彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第一章

第22話 嫌われた勇者

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ロルフが敗北した。
誰が見ても明らかな状況に観客席は静まり返る。
魔法師団副長であるロルフの実力は王国でも随一だった。
それがたった数回の魔法の応酬で敗北したのだ。

「ロルフ副長が……負けた……?」
「嘘だろおい……」
「何よあの勇者の魔法……化け物じゃない」
「すげー強いな!!」

畏れが入り混じった声と驚きの声が上がる。
上級魔法を連発出来るだけでも驚愕に値するが、無名はそれを同時に発動して見せた。

魔法師団長フリアーレでも難しい卓越した魔法技術に国王クライスも苦笑いを浮かべる。


他の観客同様、決闘を見ていた黒峰達も開いた口が塞がらなかった。
同じ時間訓練してきてここまで差が出るのかと。

「……無名、かなり強くなってるな。俺は剣士だからあまり詳しくないけど茜と莉奈から見てアイツはどうなんだ?」
黒峰は多少魔法が扱える程度で、一般の魔法使いにも劣るレベルである。
その為無名の凄さは分かるが、それがどれほど凄いのかはピンときていなかった。

「アイツやばいよ。上級魔法の三重詠唱なんて先生でもできないし」
茜が先生と呼ぶのはただ1人。
フリアーレの事だ。
魔法師団長ともなれば卓越した魔法技術を持っているが、それでも上級魔法の三重詠唱は難しかった。

「神無月さんとかなり差が開きましたね」
「ああ……こっちが成長しているんだから当然彼も成長しているだろうとは思っていたがこれ程とは」
莉奈も魔法を多用するが故に、無名の異常さにはすぐに気付いた。
生半可なもので身に付く技術ではない。
万能の勇者であってもそうそう簡単な事ではないはず。


「ただこの国からすれば頼もしい限りだろうな。何せ無傷であの副長を破ったんだ。魔国が攻めて来ても十分戦力になる」
黒峰も剣士でありながら副長ロルフの実力が高いのを知っている。
騎士達から聞いた話だが、過去にも魔物の大群を1人で抑え込んだという逸話もあった。
畏敬の念を向けられる彼は今頃どんな気持ちなのだろうかと黒峰は無名へと目線を向けた。



――――――
無名は観客席に一度目をやると面白くなさそうに目を逸らした。
先程まで敵意を向ける視線が多かったが今では畏れが入り混じっている。

壁に打ち付けられたロルフはピクリとも動かず、すぐに治療班が駆けつけ何処かへと連れ去って行った。
訓練場に1人残された無名もその場を去ろうと踵を返すが、強い視線を感じふと振り向く。

目線の先には黒峰がいた。
ジッとこちらを見つめている。
久し振りに見たからか黒峰の身体は引き締まっているようにも見えた。

何か言いたげなそんな様子だったが、3秒程視線を合わせた後無名はそのまま訓練場から去って行った。


「しょ、勝者は神無月無名!万能の勇者は副長ロルフを破りました!」
呆気に取られていた審判が白旗を振ると、まばらに拍手が起こった。
既に訓練場には2人ともいない。
誰もいない訓練場にパラパラとまばらな拍手の音だけが響いていた。



訓練場を出た無名が真っ先に向かったのは医療室だった。
流石に殺してはいないが、大怪我を負ったロルフが気になっていたのだ。

もちろん半年間も深き森に籠もっていた無名が王城の医療室の場所など分かるはずもなく、その辺にいたメイドに声を掛けた。
その時にメイドはビクッと肩を震わせていたが、王城勤めのメイドなだけあってか丁寧に医療室まで案内してくれた。

「こちら医療室でございます。中にロルフ様がおられると思いますので私はこちらで失礼いたします」
「ありがとうございました。ご丁寧に案内までして頂いて。メイドさんはここまでしてくれるんですね」
「い、いえ!メイドとして当然の事でございます」
メイドは金髪碧眼の見目麗しい女性であった。
そんな彼女が目に見えて動揺している。
無名は何か変なことを言っただろうかと自らの発言を思い出す。
やはり何も変なことは口走っていない。
そう思いメイドを見ると、ペコっと頭を下げそそくさとその場から去って行ってしまった。

おおよそ王国が誇る魔法師団副長を完膚なきまでに倒してしまったからか恐れられているのかも、と無名は気にしない事にして医療室の扉を開けた。


数台のベットが一定間隔で並んでおり、その一番奥に目的の人物はいた。

包帯が身体中に巻かれ、一人の女性が治癒魔法を掛けているのかほんのりと淡い緑色の光が発せられていた。


「失礼します無名です」
見ず知らずの女性に挨拶を述べるとキッと目を吊り上がらせて無名を睨み付けた。

「貴方が……万能の勇者ですか。……私はロルフの妻マリナ・トロイヤードです」
渋々ながらマリナは挨拶を返した。
しかしどう見てもいい感情を抱いていない事はすぐに分かった。

当然だろう。
自分の旦那がポッと出の勇者に完膚なきまでに敗北したのだ。
それも大怪我を負うほどに。
恨むなと言う方が無茶と言うものである。

「ロルフさんの奥様でしたか。この度は大変申し訳ございませんでした」
出来ることなら無名はこの場で釈明したかったがベットの上で寝ているロルフが起きる気配はない。
ロルフが口出ししなければここで何を言ってもいい訳にしか聞こえないだろう。
だからか無名はただただ謝罪する事だけに徹した。

「貴方ならもっとやりようがあったのではないのですか?」
「……ありましたが、あの場で手を抜く事はロルフさんに失礼かと思いました」
マリナも無名の実力の高さに気付いている。
ロルフではどう足掻いても敵わないだろうと。
だからこそもっとうまくやれたのではないかと憤っていた。

「貴方の顔はこれ以上見たくありません。ロルフは私が手当てしておりますのでどうかご引き取りを」
「……分かりました。失礼します」
初対面で随分と嫌われたものだと医療室から出た無名は溜息を付いた。
自身の性格上友達がいないのは仕方がないと思っている。
しかし初対面の人にまで嫌われるというのはあまり気分のいいものではない。


陰鬱とした面持ちで自室へと急ぐ。
そういえば案内してくれたメイドは見目麗しかった。
この王城で勤めるにはやはり容姿も採用基準なのだろうかと考えながら廊下を歩いていると前から見覚えのある女性がいるのが見えた。
ラクティス・アルトバイゼン。
第一王女が数名の護衛を引き連れてこちらへと歩いてきている。

話すこともないだろうと壁際に寄った無名だったが、ラクティスは目の前で立ち止まった。
当然護衛の者達も足を止める。

「無名様、お疲れ様でした。もしやロルフ殿の所へ見舞いに?」
「はい。まあ追い出されたばかりですが」
医療室での出来事を簡単に説明するとラクティスは苦笑した。

「あれはまあ……確かに圧倒でしたからね。マリナさんが憤るのも無理はありません」
ラクティスもロルフと無名の目的を理解している。
しかしそれを言い触らせば当然意味がない。
だからかこの場では言葉を濁していた。

「無名様のあの魔法技術はやはりフラン様のご指導によるものでしょうか?」
「そうですね。まだまだ僕では師匠の足元にも及びませんが……」
百の魔法を同時詠唱できるフランに比べればこの程度何の自慢にもならない。
決して驕っているわけではないのだが、傍目に見れば驕っているように見えたらしく護衛の騎士の目つきが厳しいものに変わった。
口出しして来ないのは王女の会話に割り込まないよう堪えているからだろう。

「あれでまだフラン様に追い付けないのですか。やはり悠久の魔女の名は伊達ではありませんね」
「師匠は中級魔法の百個同時詠唱が出来ますから。僕はまだその半分50個程度です。……っと、あまり長く王女殿下を引き止めるのも申し訳ありませんので僕はここらへんで。では」

無名が去った後には呆然とした表情で彼の背中を見つめる王女達の姿があった。
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