何処でも居ない人

されど電波おやぢは妄想を騙る

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第二話 実にホラーだったり。

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 今しがた、一人孤独な昼食を済ませた僕。
 次なる行動は『映画を観に行く』だったり。

 コンビニの直ぐ近くにある繁華街に、一際大きな映画館がある。現在、そこへと徒歩で向かっている真っ最中だった。

 ただ『何処でも居ない人』になる僕は、道中、細心の注意を払うことに専念する。
 何故なら、車に撥ねられると言った事故に遭おうが、誰も気づいてくれやしないから、だ。
 そんなで僕のこの摩訶不思議人生が終わるなんて、全くもって納得できませんからね。


 ◇◇◇


 程なく、映画館へと無事に到着した僕。
 館内へと入り、そのままお目当ての映画が上映されるホールに向かった。

 当然、チケットなんてもんは買いやしません。
 だって、チケット売り場に並ぼうが、そのまましれっと入ろうが、誰も気づいてくれやしないのだから。

 ついでにチケット売り場に併設される購買で、ポップコーンと飲み物をやっぱり勝手に拝借し、さっさと移動した。

「うっは……上映時間までまだだいぶあるのに、既に結構な人が居るのな」

 遮光の重たいドアを押して中に入ろうとする際、満席ではないにしろ既にそれ並に客が居たことに、ちょっと驚くのだった。

「素人作家さんのラノベが原作なドラマの割に、意外にもすげぇ人気あるのな。あ! 主要な出演者の大半が、今話題のアイドルを起用してるってのが要因? 宣伝も凄かったし。まぁ、金かけた結果? 実に納得」

 僕はそうウンウン頷いた。

 ちなみに僕が観に来ている映画ってのは、『何カガ、居ル――』と言うタイトルの、ラノベが原作のホラー映画だったり。

(絶賛、何処でも居ない人にされる僕への当てつけ? 或いは挑戦か? 納得できません。なんてね、はっはっは)

 そんなことを思いつつ、前過ぎず後ろ過ぎず、大迫力のスクリーンで楽しめるベストポジションな特等席へと腰掛けた。

(うは。異国の人にも人気なんだ……)

 僕が選んだ席の左隣に座るのは、小悪魔的衣装に身を包む、異国情緒溢れんばかりの金髪ツインテールな超絶美少女だったり。

(しかも姉妹で仲良く鑑賞か……良いね)

 実はその奥隣にも全く同じ顔をした、銀髪超絶美少女さんが座ってたり。どうやら双子らしい。
 金髪と銀髪の色の違いだけ……でもなかった。さる局地的一部分――片や『つるぺったん』に対し、もう一方は『たゆんたゆん』と大きな差があった。

(こちらさんは……また気合い入ってますねぇ……)

 微笑ましく見てた僕の右隣も、上品な良い香りが漂ってくる絶世の美少女だったり。

 今から観る映画の劇中に登場する、主要人物を真似たコスプレだろうか?
 白く清楚な夏服のドレスに身を包み、貴婦人が好む鍔広の帽子をそっと膝に置いて、物静かかつ優雅に座っていた。

 ただ実に摩訶不思議なことに、真隣りの席だゆうに、肝心のご尊顔に影が落ちててちゃんと拝謁できないってのは何故に?
 まだ照明が落ちて薄暗いと言ったわけではないのに、だ。納得できません。

(まぁ、身形から察するに超絶美人さんで間違いないでしょう。つまり両脇に花で映画鑑賞できるって、実に役得、役得)

 そんなあらゆる意味でベストポジション……ちょっとだけ摩訶不思議な状況ではあるけども。現状の僕と比べれば、誤差の範囲だ気にするななレベルで随分とマシ。
 なのでポップコーンを頬張りつつ、上映が始まるのを心待ちにしていた――。


 ◇◇◇


 程なくブザーが鳴り、照明が落とされる。
 そう。待ちにまった上映時間がやってきたってわけ。

 実は待っている間、ちょっと心配していたことが起きなくてホッとしてたり。

 何処でも居ない人にされる僕の席――つまりと勘違いして座ってくる人が居なかったことに、だ。
 座れずに立ってる人も多い満席だと言うのにね? 納得できません。

(何故か自然と避けられるのな……やっぱり摩訶不思議現象だな。納得できません)

 そんなことを考えていると、隣りで小声で話す双子の会話が耳に入ってきた。

「ねぇ、アイ。ボクのからさ、妙な重圧プレッシャーがビシバシきてて、キュピーンってなるんだけど?」

「あ、うん。未来お姉ちゃんもなんだ。アイもずっと感じてる。でも……なんか妙なんだよね……」

 やっぱり僕は認識されてない? 或いは見えてないっぽい?
 それでも何かを感じるって……君たちは霊能者、或いはエスパーか何かの特異技能持ちな方なのでしょうか?

「やっぱアレ? ? 実は本物が観に来てたりして……」

「ちょっ⁉︎ 怖いからっ! お姉ちゃん、怖いからっ!」

 え? 僕のことじゃないのか。
 でもお隣りのお姉さんが実際そうだったら……実に怖いな、うん。

「最早、人類の分類から遺脱しまくってるお姉ちゃんが言うと、洒落になんないって」

 はい?

「はっはっは。冗談よ。それはそうと、しれっとディスるのヤメレ」

ひはぁい痛いひはぁいやう痛いよう⁉︎」

 銀髪美少女さんの両頬っぺたを、容赦なく引っ張ってる金髪美少女さん。

 僕には意味不明な会話内容だけども、仲睦まじい双子には違いないかな、うん。


 だがしかし。その双子が話す次の一言に、僕は肝が冷えた。


「痛い……痛いって……って、アレ? お隣りのお姉さんが?」

「ありゃ……本物だったか」

 慌てて僕も右隣りを見てみてみれば――いつの間にか、姿が消えていらっしゃるときた。


 忽然と気配なく居なくなるって……まぢ物でしたか。納得できません。



 ――――――――――
 空気君は滅多なことでは動じない。当然、周囲も知らんぷり(悩)
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