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●人生の墓場●
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2021年。
まだ春には早い3月の夕暮れ、電動車椅子に乗る文香は、訪問して来た楜沢健に微笑んだ。
「健ちゃん、やっと来てくれた」
文香が嬉しそうに出迎えてくれたので、健も笑顔で文香にお土産に買って来たアップルパイを渡す。
「しばらく顔を出せずにすみませんでした。仕事がやっと落ち着きましたよ」
「ここのアップルパイ大好きよ。ありがとう。それにしても葵君の片腕は大変そうね」
「ええ、とても大変です。父は自由人ですから」
健はクスクス笑う文香の後ろからリビングへと入った。
文香は30年前の31歳の時、夫の智和の目の前で投身自殺を図った。
突発的にベランダから飛び降りたのだが、3階だったことと、落下した場所が駐車場で、車の天井がたまたまソフトトップだった為に運良くクッションとなり、重体で病院へ運ばれたものの一命は取り留めた。
その後、智和は離婚する事を大人しく同意したが、後遺症として下半身に麻痺が残ってしまった文香は離婚を撤回して、全ての世話を智和にさせる事にした。
ただ智和が文香の世話と言っても、昼間は智和が仕事で家を空けているのでヘルパーを雇っている。
「ねえ。あなた会社勤め辞めたいと言っていたじゃない?これを機にお義父様の会社から独立したら?」
文香が自殺未遂を起こしたことで、父や兄だけでなく、会社での評判を落とした智和は、実家から資金を借りて会社を設立したのだった。
その後、事故のあったマンションは売り払い、今は文香の為とバリアフリーの平家に住んでいるが、全ては、いい夫を演じるためのパフォーマンスだった。
「健ちゃんもそろそろ結婚しても良い年頃よね。お相手は?」
健の顔を見れば、文香は健の結婚を心配する。
「話はありますよ。実は、この度正式に婚約することになりまして。相手はこの春大学を卒業するんですけどね」
健の報告に、文香はパァと明るい顔になる。
「まぁ!素敵!健ちゃんならお着物でもタキシードでも何でも似合いそうねぇ」
もう健が結婚するのが決定のように文香は喜ぶ。
健は複雑な心境だったが、文香の前ではただ微笑んだ。
まだ春には早い3月の夕暮れ、電動車椅子に乗る文香は、訪問して来た楜沢健に微笑んだ。
「健ちゃん、やっと来てくれた」
文香が嬉しそうに出迎えてくれたので、健も笑顔で文香にお土産に買って来たアップルパイを渡す。
「しばらく顔を出せずにすみませんでした。仕事がやっと落ち着きましたよ」
「ここのアップルパイ大好きよ。ありがとう。それにしても葵君の片腕は大変そうね」
「ええ、とても大変です。父は自由人ですから」
健はクスクス笑う文香の後ろからリビングへと入った。
文香は30年前の31歳の時、夫の智和の目の前で投身自殺を図った。
突発的にベランダから飛び降りたのだが、3階だったことと、落下した場所が駐車場で、車の天井がたまたまソフトトップだった為に運良くクッションとなり、重体で病院へ運ばれたものの一命は取り留めた。
その後、智和は離婚する事を大人しく同意したが、後遺症として下半身に麻痺が残ってしまった文香は離婚を撤回して、全ての世話を智和にさせる事にした。
ただ智和が文香の世話と言っても、昼間は智和が仕事で家を空けているのでヘルパーを雇っている。
「ねえ。あなた会社勤め辞めたいと言っていたじゃない?これを機にお義父様の会社から独立したら?」
文香が自殺未遂を起こしたことで、父や兄だけでなく、会社での評判を落とした智和は、実家から資金を借りて会社を設立したのだった。
その後、事故のあったマンションは売り払い、今は文香の為とバリアフリーの平家に住んでいるが、全ては、いい夫を演じるためのパフォーマンスだった。
「健ちゃんもそろそろ結婚しても良い年頃よね。お相手は?」
健の顔を見れば、文香は健の結婚を心配する。
「話はありますよ。実は、この度正式に婚約することになりまして。相手はこの春大学を卒業するんですけどね」
健の報告に、文香はパァと明るい顔になる。
「まぁ!素敵!健ちゃんならお着物でもタキシードでも何でも似合いそうねぇ」
もう健が結婚するのが決定のように文香は喜ぶ。
健は複雑な心境だったが、文香の前ではただ微笑んだ。
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