すいぎょのまぢわり

五嶋樒榴

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第十一話

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向葵と店の前で別れて、やっとふたりきりになって嬉しい絢斗。
シュンとなって落ち込む茉理。

「ん?どうした?食いすぎて腹が痛くなったか?」

茉理が元気がなさそうで絢斗は心配する。

「…………………別に!」

ムッとする茉理。

「なに怒ってんの?」

「なんで向葵君のホットドッグ食べたのッ!」

食い物の恨みかと、絢斗は茉理を見て苦笑い。

「あー、食いたかった?お前も貰って食えば良かったじゃん」

笑いながら言う絢斗。

「…………………別に、食べたかった訳じゃないよッ!絢斗が向葵君の欲しがったから…………………。なんか、イラッて」

真っ赤になって茉理は言う。

「なに?それってヤキモチ?」

茉理の反応に嬉しい絢斗。

「絢斗が向葵君の方が良いなら、そう言えば良いじゃん!俺が邪魔になったんだろッ!向葵君、めっちゃカッコいいしねッ!ふたりで見つめ合ったりとかさッ!わざと雰囲気悪くして、俺がいなくなれば良いって思ったんでしょ!」

茉理の告白に、絢斗はびっくりして開いた口が塞がらない。
どこをどう捻じ曲げれば、そんな思考回路になるのか、無理やり過ぎて理解不能。

「はぁ?見つめ合ってたか?どこをどう見てそう思ったんだよ!あいつと見つめ合うとか気色悪ぃ。それに、ホットドッグ食べたのも、あいつの食いかけを茉理に食わせたくなかったからだよッ」

呆れながら言う絢斗。
茉理は恥ずかしくなったのかプリプリしている。
その膨れっ面が可愛くて絢斗は吹き出す。

「ったく。まぁ良いか。お前がなにを勘違いしたのか分からねーけど、俺が好きなのは茉理だけ。で、茉理も俺が好きなんだろ」

余裕の顔で絢斗は言う。
茉理は真っ赤になったまま頷く。

「じゃあ、仲直りしよ。俺は、あいつが茉理にちょっかい出して来たのがムカついたから威嚇しただけだし」

絢斗も嫉妬していたんだと納得する茉理。

「びっくりしたぁ。絢斗、向葵君が好きになったのかと焦っちゃった」
「そんなことあるわけないだろッ!」

茉理が可愛い事を言うので堪らなくなる絢斗。
今、外にいるのが恨めしい。
さっさと部屋に連れ込みたい衝動に駆られる。

「とにかく向葵には気を付けろ」

いつの間にか、絢斗が向葵を下の名前で呼び捨てにしてるので茉理は笑う。

「絢斗も向葵君と友達になれると良いね」
「なりたくねーよッ!」

フンッと機嫌が悪くなる絢斗。

「向葵とふたりきりになるのは禁止だからなッ!」

「分かってるぅ」

保健室の掃除がふたりきりだった事は、絶対バレたらまずいと思う茉理。
本当にわかってんのかなぁと、半信半疑の目で見る絢斗。
でも、勘違いして嫉妬してくれたのは嬉しい絢斗だった。
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