インシデント~楜沢健の非日常〜

五嶋樒榴

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「とても素敵な方ですね」

健が清太を褒めると、麗花は照れながら微笑む。

「ワインのことになると子供みたいになる人なんです。東京へ行っても、その仕事を活かせるのでホッとしています」

「どう言った会社ですか?」

「輸入ワインを扱う商社に」

清太にぴったりな就職先が決まって良かったと健は思った。

「なるほど。三国さん程の知識のある方なら、きっと東京でも活躍されそうですね」

「そうだと良いんですが」

全くワインから離れるわけではないんだと知り、麗花と清太の門出を心から祝いたいと健は思った。

「やったー!私の勝ちー!」

オセロの決着がついてマドカがはしゃいでいる。

「あーあ、次は手加減しねーよ」

蓮司の負け惜しみにマドカはイヒヒと悪い顔で笑う。
2人が楽しそうにオセロに興じる姿を眺めていると、清太が細長いボトルのアイスワインを持って戻って来て健に見せた。
小さなワイングラスに注がれる見た目は、甘露なシロップのようで貴腐ワインに似た感じだが、味の想像は全くつかなかった。
マドカはスマホでアイスワインの写真を撮る。

「どうぞお召し上がりください」

清太に勧められ、健はグラスに鼻を近付け香りを愉しむと口に含んだ。

「ああ、確かに、私が飲む貴腐ワインとは別物ですね。思った以上にすっきりとしている」

グラスの中の琥珀色を眺めながら健は至福の時を感じる。

「美味しそう!私も飲みたい!」

「あ、俺も!」

我慢できずにマドカと蓮司が健の側による。

「だーめ。お前達は未成年だろ」

止められてマドカは膨れっ面になる。

「ちぇー」

面白くなさそうに蓮司もソファの背もたれに体を預けて拗ねる。

「お前達が成人したらそれぞれにプレゼントしてやるよ」

「約束だからね!」

マドカが直ぐに反応した。

「ご予約お待ちしております」

清太もそう言って笑った。

「しかし似た土壌でも、この辺りではワインの生産はないんですね」

アイスワインを飲み終えた健が清太に尋ねる。

「この辺りの山は保水性は有るのですが、粘土質で水はけが悪いんですよ。それぞれの地域でやはり多少は変わってますね」

「なるほど。でも、こうした静かな自然の中で、ゆったりと過ごせるのはとても贅沢な休日になりましたよ」

全てに満足した健の言葉に、麗花と清太もホッとした。
このペンションの最後の客の健達に、極上のもてなしをしたいと思っていた。

「さて、明日は早くに起きろよ」

健はマドカと蓮司に声を掛けると、3人は2階の客室へと向かった。
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