インシデント～楜沢健の非日常〜

●目には目を歯には歯を●

4-1

蓮司は約束の日に健に連絡をすると、書店のバイトが終わった後に会おうと言われた。
とりあえず調べた被害者達3人の情報と、大家から聞いた話、大怪我をさせられた同級生の噂がある事を健に報告しようと思った。

「なるほどね。3人は、高校で初めて知り合いになって、それまでは全く交友関係はなかったと言うことか」

健と蓮司は、前回と同じワインバーに再び来ていた。
蓮司が調べた事を、健はゆっくりと目を通す。

「大怪我をさせた同級生ね。それは誰か分かっているのか？」

蓮司は首を振る。

「そこまで調べる余裕がなかった。被害者達の高校の同級生とは全く出会えなかったんで」

おそらく、この部分は警察が捜査しているであろうから、大知に尋ねても教えてくれないだろうと健は思った。
それか、犯人がもう捜査上に浮かんでいるので、大知も教えられないのかもしれない。もう逮捕されている可能性もあると考えた。

「大家さんの話の感じでは、俺が助けた重夫って奴がおそらく1番素行が悪かったと思う。それに後の2人が引き摺られていたような感じだな」

「確かにそんな感じだね。蓮司が調べた事で確信を得たよ。どうやら今回の事件は怨恨の線が濃厚だ」

健はため息をつく。

「やれやれ、ただの被害者でやっぱり終わりそうにないね。その大怪我をしたって被害者が噂ではなく絡んでるとしたら、しばらくこの件は引きずりそうだ」

管理会社としては、元から問題のある重夫家族に富子が頭を悩ませている事は聞いていたが、今回の騒動の元々の原因が重夫にあると分かっては、富子としては尚更重夫家族への対処を考えているだろう。
しかし、本人達が出て行くつもりがないのに、退去命令を出すわけにはいかない。