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健が麗花と清太に連絡が取れなくなる数日前、遺体の身元が判明した事で県警の捜査官3名が、重要参考人として麗花と清太に事情聴取をする為に、2人が住むペンションへやって来た。
本当なら東京へ引っ越す予定だったのだが、朱鷺子と禄郎の遺体が見つかった事で、麗花はこの地から離れる事が出来なくなっていたのだった。

「東田さんご夫妻の件で、署までご同行していただきたいのですが」

遺体の発見現場にもいた年配の捜査官が、麗花と清太に任意で事情聴取をしたいと願い出る。
清太は発見された遺体が朱鷺子と緑郎と分かった時点で、事情聴取を受けるのも止む得ないと思っていたが、麗花は朱鷺子と緑郎の死のショックで警察へ行く事が怖くて仕方なかった。

「どうして?だって叔母さんは東田さんから逃げたんじゃ無かったの?なんで殺されていたの?」

麗花は清太の腕にしがみ付き泣きながら震える。

「逃げたと言う事はどう言う事ですか?そう言ったことも、詳しくお話を伺いたいのですが」

30代の捜査官の女性が、なるべく優しい口調で麗花に接する。

「叔母は、東田さんの暴力に耐えきれずここを去ったんです。そしてその後を追う様に、東田さんも出ていってしまって。2人の行方が分からず私はただ待っていたんです!」

「東田朱鷺子さんが殺害されていた事も何も知らなかったんですね?」

あくまでも優しく女性捜査官は尋ねる。
麗花をこれ以上興奮させてしまわぬ様に冷静に対応する。

「知らない!私は何も知らない!叔母さん達が死んでいたなんて何も知らない!」

それでもパニックを起こしかけている麗花は、清太にしがみつきながら声を荒げる。

「落ち着いて。大丈夫です。お話を伺いたいだけです」

宥める様に女性捜査官が麗花に近付くと、麗花は激しく呼吸を繰り返していたせいか過呼吸を起こし、失神してその場に崩れ落ちた。

「麗花!」

清太は慌ててしゃがむと麗花を抱きしめる。捜査官達も、麗花の姿にその場に立ち尽くした。
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