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●100万分の1●

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逸郎の他にも、菜々緒はパパ活でデートをする相手がいたが、逸郎のようにリピートする相手はいなかった。
それは、菜々緒が性的な関係を一切拒否していたからだった。
そうしてリピートして会うのは逸郎だけになった。

「菜々緒ちゃん、コーヒーショップでバイトしてるって言ってたよね。じゃあコーヒーにはうるさいとか?」

「そんな事ないですよー。コーヒーは好きだけど、甘い方が好きだからあまりブラックで飲まないし」

「あー、分かるー。そんな感じ。クリームたっぷりとか似合いそう」

「当たりです」

たわいのない会話に逸郎は癒される。
仕事ではそこそこの地位にいて給料も不満はなく、部下や後輩にも女性はもちろんいるが、会社の女子社員には菜々緒のようには接することができない。

「菜々緒ちゃんに勧められたDVD借りて見たよ。面白かった」

「逸郎さんも気に入ってくれて良かった」

菜々緒も、真古登とは違う大人の男である逸郎に、恋愛感情はなくても癒されるものを感じていた。

「本当は一緒に見れたら、もっと楽しいんだろうけどね」

「……え、と……」

「分かってるよ。無理だよね。きっと俺の部屋で2人きりになったら、俺、菜々緒ちゃんに何もしないって約束できないし」

正直に話す逸郎に、菜々緒は申し訳ない気持ちになった。

「でも、俺、菜々緒ちゃんと会えなくなることの方が怖いんだ。恋人になれなくても、友達っていうか……もちろん、会ってくれるならデート代はちゃんと払うし」

逸郎の優しさに菜々緒はもう甘えられないと思った。

「あのッ!友達なら、お金いただくわけにはいかないです!」

真面目で正直な逸郎に、菜々緒もパパ活でお金を貰うことに抵抗を感じていた。

「今日から、友達として会いませんか?」

菜々緒の言葉に逸郎はときめく。

「でも、お金、大変だって」

「……もう良いんです。こんな事、いつまでもしてちゃダメだって思ってたし。もう辞めます」

菜々緒はそう言ってスマホを出すと、パパ活で使っていた出会い系サイトを逸郎の目の前で退会した。

「菜々緒ちゃん。じゃあ俺も退会するよ。俺、菜々緒ちゃんと会えるだけで良いんだ。今までみたいに会えるだけで」

逸郎もその場で退会した。

「俺、もっと菜々緒ちゃんに信用してもらえるようになるね。こんな出会いだったけど、俺、菜々緒ちゃんに会えて良かった」

嬉しそうな逸郎の笑顔が可愛いと菜々緒は思った。
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