元殺し屋の私が異世界憑依したら溺愛ルートが待っていた~醜い辺境伯と身代わり夜伽妻~

五嶋樒榴

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至福

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「良い匂いがここまで漂っているよ」

 仮面を付けたクロードが、キッチンの前に立っていた。

「お帰りなさいませ。ハンバーガー、出来てますよ」

 ワゴンに乗ったハンバーガーにクロードは顔を向ける。

「見ているだけで腹が減って来た。早速食べよう」

「はい」

 私はクロードと共に、ダイニングルームに入った。
 テーブルの上にハンバーガーとスープ、果物の盛り合わせを置くと、クロードは仮面を外して席に着いた。

「これは、どうやって食べれば良いの?」

 クロードはナイフとフォークが無いことに戸惑う。
 私は、折りたたまれていたナプキンを膝に掛けると、戸惑うことなくハンバーガーを両手で持った。

「素手で食べるのか。サンドイッチに似て非なるものだな」

 クロードも私の真似をしてハンバーガーを両手で持った。
 そして大きく口を開いて、ハンバーガーにかぶり付いた。

「う、旨い!」

 クロードは初めて食べるハンバーガーに目を輝かせている。
 見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。

「フィリシアも早く食べなさい」

 まるで子供の様にガツガツと食べるクロードを見ながら、私もハンバーガーを頬張った。

 ああ。
 味は違えど、懐かしさが蘇る。

 こんなに美味しい食べ物だったんだ。
 牢獄の中では、ハンバーガーなど食べられなかったもの。

「美味しいです」

 もう現代のハンバーガーを食べる事は出来ないだろうけど、このハンバーガーならいつでも作ることができる。

 生きてるって、やはり素晴らしい事なんだ。



「ジョージに会ったそうだね」

 食事が終わり、クロードはジョージの話を切り出した。

「はい。クロード様の幼馴染とおっしゃってました」

「うん。私の母は、彼の乳母でもあったんだ。彼は、私より2歳下の妹と同じ歳でね」

 ただの幼馴染ではなく、乳兄弟でもあったわけだ。
 でも、クロードの母が乳母を務めると言う事は、ジョージの方が位が上と言うことか。

「ジョージが、フィリシアとエリーズが揉めたと言っていた」

「一緒に朝食を食べた事に腹を立てた様です」

 私の話を聞いて、クロードは大きなため息を吐いた。

「やはり、秘密にしておいた方が良かったのか」

「いいえ。逆に私ははっきり教えたかったので。私は、クロード様に仕える身になりました。もうエリーズ様の侍女に戻るつもりはありません。私は私の意思でクロード様のお側に居ると決めたので」

 私が言い切ると、クロードは優しい顔で微笑んだ。

「本当にフィリシアは眩しい。そこまではっきり、気持ち良いほど自分の意思が言える女性を初めて見た」

 そりゃ、そうですよねー。
 本物のフィリシアだったら、ぜーったい、エリーズのする事を素直に聞くだけだろうし。
 身分を弁えて、自分からクロードの側に居ようとも思わないだろうし。

 でも私は違う。
 私は自分の幸せは、自分で掴み取る。

「ジョージに小言を言われたよ。気の強そうな女を側に置くなんてらしく無いとね」

 あははは。
 気が強くて悪うございましたね。

「でも、それも引っくるめて私はフィリシアを気に入っている。だからジョージがなんと言おうが、私の側にいてくれるかい?」

 クロードが、私をもう離せなくなっているのが伝わってくる。

「もちろんです」

 私が肯定すると、クロードは今にも鼻歌でも歌いそうなほどご機嫌な顔になった。



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