元殺し屋の私が異世界憑依したら溺愛ルートが待っていた~醜い辺境伯と身代わり夜伽妻~

五嶋樒榴

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ハンドクリーム

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 1人で寝るのは久しぶりだな。
 たった数日クロードと寝ていただけなのに、1人なのが変な感じだ。

 私は天井を見つめていたが、疲れたと目を閉じた。

 布や裁縫道具を持ち込んでいた、仮面を作るための小部屋を、そのまま私の部屋にしてもらえた。

 これからどうしようか。
 いずれクロードとエリーズは正式に夫婦になるだろう。
 エリーズの言う様に、もう私は用無しなのだから、やっぱりこの世界で1人で生きていく力を付けなければいけない。

 体力と攻撃力には自信があるが、私に乏しいのはこの世界の情報だ。
 もっと知識を蓄えなければ。

「あー。この先かぁ」

 このままじゃ無理だ。
 考えなくてはいけないなぁ。

 とりあえず、クロードには礼に仮面をいくつか作って、私は馬に1人で乗れる様に身動きのしやすい服を作ろう。

 色々考えないといけないのに、クロードの顔がチラついて、思考がうまくまとめられないのが厄介だ。



「フィリシア、おはよう」

「おはよう、マリエッタ」

 今日からは、クロードの世話をしなくなったので、私はこの家の侍女として働かなくてはならない。

 私に割り当てられた仕事は、屋敷の掃除と洗濯だ。
 別に掃除も洗濯も嫌いじゃないから良いけどさ。
 ただこの時代は、掃除機や洗濯機なんて代物は無いから、箒と雑巾と洗濯板がマストアイテムと言うのが難だな。

「痛ッ!」

 水仕事のせいで、侍女達の手はアカギレになっている。
 私やマリエッタの様な若い侍女はまだ回復力が高いが、お肌の曲がり角の侍女達は苦労している。

 この世界にハンドクリームなんてないし……。

 その時、私の中にフィリシアの記憶が流れ込んで来た。
 フィリシアが蜜蝋とオリーブオイルと蜂蜜を鍋で煮て、固まった物を手に塗っていた。

 これは、もしかしてハンドクリーム?

「そうだ」

 フィリシアの記憶を信じてみよう。
 この屋敷に赤ん坊はいないし、手に蜂蜜を塗っても危険はないだろう。

「フィリシア?どこに行くの?」

 私は、天然素材で作れるハンドケア用品を求めて、キッチンへと急いだ。

「オリーブオイルと蜂蜜で、今度は何かお菓子でも作るのかい?」

 私が料理長に、オリーブオイルと蜂蜜を譲って欲しいとお願いすると、料理長は今度はお菓子作りでもするのかと期待した目で私を見ている。

「いえ、お菓子作りではなく、手荒れの薬を作りたくて」

「手荒れ?薬?」

 料理長は私の言ってる意味が理解できなくて、ポカンとした顔になる。

 私はキッチンにある、未使用の蜜蝋で出来た蝋燭を鉄製の器に入れて、フィリシアの記憶通りに湯煎を始めた。

「一体、何が出来るんだ?」

 蝋燭を溶かす私を見て、料理長はびっくりしている。

 私はそこに、オリーブオイルと蜂蜜を少しずつ注ぎながら、木のスプーンで混ぜてみた。

 こんな感じかしら。

「あの、これを入れられる蓋を閉められる容器はないですか?」

 全員にひとつずつは配れないが、皆んなで共用すれば良い。

「こんなのでどうだい?」

 陶器で出来た蓋付きの容器を料理長が渡してくれた。
 これなら丁度いい。

 私は即席のハンドクリームを容器に移し替えた。

「ありがとうございました!失礼します」

 終始ポカンとした料理長に礼を言って、私は持ち場に戻った。

「これは?」

 同じエリアで働く侍女達に、私は作ってきたハンドクリームもどきを見せた。

「肌荒れに効くお薬です。私もずっと使っていました」

 実際に使っていたのはフィリシアだけどね。

「フィリシアさんが使っているのなら安心だわ。私にも頂戴!」

「私にも!」

 わぁッと、侍女達がフィリシアに群がった。

「あ、今はダメです!ベトベトになるので、寝る前に付けるんです」

 まだ蜜蝋が固まっていないので、夜まで待つ様に止め、風呂から上がったら少量を手に取り、温めながら手に馴染ませる様に伝えた。
 これで手荒れが治ればめっけものだ。

「フィリシアって凄いのね!仮面といい、料理といい、手荒れの薬といい、何でも作れちゃうのね!」

 マリエッタが、前のめりで私を尊敬の眼差しで見る。

「何でもは無理よ」

 私は謙遜した。
 だって、これはフィリシアの記憶だもの。

 フィリシアは本を読むのも好きだったから、こういう知識がきっと沢山あるんだろうな。

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