インシデント～楜沢健の非日常〜

●１００万分の１●

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仕事が終わり、菜々緒は夕飯の材料を買って、真古登と暮らすアパートに帰って来た。
このアパートは、真古登が勤務するニーチェ不動産の賃貸会社の管理物件で、家賃は給与から天引きになっているが、菜々緒は生活費として真古登に自分の給料のほとんどを渡していた。
外廊下にキッチンの明かりが漏れていて、真古登が今夜は約束通り家にいると分かり少しだけホッとした。
外で遊び歩かれては、無駄にお金を使って借金だけが増えるからだ。

「ただいま」

菜々緒が家の中に入ると、真古登はベッドに横になってスマホを弄っていた。

「おかえりー。腹減ったから早く飯にして」

菜々緒の顔は一切見ないで、真古登はただ要求だけをする。

「お昼は？」

「食う金ねーもん」

朝の1万円は全てすったのかと、菜々緒は何も言わずに手を洗い夕飯の支度を始める。

「なぁ。今日さぁ」

真古登の声に反応して菜々緒は真古登を見た。

「5万、借りちゃったさぁ」

また借金したと知って、菜々緒の顔は強張る。

「……お給料でどうにかなるでしょ？その為に一緒に住んでるし、生活費だって、結局私が全部支払ってるんだし」

今の菜々緒には、真古登の借金など手伝う余裕はない。

「んー。でも実家にも金、送ってるしさぁ」

嘘か本当かは実は菜々緒は知らないが、大学の学費を実家に返していると真古登は言っていた。
もちろん実際は実家に送金などしていない。