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●愛したのが始まり●

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静真が家を出て、東京での生活が始まった頃、石浜家に1本の電話が入った。

「はい、石浜でございます」

電話に出た裕子は、相手の名を聞いて顔を強張らせた。

「……主人に代わります」

裕子から、電話の相手の名を聞いて受話器を受け取った弘は、やはり強張った顔で電話に出た。

「その件は、もう少し待ってもらえないか?もちろん君の気持ちは十分分かっている。でも、それは君の父親にも言った事だよ…………今はまだそっとしておいて欲しい」

弘の震える声を聞いて、電話の相手はなす術がない。

「頼む。もう少しだけ、静真を俺達と本当の親子でいさせてくれ。頼む……お願いします」

弘の懇願に、電話の相手はもうそれ以上強く出ることは出来なかった。

『……分かりました。でもこの先、本当に決断しなくてはならなくなった時は、ご協力お願いします』

電話の相手、楜沢健?はそう言って電話を切った。
弘は青ざめた顔で受話器を元に戻す。

「あなた……」

心配して裕子は弘に寄り添う。

「大丈夫だ。まだもう少し待ってもらう。ただ、そろそろ心の準備をしなくてはならないかもしれない。静真だっていずれ結婚する時が来るだろう。その時にはきちんと話さなくてはならないのだから」

弘の言葉に裕子はただ頷くしかできない。
弘は静真と初めて会った日のことを思い出す。
裕子と結婚し15五年。
不妊治療が上手くいかず、夫婦で決断したのは里親になると言うことだった。
その時出会ったのが、2歳の静真だった。
両親を亡くし、児童養護施設に預けられていた静真を引き取ったのだ。
静真が小学校に上がる前に、静真が“貰われっ子”と虐められないように、地元を離れて誰も知り合いがいない土地に家を建てた。
そうして何も知らずに育てて来た静真に、真実を告げることをずっと石浜夫妻は悩んでいた。

「……大丈夫だ。もう少し大人になれば、真実を知ったとしても静真だって俺達の気持ちを理解してくれる。あともう少しだけ……」

自分に言い聞かせるように弘は呟いた。
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