらと一緒になるんだろう。言わば私の後継者だ。十分に資格はあるはずだがね」

 優しい声で教え諭すように老人は言った。だが、その顔に表情はなくその目には何の感情も見えなかった。

「じゃあ頼んだよ。当日の午後3時から祭りは始まるから、それまでに来るように。細かなことはさくらに聞くように」

 そう言うと老人は出ていった。襖が閉まるとやっと体が動くようになったが、暫くは体が震えて立てなかった。

「ふー、怖かった。怒らせたかな・・・」

 さくらのお祖父さんを怒らせた上に格好悪いところを見せてしまったという思いもあり取り繕うように言いながらさくらの方を見ると、見たこともないきつい目でこちらを睨んでいた。その顔は怒りで赤黒くなり目には憎しみの光さえ宿っているように見えた。

 それ以降、さくらは目も合わせず、家に戻るまで一言も口を聞かなかった。

 家でさくらが淹れたお茶を飲み落ち着いたところで、改めてさくらに謝った。

「あなたは何も分かっていない。親方様は絶対なの。親方様の言うことに逆らうなんてあってはならないことなの。いい、覚えておきなさい。ここでは親方様の言うことが全てなの」

 低い声でさくらが言った。さくらの怒りが解けておらず、その怒りが自分の身内への想いからくる怒りとも違う感じがしたため戸惑ってしまい、何も言い返せなかった。

「あれ・・・、ここは・・・」

 気がつくと薄暗い部屋の中で1人寝ていた。いつものように記憶が飛んでいた。その部屋はいつもより一回り小さな部屋だった。いつもなら直ぐに食事の膳を持ったさくらが現れるが、暫く待ってもさくらは現れなかった。

「な、な、なんだこれ。おい、さくら、おい、誰か、誰かいないのか」

 いつまで待っても誰も現れず、電灯すらない部屋は真っ暗になっていた。お腹もすいたのでさくらを探しに行こうと思い襖を開けた。

 そこには木でできた格子があり廊下に出られなくなっていた。他の襖を開けてみたが全て同じようになっており、部屋からは一歩も出られなかった。

「おい、おい、誰か、さくら、おい」

 何度も叫んだが誰も現れる気配がなかった。

 そのうちお腹がすいて目眩がするようになった。頭の中は食べもののことで一杯になり涎が止まらなかった。胃が食べ物を求めきりきり痛んだ。

「食べ物、なんでもいいから、何か食べさせてくれ」

 大声で喚いたが無駄だった。

 いい大人が1食ぐらい我慢できないのかと自分でも不思議だったが、体は食べ物を求め続けていた。

「あら、汚いわね」

 いつの間にかさくらが格子の向こうに立っていた。その顔は無表情だった。

「さくら、頼む、頼むから何か食べさせてくれ」

 格子にしがみつきながら訴えた。

「それは駄目なの」

 冷たい目でさくらが言った。

「あなた、山神さまへお供えを届ける役目になったでしょ。これから祭りの日まで飲まず食わずで過ごさなければならないの。村の決まりよ」

 飲まず食わずと聞いたとき怒りが体の奥から沸いてきた。言葉にならない声をあげ、格子に突っ込んでいった。格子が壊れるはずもなく額が割れ血が流れたが、不思議と痛みはなかった。
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