アア

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第二章

2ー4

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 放課後、僕は自室にて彼から提示された本を読んでいた。
 読んでいる本は作家が初めて出版した作品だ。
 読む理由としては、家にいる間、何か没頭できるものが欲しかったからだ。
 家における僕の肩身は狭い。
 母は働いてはいるが、帰ってくるといつも僕に対する悪意を振りまいているためだ。
 家にいる時、学校にいる時はもちろん、ぼうっとしているときや外を歩いているときも僕は常に誰かの悪意に怯えている。
 そんな状態を僕にだけ聞こえる言葉が悪意だと理解した時からずっと続けている。
 もういい加減、うんざりだった。
 悪意に怯えなくてもよい時間が欲しかった。
 そんな藁にもすがるような思いで本を読み進める。
 彼から提示された本は難解さこそあったがストーリーはすっきりしていてわかりやすいものだった。
 そうしてあっという間に一冊の本を読み終わる。
 面白かった。時間を、そして悪意に怯えることを忘れるほどに。
 その時から僕は人の悪意を聞かないために本を読むことを決めた。
 
 名前も知らない男の子に話しかけられた次の日の昼休み。その男の子はまた僕の前に現れた。
「こんにちは」
「こんにちは」
 挨拶されたので、挨拶し返す。こんな簡単なやり取りも長い間してこなかったため、なんだかむず痒い。
「あっ、そういえば僕、自分から話しかけたくせに、名前言ってなかったよね。ごめん……僕は三島明。あっ、漢字は数字の三に島根の島、と明るい性格とかの明。君は?」
「僕は、白峰空太っていいます」
 カバンから教科書を取り出し、裏表紙に書かれた名前の部分を見せながら説明する。
「へえ、どんな風に呼べばいい?」
「別にどんな呼び方でもいいですよ」
「う~ん……じゃあ、白峰君って呼んでいい?」
「いいですよ。それじゃあ僕は三島君って呼びますね」
「うん。なんか友達ぽくっていいね」
 三島は言う。
友達っぽいか……。
 友達なんて小学二年のあの時からいない。
 数年ぶりに友達という言葉を聞いて、少しだけ心がはねる。どうやら僕は心のどこかでは友達が欲しいと思っていたらしい。
「それで、ここからが本題なんだけどさ」
「うん」
「昨日僕が勧めた本ってもう読んでたりする?」
「……もう読んだけど……」
「なら良かった」
 三島がホっと肩をなでおろす。
「読んでおかないといけなかったとかじゃないよね?」
「別に、そういうわけじゃないよ。ただ、僕が昨日の間に本を読み終えちゃったからその面白さを早く語り合いたかっただけ」
「なるほど」
 確かに、それなら納得だ。
 事実、この本は面白い。僕自身も、もし面白さについて語り合うのならできるだけ早い方がいいと思っていた。
「そういうことなら早く話そうよ」
「うん」
 そうして、僕と三島の本に関する談義は始まった。
 
 放課後、僕は学校からの帰路をたどりながら今日の本談義を思い返していた。
 本談義といってもそんなに大層なものではない。
 僕と三島がそれぞれ本の面白かった部分を伝え合っただけだ。
 一言でいえば、楽しい時間だった。
三島にどれだけ意識を向けても僕に対する悪意は聞こえなかった。
 三島は、また明日も本談義をしようと言ってくれたし、新しい本も提示してくれた。
 嬉しかった。
 ここ数年、あんな風に楽しく人と話してこなかったため本当に楽しい時間だった。
 明日も楽しみだなとそんなことを思いながら、明日話をする本を読み進めていった。
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