長い夜、蒼い月

五嶋樒榴

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イケナイ乙女たち

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一夜は、土曜日から箱根に来ていた。
土曜日の朝、目覚めるとメールに気が付いた。

【ハーイ!アンソニー。私も日本に来てるのよ。箱根なんて何十年ぶりかしらね。暇ならお前もおいで】

イギリスにいるはずの祖母が箱根に来ていた。
なんでも、サバティカル休暇を取って、日本の経済を研究する目的で日本に来たと言う。

「まったく、おばあさんはいつも突然だ。日本にはどれくらい滞在するつもりですか?」

旅館は離れの一番良い部屋で、障子の向こうに露天風呂まで付いていた。

「ビザの要らないの期間までね。昨日成田に着いてすぐ箱根に来たんだよ。月曜から西へ向かって沖縄まで行って、日本海側から北海道へ。その後太平洋側から東京へ。12月にまた会えるよ」

にっこり祖母は笑う。

「秘書のマークは?」

「もちろん一緒よ。看護師も同行させてるから安心して。お前が日本に行って、私も生まれ故郷が恋しくなったわ。実家にも寄るつもり。お墓参りしたいからね」

綺麗な箸づかいで料理を食べながら祖母は言った。

「80年あっという間だったわ」

遠い目で祖母は言う。

「お前は仕事どうなの?日本はどうだい?」

ニヤリとして祖母は尋ねてきた。

「仕事はもう環境にも慣れました。住みやすくて良いところです」

にっこり笑って一夜は答える。
 
「こっちでひ孫は出来そうかい?」

祖母は楽しんでいる。一夜は苦笑い。

「いずれアメリカに帰りますから、日本では無理ですね」

由紀子との子供をつい想像してしまった。無理だと打ち消す。

「日本の女は良いわよ」

真顔で言う祖母に一夜は笑った。

「おじいさんを見てるから分かります」

一応、祖母の顔を立てた。

「アンソニー。一度失敗したからって逃げたらだめよ。欲しいと思ったら、全力で奪い取りなさい」

祖母の言葉にギクリとした。
まるで今の状況を知っているかの助言だった。

「さあ、お前ももっと呑んで食べなさい。どうせ毎日ろくなもの食べてないでしょ」

豪快な祖母に一夜は久し振りに癒された。
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