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振り珠の祭り
振り珠の祭り
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「では、今より振り珠の祭りを始めます」
親方様と呼ばれる老人が神主の衣装を着ておごそかに宣言し祭りは始まった。
そこは神社の裏手の広場のような場所で、すぐ後ろに崖があり山の奥に向かって大きな洞窟が口を開けていた。
村長の谷が笙を吹き、校長の田中が龍笛を吹き、駐在の西田が楽太鼓を叩き、林業の黒澤が琵琶を弾き、役場の大森が和琴を弾いていた。
その雅楽に合わせ、刀を下げ白装束を着たさくらと3人の仮面を被った男が神楽を舞っていた。
裸で手足を縛られ地面に横たわった状態でそれを見ていた。
さっきまであの部屋に閉じ込められていた。食べ物だけでなく水の一滴すら与えられなかった。苦しかった。頭の中は食べ物のことで一杯だった。眠ることもできず、空腹で痛む胃を押さえながらのたうち回った。悔しかったのは体の中に入るものは何もなかったのに、体の外に出るものは普通に出たことだった。顔は汗、涙、鼻水、涎、体は汚物にまみれた。
役場の大森と林業の黒澤が迎えに来た。汚物まみれでも嫌がる素振りを見せずに淡々と着ていた服を脱がせ始めた。残った力を振り絞り暴れたが簡単にねじ伏せられ手足を縛られた。その後、風呂場で頭から水をかけられここに連れてこられた。
辺りが暗くなり篝火の明かりがはっきりとそれと分かるようになるにつれ、雅楽の音が大きくなった。それに合わせるように神楽もより大きく激しいものへと変わっていった。
神楽を見ているうちに頭がくらくらしてきた。自分の体が自分のものではないような不思議な感覚だった。
いつの間にか老人は白い着物を着た5人の子供と一緒に踊っていた。子供たちは抜き身の刀を手に踊る老人の後について同じように飛び跳ねていた。その顔は幸せに満ちていた。
子供たちが真ん中に腰を下ろし、その回りを囲むように老人とさくら、3人の仮面の男が踊っていた。
老人が躍りをやめた。子供の1人が立ち上がり、老人の方を向いて両手を合わせお辞儀をするように深く頭を垂れた。さくら達4人の躍りは続いていた。
「あっ」
老人が子供の横に移動し手にしていた刀を振り上げたと思った瞬間、それを素早く振り下ろした。刀は見事に子供の首を切断していた。
首のない体からは血が吹き出し、雨のように周りに降り注いだ。さくらが愛おしそうにその首を拾い胸に抱いた。その子供の顔はさっき踊っていた時と同じで、幸せそうに笑っているように見えた。
躍りは続いていた。子供たちは目の前で仲間の首がはねられたのに怖がることもなく、次を志願するように立ち上がり手を上げていた。
狂っていた。ここにいる全員が狂っていると思った。
「やめろ、なんでこんな・・・」
大声を出したが雅楽の音にかき消され声は届かなかった。
そうしている間に2人目の子供の首がはねられた。その子供の顔も幸せそうだった。残された子供たちは仲間の血を浴びながら次が自分になるよう強く訴えていた。
見ていられなかった。手足が縛られており体に力が入らなかったが、何とかこの場から逃れようと地面を這った。
「ひっ」
目の前に刀が突き刺さった。全身が血で真っ赤に染まったさくらが立っていた。
「あら、逃げちゃだめよ。あなたには大事な役目があるでしょ」
そう言ってさくらは束ねていた髪を振りほどいた。下から見上げたさくらの顔は朦朧とした意識の中でいつも見ていた恍惚とした表情をしていた。
気がつくと雅楽の音が止み、周りをそれぞれ子供の首を持った5人に取り囲まれていた。
「な、な、なんなんだ、あんたら・・・、一体何者なんだ」
5人に見下ろされながら、震える体で精一杯の大声を出した。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ」
仮面の男の1人が仮面を外しながら言った。何処かで聞いたような声だった。
「あっ、なっ、な、なんで」
そこにあったのは社長の顔だった。最後に会社で握手をした時のそのままの顔だった。まさかと思ったが、後の2人は部長と課長だった。頭が混乱した。ただでさえ何が起きているか理解し難いのに余計混乱してしまった。
「まあ、落ち着きなさい。私達は皆、この村出身でね。親方様に言われてこの祭りのために必要な人材を探していたんだよ。ただ、ほらこんな祭りだろ。本当のことも言えないしね。だから皆で相談してね、仕事ということにして君に来てもらったんだ」
優しく言いながら持っている刀で手と足の拘束を解いてくれた。
「なんで僕なんだ、なんで」
手足が自由になり逃げ出す隙を伺いながら聞いた。
「なに、簡単だよ。君は両親が離婚し、その両親とも今は新しい家庭を持ち幸せに暮らしている。そこには君の居場所はなく、どちらの親とも全然連絡を取っていない。友達付き合いも苦手だし、ましてや彼女もいない。SNSもやってない。つまり君が居なくなっても誰も気づかないだろうし探そうなんて人が出てくることもない。だからぴったりなんだよ」
社長が話している横をすり抜け走って逃げようとしたが、3日間まともに食べていないので足がもつれて倒れてしまった。
「やれやれ、君は親方様になるんだから大事な体なんだよ。十分注意してくれよ」
大きなため息とともに社長が言った。
「僕が親方様に・・・」
一瞬、心が揺れた。だが、直ぐに子供の首をはねる姿がフラッシュバックした。
「無理、無理、無理です。許して下さい。お願いします。ここで見たことは誰にも何も言いません。だから許して下さい」
土下座をしてお願いした。
「・・・もう60年だ。親方様としてのこの体はもう限界でな。今から代わりを探すことは出来ない・・・。悪いが時間がないんだ・・・」
老人が目の前に座り優しく諭すように言った。
グウォーーー、グウォー、ウォー
獣のような吠え声が聞こえた。
「さあ、山神様がお待ちだ。祭りを再開しよう」
老人が声を掛けると雅楽の演奏が再開された。それは獣のような吠え声と一緒になって山の奥へと響いていった。
親方様と呼ばれる老人が神主の衣装を着ておごそかに宣言し祭りは始まった。
そこは神社の裏手の広場のような場所で、すぐ後ろに崖があり山の奥に向かって大きな洞窟が口を開けていた。
村長の谷が笙を吹き、校長の田中が龍笛を吹き、駐在の西田が楽太鼓を叩き、林業の黒澤が琵琶を弾き、役場の大森が和琴を弾いていた。
その雅楽に合わせ、刀を下げ白装束を着たさくらと3人の仮面を被った男が神楽を舞っていた。
裸で手足を縛られ地面に横たわった状態でそれを見ていた。
さっきまであの部屋に閉じ込められていた。食べ物だけでなく水の一滴すら与えられなかった。苦しかった。頭の中は食べ物のことで一杯だった。眠ることもできず、空腹で痛む胃を押さえながらのたうち回った。悔しかったのは体の中に入るものは何もなかったのに、体の外に出るものは普通に出たことだった。顔は汗、涙、鼻水、涎、体は汚物にまみれた。
役場の大森と林業の黒澤が迎えに来た。汚物まみれでも嫌がる素振りを見せずに淡々と着ていた服を脱がせ始めた。残った力を振り絞り暴れたが簡単にねじ伏せられ手足を縛られた。その後、風呂場で頭から水をかけられここに連れてこられた。
辺りが暗くなり篝火の明かりがはっきりとそれと分かるようになるにつれ、雅楽の音が大きくなった。それに合わせるように神楽もより大きく激しいものへと変わっていった。
神楽を見ているうちに頭がくらくらしてきた。自分の体が自分のものではないような不思議な感覚だった。
いつの間にか老人は白い着物を着た5人の子供と一緒に踊っていた。子供たちは抜き身の刀を手に踊る老人の後について同じように飛び跳ねていた。その顔は幸せに満ちていた。
子供たちが真ん中に腰を下ろし、その回りを囲むように老人とさくら、3人の仮面の男が踊っていた。
老人が躍りをやめた。子供の1人が立ち上がり、老人の方を向いて両手を合わせお辞儀をするように深く頭を垂れた。さくら達4人の躍りは続いていた。
「あっ」
老人が子供の横に移動し手にしていた刀を振り上げたと思った瞬間、それを素早く振り下ろした。刀は見事に子供の首を切断していた。
首のない体からは血が吹き出し、雨のように周りに降り注いだ。さくらが愛おしそうにその首を拾い胸に抱いた。その子供の顔はさっき踊っていた時と同じで、幸せそうに笑っているように見えた。
躍りは続いていた。子供たちは目の前で仲間の首がはねられたのに怖がることもなく、次を志願するように立ち上がり手を上げていた。
狂っていた。ここにいる全員が狂っていると思った。
「やめろ、なんでこんな・・・」
大声を出したが雅楽の音にかき消され声は届かなかった。
そうしている間に2人目の子供の首がはねられた。その子供の顔も幸せそうだった。残された子供たちは仲間の血を浴びながら次が自分になるよう強く訴えていた。
見ていられなかった。手足が縛られており体に力が入らなかったが、何とかこの場から逃れようと地面を這った。
「ひっ」
目の前に刀が突き刺さった。全身が血で真っ赤に染まったさくらが立っていた。
「あら、逃げちゃだめよ。あなたには大事な役目があるでしょ」
そう言ってさくらは束ねていた髪を振りほどいた。下から見上げたさくらの顔は朦朧とした意識の中でいつも見ていた恍惚とした表情をしていた。
気がつくと雅楽の音が止み、周りをそれぞれ子供の首を持った5人に取り囲まれていた。
「な、な、なんなんだ、あんたら・・・、一体何者なんだ」
5人に見下ろされながら、震える体で精一杯の大声を出した。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ」
仮面の男の1人が仮面を外しながら言った。何処かで聞いたような声だった。
「あっ、なっ、な、なんで」
そこにあったのは社長の顔だった。最後に会社で握手をした時のそのままの顔だった。まさかと思ったが、後の2人は部長と課長だった。頭が混乱した。ただでさえ何が起きているか理解し難いのに余計混乱してしまった。
「まあ、落ち着きなさい。私達は皆、この村出身でね。親方様に言われてこの祭りのために必要な人材を探していたんだよ。ただ、ほらこんな祭りだろ。本当のことも言えないしね。だから皆で相談してね、仕事ということにして君に来てもらったんだ」
優しく言いながら持っている刀で手と足の拘束を解いてくれた。
「なんで僕なんだ、なんで」
手足が自由になり逃げ出す隙を伺いながら聞いた。
「なに、簡単だよ。君は両親が離婚し、その両親とも今は新しい家庭を持ち幸せに暮らしている。そこには君の居場所はなく、どちらの親とも全然連絡を取っていない。友達付き合いも苦手だし、ましてや彼女もいない。SNSもやってない。つまり君が居なくなっても誰も気づかないだろうし探そうなんて人が出てくることもない。だからぴったりなんだよ」
社長が話している横をすり抜け走って逃げようとしたが、3日間まともに食べていないので足がもつれて倒れてしまった。
「やれやれ、君は親方様になるんだから大事な体なんだよ。十分注意してくれよ」
大きなため息とともに社長が言った。
「僕が親方様に・・・」
一瞬、心が揺れた。だが、直ぐに子供の首をはねる姿がフラッシュバックした。
「無理、無理、無理です。許して下さい。お願いします。ここで見たことは誰にも何も言いません。だから許して下さい」
土下座をしてお願いした。
「・・・もう60年だ。親方様としてのこの体はもう限界でな。今から代わりを探すことは出来ない・・・。悪いが時間がないんだ・・・」
老人が目の前に座り優しく諭すように言った。
グウォーーー、グウォー、ウォー
獣のような吠え声が聞こえた。
「さあ、山神様がお待ちだ。祭りを再開しよう」
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