8 / 31
第二章
2ー4
しおりを挟む
放課後、僕は自室にて彼から提示された本を読んでいた。
読んでいる本は作家が初めて出版した作品だ。
読む理由としては、家にいる間、何か没頭できるものが欲しかったからだ。
家における僕の肩身は狭い。
母は働いてはいるが、帰ってくるといつも僕に対する悪意を振りまいているためだ。
家にいる時、学校にいる時はもちろん、ぼうっとしているときや外を歩いているときも僕は常に誰かの悪意に怯えている。
そんな状態を僕にだけ聞こえる言葉が悪意だと理解した時からずっと続けている。
もういい加減、うんざりだった。
悪意に怯えなくてもよい時間が欲しかった。
そんな藁にもすがるような思いで本を読み進める。
彼から提示された本は難解さこそあったがストーリーはすっきりしていてわかりやすいものだった。
そうしてあっという間に一冊の本を読み終わる。
面白かった。時間を、そして悪意に怯えることを忘れるほどに。
その時から僕は人の悪意を聞かないために本を読むことを決めた。
名前も知らない男の子に話しかけられた次の日の昼休み。その男の子はまた僕の前に現れた。
「こんにちは」
「こんにちは」
挨拶されたので、挨拶し返す。こんな簡単なやり取りも長い間してこなかったため、なんだかむず痒い。
「あっ、そういえば僕、自分から話しかけたくせに、名前言ってなかったよね。ごめん……僕は三島明。あっ、漢字は数字の三に島根の島、と明るい性格とかの明。君は?」
「僕は、白峰空太っていいます」
カバンから教科書を取り出し、裏表紙に書かれた名前の部分を見せながら説明する。
「へえ、どんな風に呼べばいい?」
「別にどんな呼び方でもいいですよ」
「う~ん……じゃあ、白峰君って呼んでいい?」
「いいですよ。それじゃあ僕は三島君って呼びますね」
「うん。なんか友達ぽくっていいね」
三島は言う。
友達っぽいか……。
友達なんて小学二年のあの時からいない。
数年ぶりに友達という言葉を聞いて、少しだけ心がはねる。どうやら僕は心のどこかでは友達が欲しいと思っていたらしい。
「それで、ここからが本題なんだけどさ」
「うん」
「昨日僕が勧めた本ってもう読んでたりする?」
「……もう読んだけど……」
「なら良かった」
三島がホっと肩をなでおろす。
「読んでおかないといけなかったとかじゃないよね?」
「別に、そういうわけじゃないよ。ただ、僕が昨日の間に本を読み終えちゃったからその面白さを早く語り合いたかっただけ」
「なるほど」
確かに、それなら納得だ。
事実、この本は面白い。僕自身も、もし面白さについて語り合うのならできるだけ早い方がいいと思っていた。
「そういうことなら早く話そうよ」
「うん」
そうして、僕と三島の本に関する談義は始まった。
放課後、僕は学校からの帰路をたどりながら今日の本談義を思い返していた。
本談義といってもそんなに大層なものではない。
僕と三島がそれぞれ本の面白かった部分を伝え合っただけだ。
一言でいえば、楽しい時間だった。
三島にどれだけ意識を向けても僕に対する悪意は聞こえなかった。
三島は、また明日も本談義をしようと言ってくれたし、新しい本も提示してくれた。
嬉しかった。
ここ数年、あんな風に楽しく人と話してこなかったため本当に楽しい時間だった。
明日も楽しみだなとそんなことを思いながら、明日話をする本を読み進めていった。
読んでいる本は作家が初めて出版した作品だ。
読む理由としては、家にいる間、何か没頭できるものが欲しかったからだ。
家における僕の肩身は狭い。
母は働いてはいるが、帰ってくるといつも僕に対する悪意を振りまいているためだ。
家にいる時、学校にいる時はもちろん、ぼうっとしているときや外を歩いているときも僕は常に誰かの悪意に怯えている。
そんな状態を僕にだけ聞こえる言葉が悪意だと理解した時からずっと続けている。
もういい加減、うんざりだった。
悪意に怯えなくてもよい時間が欲しかった。
そんな藁にもすがるような思いで本を読み進める。
彼から提示された本は難解さこそあったがストーリーはすっきりしていてわかりやすいものだった。
そうしてあっという間に一冊の本を読み終わる。
面白かった。時間を、そして悪意に怯えることを忘れるほどに。
その時から僕は人の悪意を聞かないために本を読むことを決めた。
名前も知らない男の子に話しかけられた次の日の昼休み。その男の子はまた僕の前に現れた。
「こんにちは」
「こんにちは」
挨拶されたので、挨拶し返す。こんな簡単なやり取りも長い間してこなかったため、なんだかむず痒い。
「あっ、そういえば僕、自分から話しかけたくせに、名前言ってなかったよね。ごめん……僕は三島明。あっ、漢字は数字の三に島根の島、と明るい性格とかの明。君は?」
「僕は、白峰空太っていいます」
カバンから教科書を取り出し、裏表紙に書かれた名前の部分を見せながら説明する。
「へえ、どんな風に呼べばいい?」
「別にどんな呼び方でもいいですよ」
「う~ん……じゃあ、白峰君って呼んでいい?」
「いいですよ。それじゃあ僕は三島君って呼びますね」
「うん。なんか友達ぽくっていいね」
三島は言う。
友達っぽいか……。
友達なんて小学二年のあの時からいない。
数年ぶりに友達という言葉を聞いて、少しだけ心がはねる。どうやら僕は心のどこかでは友達が欲しいと思っていたらしい。
「それで、ここからが本題なんだけどさ」
「うん」
「昨日僕が勧めた本ってもう読んでたりする?」
「……もう読んだけど……」
「なら良かった」
三島がホっと肩をなでおろす。
「読んでおかないといけなかったとかじゃないよね?」
「別に、そういうわけじゃないよ。ただ、僕が昨日の間に本を読み終えちゃったからその面白さを早く語り合いたかっただけ」
「なるほど」
確かに、それなら納得だ。
事実、この本は面白い。僕自身も、もし面白さについて語り合うのならできるだけ早い方がいいと思っていた。
「そういうことなら早く話そうよ」
「うん」
そうして、僕と三島の本に関する談義は始まった。
放課後、僕は学校からの帰路をたどりながら今日の本談義を思い返していた。
本談義といってもそんなに大層なものではない。
僕と三島がそれぞれ本の面白かった部分を伝え合っただけだ。
一言でいえば、楽しい時間だった。
三島にどれだけ意識を向けても僕に対する悪意は聞こえなかった。
三島は、また明日も本談義をしようと言ってくれたし、新しい本も提示してくれた。
嬉しかった。
ここ数年、あんな風に楽しく人と話してこなかったため本当に楽しい時間だった。
明日も楽しみだなとそんなことを思いながら、明日話をする本を読み進めていった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―
コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー!
愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は?
――――――――
※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる