すいぎょのまぢわり

五嶋樒榴

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第六話

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みんなでカラオケを出ると、茉理と絢斗は帰ると言い出した。

「えー!絢斗君帰るの?帰っちゃヤダぁ」

女子は必死で絢斗を引き止める。

「悪い。これからこいつに勉強教えるんだよね。じゃあね」

絢斗はそう言うと、女子がブーブー言っていても振り返らなかった。
茉理はやっと合コンから解放されてホッとした。

「もう絶対合コンなんて行かないッ!」

茉理が言うと、絢斗は嬉しそうな顔で自分の手首を握っている。

「どうした?手首痛いの?」

茉理がずっと握っていた手首。
途中で茉理が自然と手を離したが、それまで無意識でも茉理に握られていて絢斗は嬉しかった。

「いや。痛くない。ちょっとね」

絢斗はにっこり茉理に微笑む。茉理は訳がわからない。

「俺は今日来て良かったかな。茉理が嫉妬してくれたし?」

ニヤリと笑って絢斗は言う。茉理は恥ずかしくて仕方ない。

「絢斗に、先に彼女ができるのが、嫌なだけだよッ!」

素直になれない茉理に絢斗は笑ってしまう。

「はいはい。そう言う事にしとくよ」

もう何を言っても無駄なようで茉理は無言になる。

「……………絢斗は大親友だし、幼馴染だし。でこちゅーもハグも、ほっぺにちゅーも、髪撫でられるのも嫌じゃない」

茉理は俯きながら話し始める。
恥ずかしくて絢斗に面と向かって言えない。

「嫌じゃないけど、絢斗を好きだけど、それが恋かはわかんない」

「そのうち、それが恋だって気付く」

自信満々に絢斗は言う。

「お前ッ!なんで言い切れるんだよッ!」

真っ赤になって噛みつく茉理。

「嫉妬したじゃん。俺が女の子と仲良くしてたら。取られたくなかったんだろ?俺を男に取られる心配はないが、女には取られるもんな」

ふふふと意地悪な笑いを絢斗はする。
図星で何も言い返せない。

「ケツは狙わない。それ以外は良いだろ?またお前に触れるなら我慢する」

絢斗はそう言って茉理を優しく見つめる。

「なんだよ、それッ!勝手に決めんな!」

「ん?ケツも良いの?」

「違ッ!それ以外の話だよ!」

「だって、嫌じゃないって言ったじゃん」

平然と絢斗は言う。茉理は言い返せない。

「……………茉理。俺、マジにお前が好きだから、お前を大事にするから。今度こそ、お前が俺を恋愛対象として好きになるまで我慢する。ごめんな」

急に素直になる絢斗。茉理はもう本当に何も言い返せない。
幼馴染で親友で。
まだ恋愛には発展できないけど、茉理も絢斗を失いたくなかった。誰のものにもなって欲しくなかった。

「俺こそごめん。自分勝手だけど、俺、絢斗に側にいて欲しい」

茉理が本心を吐露すると、絢斗は満足そうに茉理の頭をポンポンとした。

「バーカ。それでいーよ。わがままな仔猫を飼い始めたと思うさ」

その言い方は引っ掛かったが、茉理も素直に笑顔になった。
もう一度、ふたりの関係がやり直せるのが嬉しかったから。
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