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後宮の外の室1
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風雅と過ごした翌日もいつも通り政務がある。
「いつか陛下の政務を支えられるようより一層勉学に励みます。」
そう言って風雅は、政務をしに向かう紗々羅を送り出した。
後宮の室は、閉じ込められているのではなく、正当な理由と許可があれば、外に出て一定程度の役割を果たすことが可能なのである。
紗々羅の兄弟達の父は、積極的に女王の政務の手伝いをしたり、軍に行き、鍛え上げて女王の外遊の際に警護を兼ねて随行したり、常に傍で守ったという。
紗々羅は、朝議堂に向かい、主要7大大臣から報告を受け指示を出す。まだ分からないことが多い紗々羅は、大臣の意見を聞き後ほど調べてから指示を出すことも多い。
今日は、辺境の治安が揺らいでいるとの報告があったので、今後どうするか何度か会議をしなければならないだろう。
それが終わると行政官吏官のツートップと細かい内政や外交の話をする。時間が余れば、軍舎に行って軍を激励する。
ほかにもやることはあるが、本日はこれで内殿の執務室に戻ることにした。
執務室に戻るとどっと疲れが押し寄せる。
ずっと側でみていたアヤメは、すぐに茶の用意をする。
ハルカは、自身の顔の痣を気にして、決して後宮の外に出ようとしなかった。後宮の侍女の方が出入りが自由なのに、おそらく後宮に来てその外に出たのは片手で数えられるぐらいだろう。
「久遠、そろそろ昼餐を取る。」
「はい、陛下。本日はお忙しいので内殿のテラスに星室様をお呼びしました。」
紗々羅は、昼餐時も風雅と食事を取りたいと思い、後宮に戻ることをあらかじめ久遠に伝えておいたのだが、それは許されなかったらしい。
まあ、場所はどこでも良いかと、筆を置き、テラスに出ると室が4人揃っていた。
紗々羅は、風雅との昼餐を用意しろと伝えたはず…。アヤメを見るとこういうことになっているとは知らなかったようで、首を横に振った。
「陛下には、少しでも早く星室様たちと親睦を深めていただきたと思い、全員ご招待するよう準備いたしました。」
久遠がしれっと言う。
昨日の今日なので、ほかの室に会うのにはためらいがあった。
特に瞬に会うことに。
仕方なく昼餐の場に向かうと、紗々羅の目に最初に飛び込んできたのは風雅の微笑みだった。
それに答えるように紗々羅もにこりとした。
「陛下!お疲れさまです。」
立ち上がって、元気よく瞬が声をかけてくれたおかげで、なんとなく気まずく思っていた気持ちが霧散する。
「ふふ、瞬、お腹がすいているだろうに元気だな。」
紗々羅が近づくとほかの室も立って頭を垂れる。
「皆も待たせた。さあ食事にしよう。」
たわいもない話で食事会は進む。最後のデザートが出された。
「陛下、桃お好きでしょ。私の分も差し上げますよ。」
瞬が向かいの席から差し出そうとする。
するとすかさず、啓輝が口を出した。
「瞬殿、陛下にご自分の物を差し出すなど、失礼ですよ。」
瞬は、少し戸惑う。
「え?そうだったんですか。陛下の好きなものはいつも差し上げてたから知らなかった。陛下、いつも私は失礼なことを?」
瞬は無邪気に女王との生活を他の室に話す。
「ん、いや。瞬は、特別だ。」
その瞬間、紗々羅はハッとした。
母上から室との関わり方について、いくつもの注意事項の一つに、皆の前で特定の室を特別扱いしてはいけないと言われていた。
「まあ、幼き子だから…。それに、そんなことは大して失礼とも思わない。」
暗に他の室が瞬と同じことをしても構わないということを匂わせた。
「でも髭の大臣からは、もらいたくないから、公けには、失礼な行為としておこう。」
「ククッ!」
と風雅が笑いをこぼす。
「いくら好物でも確かに髭面の大臣からのは、いらないですね。」
風雅の朗らかな笑いで、失言がうまく流れて紗々羅はほっとした。
「瞬、今日はお腹がいっぱいだ。自分の分だけでいい。」
紗々羅は、そう言って自分の桃を食べてからすぐに席を立ち、午後の執務に取り掛かった。
「陛下は、桃がお好きなんですね。」
女王のいなくなったテーブルで、ずっと大人しかった壮士がぼそりと言う。
「そうです。それが?」
「あ、瞬殿。私の故郷では桃がたくさんできるので、今度実家から送ってもらえれば、お喜びになるかと…。」
「そうですね。ここでは、なかなか手に入らないので、喜ばれると思います。」
風雅と啓輝は、少し驚いていた。壮士は、女王に興味を持っていないと思っていたためだ。
やはり、幼き頃から室候補として育てられているのだ。女王に対する思いは、普通の者とは違う。壮士もそうした一人であることを認識したのであった。
女王が去ってしまったのなら、室がこの場に留まっている理由は、一つもなかった。
4人は一斉に席を立ち、後宮に戻り始めた。
「いつか陛下の政務を支えられるようより一層勉学に励みます。」
そう言って風雅は、政務をしに向かう紗々羅を送り出した。
後宮の室は、閉じ込められているのではなく、正当な理由と許可があれば、外に出て一定程度の役割を果たすことが可能なのである。
紗々羅の兄弟達の父は、積極的に女王の政務の手伝いをしたり、軍に行き、鍛え上げて女王の外遊の際に警護を兼ねて随行したり、常に傍で守ったという。
紗々羅は、朝議堂に向かい、主要7大大臣から報告を受け指示を出す。まだ分からないことが多い紗々羅は、大臣の意見を聞き後ほど調べてから指示を出すことも多い。
今日は、辺境の治安が揺らいでいるとの報告があったので、今後どうするか何度か会議をしなければならないだろう。
それが終わると行政官吏官のツートップと細かい内政や外交の話をする。時間が余れば、軍舎に行って軍を激励する。
ほかにもやることはあるが、本日はこれで内殿の執務室に戻ることにした。
執務室に戻るとどっと疲れが押し寄せる。
ずっと側でみていたアヤメは、すぐに茶の用意をする。
ハルカは、自身の顔の痣を気にして、決して後宮の外に出ようとしなかった。後宮の侍女の方が出入りが自由なのに、おそらく後宮に来てその外に出たのは片手で数えられるぐらいだろう。
「久遠、そろそろ昼餐を取る。」
「はい、陛下。本日はお忙しいので内殿のテラスに星室様をお呼びしました。」
紗々羅は、昼餐時も風雅と食事を取りたいと思い、後宮に戻ることをあらかじめ久遠に伝えておいたのだが、それは許されなかったらしい。
まあ、場所はどこでも良いかと、筆を置き、テラスに出ると室が4人揃っていた。
紗々羅は、風雅との昼餐を用意しろと伝えたはず…。アヤメを見るとこういうことになっているとは知らなかったようで、首を横に振った。
「陛下には、少しでも早く星室様たちと親睦を深めていただきたと思い、全員ご招待するよう準備いたしました。」
久遠がしれっと言う。
昨日の今日なので、ほかの室に会うのにはためらいがあった。
特に瞬に会うことに。
仕方なく昼餐の場に向かうと、紗々羅の目に最初に飛び込んできたのは風雅の微笑みだった。
それに答えるように紗々羅もにこりとした。
「陛下!お疲れさまです。」
立ち上がって、元気よく瞬が声をかけてくれたおかげで、なんとなく気まずく思っていた気持ちが霧散する。
「ふふ、瞬、お腹がすいているだろうに元気だな。」
紗々羅が近づくとほかの室も立って頭を垂れる。
「皆も待たせた。さあ食事にしよう。」
たわいもない話で食事会は進む。最後のデザートが出された。
「陛下、桃お好きでしょ。私の分も差し上げますよ。」
瞬が向かいの席から差し出そうとする。
するとすかさず、啓輝が口を出した。
「瞬殿、陛下にご自分の物を差し出すなど、失礼ですよ。」
瞬は、少し戸惑う。
「え?そうだったんですか。陛下の好きなものはいつも差し上げてたから知らなかった。陛下、いつも私は失礼なことを?」
瞬は無邪気に女王との生活を他の室に話す。
「ん、いや。瞬は、特別だ。」
その瞬間、紗々羅はハッとした。
母上から室との関わり方について、いくつもの注意事項の一つに、皆の前で特定の室を特別扱いしてはいけないと言われていた。
「まあ、幼き子だから…。それに、そんなことは大して失礼とも思わない。」
暗に他の室が瞬と同じことをしても構わないということを匂わせた。
「でも髭の大臣からは、もらいたくないから、公けには、失礼な行為としておこう。」
「ククッ!」
と風雅が笑いをこぼす。
「いくら好物でも確かに髭面の大臣からのは、いらないですね。」
風雅の朗らかな笑いで、失言がうまく流れて紗々羅はほっとした。
「瞬、今日はお腹がいっぱいだ。自分の分だけでいい。」
紗々羅は、そう言って自分の桃を食べてからすぐに席を立ち、午後の執務に取り掛かった。
「陛下は、桃がお好きなんですね。」
女王のいなくなったテーブルで、ずっと大人しかった壮士がぼそりと言う。
「そうです。それが?」
「あ、瞬殿。私の故郷では桃がたくさんできるので、今度実家から送ってもらえれば、お喜びになるかと…。」
「そうですね。ここでは、なかなか手に入らないので、喜ばれると思います。」
風雅と啓輝は、少し驚いていた。壮士は、女王に興味を持っていないと思っていたためだ。
やはり、幼き頃から室候補として育てられているのだ。女王に対する思いは、普通の者とは違う。壮士もそうした一人であることを認識したのであった。
女王が去ってしまったのなら、室がこの場に留まっている理由は、一つもなかった。
4人は一斉に席を立ち、後宮に戻り始めた。
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