長い夜、蒼い月

五嶋樒榴

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新たな男

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そんな一夜の思いなど知らない栞は、早く週末になって一夜と会いたいと思っていた。
一夜が仕事の日は毎朝早いので、栞は我慢して一夜から連絡があるまではしないことにしていた。
栞のスマホが鳴った。
一夜かと思いスマホを取る。着信は、同じ人事部の轟知之だった。栞の一つ上で、爽やか系。人事部でも人気者だった。

「はい」

がっかりしながら栞は出た。

『こんばんは。急に電話ごめんね』

爽やかな声で知之は言う。

「どうしました?」

1つ上なので、栞は敬語で応対する。

『データベースの件なんだけど今打ち直してるんだ。ファイルが一冊なかったから、千堂さんなら知ってるかと思って』

栞はまだ、知之が仕事していると知ってびっくりして時計を見た。20時だった。

「何番のファイルですか?資料の棚にあるはずなんですけど、そこになければ、部長のキャビネットみてください。先日部長もチェックしてました」

栞が言うと、知之が移動している雰囲気が分かった。

『あ、本当だ。部長のところにあったよ。ありがとう!』

見つかって栞はホッとした。

「まだ残業ですか?」

『いや、もう帰るよ。流石に腹も減ったしね。そうだ、今度飯行かない?』

突然の誘いに栞は驚いた。
なんて答えればいいかわからない。同じ部の人の誘いは断りにくかった。

『前から一緒に飲みに行ってみたいと思ってたんだ。ダメかな?』

ダメかと聞かれて、ダメとは言えなかった。

「じゃあ、今度」

社交辞令のつもりだった。

『じゃあ、今度の金曜は?もう予定入ってる?』

まだ予定は入ってないが、万が一一夜に誘われたらと思うと答えられなかった。しかしそれで気まずくなるのも嫌だった。優柔不断の栞。

「明日まで待ってくれますか?明日返事します」

自分でも何を天秤にかけるような真似をしているかと思ったが、一夜の返事次第で決めようと思った。
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