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ワインを飲みすぎたせいか健は夜中に目を覚まし部屋を出た。
トイレは部屋を出た突き当たりにあるので、廊下を静かに歩いて向かう。
ふと、微かに聞こえる声に耳が反応した。
その声は、階下から聞こえる。
こんな夜中に、まだ麗花達が起きているのかと思いながら、健はトイレに入って用を足す。
トイレから出ると、聞こえた声が更に大きく、しかも泣き声のように聞こえ、健は気になり階下へと向かった。
その声はリビングから聞こえて来る。
まるで子供のように泣きじゃくる声に、健はリビングのドアを開けた。

「麗花さん?」

床に座り込み両手の甲で目を押さえて、麗花は子供のように泣いていた。
健はその姿に驚き麗花に近付く。

「麗花さん?大丈夫ですか?どこか痛いんですか?」

何が起きているのか分からず健は心配になる。
麗花は何も答えずただ泣きじゃくっている。

「麗花さん」

健はどうしていいか分からず麗花の肩に手を当てると、麗花はビクンと反応して、ハッとした顔で健を見る。

「……ママが、いないの。どこに行ったの?」

麗花の声に健はゾクリとした。
麗花の声なのだが、まるで子供のような表情の麗花に健は声が出せない。

「パパもいないの。パパもどこに行ったの?探してもいないの。ママぁ!パパぁ!」

麗花が再び泣きじゃくり健にしがみつくと、健の胸に顔を埋め甘えるようにママ、パパと呟き続ける。
健はどうしていいか身動きが取れなくなった。

「麗花!」

清太の声に、健だけがハッとした。
麗花はまるで聞こえなかったように健に甘えてしがみついて離れない。

「麗花、ダメじゃないか」

清太が腕に引っ掛けていたタオルケットで麗花を包み、健から引き離すと抱き締めた。
健はやっと解放されてホッとする。

「……あ、あの、俺、何も。ただ泣き声が聞こえて」

清太が麗花の姿に険しい顔をしていたことで、流石の健も動揺していた。

「いえ、何も勘違いしてませんから安心してください」

健はホッと胸を撫で下ろした。

「麗花は夢遊病の気があるので。最近は大丈夫だったのですが、久しぶりの来客に興奮したのだと思います」」

「夢遊病?」

確かに普通の状態でないことは健にも分かった。

「すみません。麗花を暖めたいので、今夜はここで。明日、改めてお話しします」

清太は麗花を抱き上げると、そのまま住居部分へと麗花を運んで行ってしまった。
健は何が起きたのか理解できなかったが、麗花が夢遊病だと聞いて、ひとまず今夜は眠ることにした。
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