インシデント～楜沢健の非日常〜

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清太が東京の健のオフィスへ訪ねて来た。麗花の事で尽力してくれている健に直接礼を言いたかったのだ。
麗花は今、拘置所にいる。

「弁護士の先生を紹介していただいてありがとうございました。とても心強い方で全てお任せできます」

「いえ。麗花さんが解離性同一性障害と知って、なんとしてでも助けたいと思ったまでです」

麗花が解離性同一性障害だと言う可能性は高槻から聞いていたが、まさか殺人事件まで絡んでいたのは思ってもいなかった。
しかも禄郎が殺害されたのは、マドカが怖いと気にしていた隣の部屋だった事で、知らずに何かを感じ取っていたんだと思った。

「知らなかった。麗花がそんな病気だったなんて。その原因が、東田だったなんて」

清太は弁護士から全てを聞いて、麗花が解離性同一性障害になった原因も聞かされていた。

「やはり、麗花さんも東田さんの被害者だったんですね」

清太は頷く。
健は高槻から説明されていた事を思い出していた。
幼少期の虐待。
主に性的虐待に遭った子供が、解離性同一性障害になりうる事。
禄郎は朱鷺子にDVを行いながら、麗花に対しては幼少の頃より性的虐待を繰り返していた事が明らかになったのだ。

「あの夜私が会った麗花さんも、実は別人格だったのですね」

「ええ。麗花……東田を殺害したミラは、幼い口調の人格はセラだと言っていました。東田から虐待を受けミラが生まれ、その後、亡くなった両親を恋しがった時に生まれたのがセラの様です」

清太は耐えきれないと両手で顔を覆う。

「もっと早くに気付いてやれば良かった。違和感があったのに、俺は麗花を苦しめたくないと目を瞑っていた。俺が臆病だったから、麗花の別人格をも傷つけた」

「それは違います」

悔やみ自分を責める清太に、健は優しく声をかける。

「きっと気付いてほしくなかったんです。麗花さんの別人格は、ただあなたを愛していた。あなたと麗花さんが幸せになる未来しか見えていなかった。それが望んでいた事だったんですよ、きっと」

健の言葉が、ミラの言葉のように清太の胸を締め付ける。
ミラも清太には知られたくなかったと言っていた。