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●100万分の1●
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疋田逸郎は、買い物袋を持って帰宅すると、玄関の外鍵を開け内鍵も開けた。
あまり近所付き合いはないものの、隣人に外鍵のことで尋ねられた時は「以前空き巣に入られたんですよ」と言ったので、外鍵をしていても不審には思われなかった。
「ただいま」
シンと静まる部屋で逸郎は独り言のように言い、キッチン台に買ってきた買い物袋を乗せると部屋の中に入った。
「ただいま」
もう1度、今度はベッドの上に座る相手に向けて言う。
ベッドの上には、失踪中の菜々緒が両手に手錠を掛けられて座っていた。
「……お帰りなさい」
虚な目で菜々緒は逸郎を見る。
外鍵をしていたのは、空き巣に入られたからではなく、菜々緒が外に逃げないようにだった。
実際には、空き巣に入られたことなどない。
「夕飯が出来るまでもう少し待ってろ」
逸郎はネクタイを緩め、スーツを脱いで部屋着に着替える。
菜々緒は小声で返事をすると、ただベッドの上で大人しく座っていた。
逸郎はキッチンのシンクで、自分の弁当箱を洗い始める。
菜々緒の弁当箱は、もう洗われて水切りカゴの中に入っていた。
「今日さ、お客のところでさ」
逸郎は昼間あったことを一方的に話し始め、菜々緒はただ大人しく聞く。
菜々緒は逸郎と出会い系で知り合い、パパ活で何度か会ううちに心を許してしまい、友達夫婦も来るからと言う誘いを信じて逸郎の部屋に入ってしまった。
浅はかだったと後悔しても遅かった。
その日から、菜々緒は逸郎の部屋から出られなくなったのだった。
「明日はこれを着ろ」
夕食が済み、逸郎がクローゼットから出した、女性ブランドショップの紙袋からワンピースを取り出した。
「あの、外に出られるの?」
やっと外の空気が吸えるのかと菜々緒は微笑む。
逸郎はその顔を見て頷く。
「明日、お袋がこっちに出てくる。お前に会いにな」
菜々緒はドクンと胸が鳴った。
前に逸郎が母親との電話で、結婚したい相手がいると話していた事を思い出した。
「お前は俺の婚約者だ。お袋に気に入られる様にしろよ」
「……はい」
菜々緒に拒否権はなかった。
あまり近所付き合いはないものの、隣人に外鍵のことで尋ねられた時は「以前空き巣に入られたんですよ」と言ったので、外鍵をしていても不審には思われなかった。
「ただいま」
シンと静まる部屋で逸郎は独り言のように言い、キッチン台に買ってきた買い物袋を乗せると部屋の中に入った。
「ただいま」
もう1度、今度はベッドの上に座る相手に向けて言う。
ベッドの上には、失踪中の菜々緒が両手に手錠を掛けられて座っていた。
「……お帰りなさい」
虚な目で菜々緒は逸郎を見る。
外鍵をしていたのは、空き巣に入られたからではなく、菜々緒が外に逃げないようにだった。
実際には、空き巣に入られたことなどない。
「夕飯が出来るまでもう少し待ってろ」
逸郎はネクタイを緩め、スーツを脱いで部屋着に着替える。
菜々緒は小声で返事をすると、ただベッドの上で大人しく座っていた。
逸郎はキッチンのシンクで、自分の弁当箱を洗い始める。
菜々緒の弁当箱は、もう洗われて水切りカゴの中に入っていた。
「今日さ、お客のところでさ」
逸郎は昼間あったことを一方的に話し始め、菜々緒はただ大人しく聞く。
菜々緒は逸郎と出会い系で知り合い、パパ活で何度か会ううちに心を許してしまい、友達夫婦も来るからと言う誘いを信じて逸郎の部屋に入ってしまった。
浅はかだったと後悔しても遅かった。
その日から、菜々緒は逸郎の部屋から出られなくなったのだった。
「明日はこれを着ろ」
夕食が済み、逸郎がクローゼットから出した、女性ブランドショップの紙袋からワンピースを取り出した。
「あの、外に出られるの?」
やっと外の空気が吸えるのかと菜々緒は微笑む。
逸郎はその顔を見て頷く。
「明日、お袋がこっちに出てくる。お前に会いにな」
菜々緒はドクンと胸が鳴った。
前に逸郎が母親との電話で、結婚したい相手がいると話していた事を思い出した。
「お前は俺の婚約者だ。お袋に気に入られる様にしろよ」
「……はい」
菜々緒に拒否権はなかった。
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