彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵

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第一章

第23話 久しぶりの顔合わせ

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自室に戻った無名は綺麗な状態の部屋を見て驚いた。
半年間も空けていた自室なのだから埃を被っているだろうと思っていたが、埃一つない部屋であった。
恐らくメイドによる清掃が行き届いているのだと納得するとソファへと腰掛けた。

やれる事は全部やった。
フランにここまで将来が恐ろしい勇者は初めてだと言わしめた。
今ならば高位魔族を相手にしてもそれなりに戦える。
そう思える程に力をつけていた。

ただ黒色の紋章に突き刺さる剣は2本のままであった。
やはり頂点である3本の剣が現れるのはフラン並の実力が必須なのかもしれない。

そんな事を考えていると不意に扉がノックされた。
自室を訪れる者など大体想像がつく。

歩くのを面倒臭がった無名は魔法で扉を開ける。
やはりそこにいたのは他の勇者の面々であった。


「うおっ!勝手に開いた?あ、入ってもいいか?」
「構いませんよ」
黒峰が一言告げ入室すると他の3人もゾロゾロと入ってくる。
無名はその中で一人の姿に目が行った。

斎藤大輝の片腕がなかったのだ。
不自然に袖をヒラヒラさせているなと思ったら、あるはずの手首がなかった。

いや、正確には肘から先がなかった。

「君……その腕は」
「ああこれっすか?まあ……オレの実力不足っす」
あっけらかんと答える大輝はあまり気にしていないのか、辛そうな表情など見せなかった。

「積る話もあるだろうが、まずは久し振りだな無名」
黒峰はジッと大輝を見つめる無名に手を差し出した。
握手のつもりだったのだが、無名はいまいち分からなかったのか数秒固まった。


「いや、ただの握手だよ」
「そうですか」
黒峰に言われ無名はやっとその手を握る。
コミュニュケーション能力に問題があるのではないかとも思えたが、黒峰はそのまま話を続ける事にした。

「半年間の謹慎処分、どうだった?深き森にいたんだろう?というか決闘で見せた魔法はなんだよ、凄すぎるじゃないか」
「そんなに一気に質問されても答えられませんよ。……半年間の謹慎処分はそう大して辛いと感じる事はありませんでした。深き森は凶悪な魔物が多いのでいい練習台になりましたよ」
本人が辛いと感じていないのであれば謹慎処分の意味がないのではないかとは茜と莉奈の脳裏に浮かんだ感想だった。

「俺達もそれなりに強くなったつもりだったんだけどなぁ。あんな決闘見せられたら立つ瀬がなくなるよ」
「一応あれでも加減はしたんですけど。まあ、ロルフさんの奥さんには嫌われたみたいですが」
加減という言葉に黒峰達の顔が引き攣る。
本気でやってもあそこまでの戦いはできない彼らにとって無名の言葉は理解できなかった。

「そんなことよりその腕治せないんですか?」
無名が大輝の片腕を指差し莉奈を見た。
最優の勇者なのだからそれくらいはやってのけるだろうと無名は彼女を見たのだが、莉奈は目を伏せ小さく口を開く。

「できません……でした。私ではまだ欠損部位の治癒はできないんです」
「最優の勇者は治癒魔法に関していえば師匠をも超えると聞いたんですが」
無名の言葉は純粋な疑問だったのだが、茜はそう捉えず嫌味を言ってきたのかと思い目を吊り上がらせる。

「ちょっと。アンタ言葉くらい選んだら?莉奈ちゃんだって何もしなかったわけじゃないんだから」
「いや、選ぶというのはどういう意味ですか?」
「は?無自覚に嫌味を零すって……いい性格してんねアンタ」
茜は嫌悪感を露わにし今にも掴みかかりそうだったが、黒峰が一歩前に出ると彼女を手で制した。

「待った待った!無名は嫌味で言ったわけじゃないよ。本当に純粋な気持ちで聞いたんだろ?無名」
「はい。その嫌味というのはどういう事ですか?」
「つまりだな……茜ちゃんはこう思ったわけだ。最優の勇者の力であれば欠損部位の治療ができるはずだと知っている無名が純粋な気持ちでなぜ出来ないのかを質問した。でも茜ちゃんはそう捉えずに、できるはずなのにどうしてやらないのか、と煽ったように聞こえたんだろう」
無名にそのつもりはなかったが茜の表情を見る限り黒峰の言う通りであった。

「力不足だと言ったわけではありませんよ。なぜ出来ないのかを疑問に思っただけです」
「思っても口にするなよ。莉奈ちゃんもアタシもここにいるみんな頑張ってるんだよ!それでも大輝は腕を失くしたんだ!」
茜が叫ぶと部屋は静まり返った。
大輝も居た堪れないような表情で目線を落とす。

「止めよう。俺達が争っても何もいい事なんてないんだから。茜ちゃんも落ち着いてくれ」
「……黒峰さんが言うなら」
先程までの勢いはなんだったのかと思える程大人しくなった茜に、黒峰も苦笑いを浮かべた。



「それで、何か僕に話したい事でもあったんでしょう?本題に入ってもらえますか?」
無名は黒峰達がそんな話をしにきたわけではないと分かっていた。
その程度の事でわざわざ部屋を訪れる事はないだろう。

「ああ、すまなかった。本題に入るが、無名はリンネ教を知っているか?」
聞き覚えの無い単語に無名は無言を返した。
知らないと察したのか黒峰は続きを話す。

「リンネ教ってのは分かりやすく言うと狂った宗教組織ってやつさ。俺も聞いた話だけど魔族を崇拝してるらしいぞ」
「ちなみにオレはそのリンネ教の奴らにやられたっすよ」
再び無名は大輝の失われた腕へと視線を向けた。
恐らくリンネ教は殺すつもりで襲い掛かったのだろうが腕を斬り落とすだけで終わってしまったのだろうと想像する。

「神殿も奴らに壊された。王国にとって、いや、人類にとって害にしかならない奴らだ」
「なるほど……敵は魔国だけという訳でもないんですね」
魔国だけでも大変なのに背後にも気をつけねばならないのかと思うと無名は陰鬱な気持ちになる。

「無名も気をつけてくれ。俺達も今では勝手に街を出歩く事も出来ないんだ」
「勇者を王城に軟禁ですか?」
「それは言い過ぎだろ。勇者をリンネ教如きにやらせはしないって国王陛下は息巻いてたよ」
表向きは、だろうと無名は言葉にせず胸の奥に仕舞う。
黒峰達もそれなりに強くなったようだが、勇者と言うにはまだ心許ない実力だ。
だがそれを口にしてしまえばまた彼らの反感を買うだろうとほんの少しだけ空気を読んでいた。

無名もこの半年間で成長している。
実力も人としても。

国王は勇者を無駄に消耗したくない。
まだまだ成長の余地がある勇者はいずれ国を背負い魔国へと立ち向かう剣となってくれる。
そう信じているのかまだ黒峰達を危険な状況に合わせたくはなかったのだ。

「で、それを僕に話したと言う事は今後僕も王城から出入りを制限されるのですか?」
「いやそれは分からない。まあ……決闘で副長を圧倒したのを陛下も見ているからな。多分だけど無名は自由に出歩けると思う」
それは良かったと無名は少しホッとした表情を見せる。
ただでさえこの世界にきてすぐに深き森へと追いやられてしまったせいで異世界というものを何にも満喫できていなかった。
やっと異世界の街並みをゆっくり見て回れるのだと顔には出さなかったが内心ワクワクしていた。


「護衛付きなら俺達も外を出歩いても良い事になってるんだ。せっかくだから一緒に街に行かないか?」
「いえ、1人で大丈夫です」
即答だった。
黒峰は少しでも歩み寄ろうという姿勢を見せたのだが、無名には何にも刺さらない。
またそれが茜の苛立ちを募らせていく。

「もういいじゃん!黒峰さん!いこ!こんなのと仲良くなんてやってられないし!」
「ま、まあまあそう怒らないでくれよ」
「コイツほんとに嫌い!莉奈ちゃん行こ!」

無名をひと睨みした後茜は莉奈の手を取って部屋から出ていってしまった。
大輝もペコっと頭を下げ部屋から出ていく。

「はぁ……まあなんだ。その、せっかく同じ日本人なんだからもう少し仲良くやろうじゃないか。街に出るなら何か土産話でも期待しているよ」
黒峰もあきれてしまいそれだけ言うと部屋から出て行く。

(人付き合いは苦手なんだよ……)
無名の心の声は誰にも聞かれることはなかった。
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