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Chapter.05

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「来賓はアンタ等か。どんだけ待たせんだよ、全く」

「――ご機嫌好う、夢野警視正様」

「Have a nice day! Commander Mr.Yumeno!」

 涼しい顔でしれっと傅く金髪メイドと、丸っと英語の軽いノリで挨拶をかます黒髪メイド。

「取り敢えず、こちらにお掛け下さい」

 ミミに促され、容姿と身形に沿った優雅な佇まいと仕草でソファーへと腰掛ける二人。

 実はこの二人、世界シェアに名を連ねる大企業である伏木コンチェルンが立ち上げた、家政婦事業の一員になる。

 しかし、それは偽装された表向きの話。

 その実態は、軍に匹敵する新しい形態の傭兵組織――簡単に言えば民間軍事会社。

 そこのツートップが、目の前の彼女達だ。

 隊員が身に纏う軍装は、英国様式の使用人ヴィクトリア朝・の作業着メイド服
 当然、ほぼ全員が見目麗しい女性。
 特殊部隊を凌ぐ対人戦に秀で、要人警護や施設警備なども結構な頻度で請け負っているときた。
 メイド服に身を包んだ、ちょいとクセのあるエージェントってのが正体。
 顔合わせの時に創作漫画かよって思っちまったよ……世も末だよな。

「――堅っ苦しい挨拶は面倒臭いんで抜きに頼むと、前に伝えた筈だが? 各国語が喋れるんだから、ちゃんと日本語で喋れ!」

「では、私は敬称略にて、とお呼び申し上げます」

Roger了解、日本語で会話だな」

「俺は有人ありひとなんだけどな……日本語の発音は難しいし止む無しだ。――で、今日はあれか? この前の少女の件か?」

 自分の椅子に座ったまま、机の上に両肘を突いて顎下で組んで尋ねる俺。
 
「左様に御座います」

「上から許可されてるから、包み隠さず情報は提供させてもらうが、そっちも腹芸は抜きにしてくれよ?」

「勿論に御座います。先日、私達だけでは手に負えない案件だと、既に理解しておりますので」

「そうか? 見た目からは想像もつかない、凄い腕前だったように思うけど?」

「お褒めに与り、光栄に存じます」

「お互い面倒な社交辞令は抜きにして、この被害者と容疑者のマル秘調査資料に取り敢えずは目を通してくれ」

「こちらをどうぞ」

 俺の指示を受けたミミが、ソファーに座る二人に二つの黒いファイルを其々手渡す。

「さて、先の仏さん被害者の少女についてはアンタ等も知っている通り、極一般的な女子高生で間違いない。違うのは容姿端麗と八方美人な性格ってのが、意図せず妬みを買っていたって事だ」

「御意の通りに御座います。私共の調べでも、害者からは埃一つ出ておりません」

「要は虐めを受けていた――恐らく、その所為で負の感情が膨らみ、に付け込まれる隙を与え、結果、取り憑かれてやらかしたんだろうな……」

 俺の権限において排除した少女は、生前の学校生活は明るく温厚。
 虐められる要素はこれっぽっちも出てこなかった。

「根も葉も無い噂や中傷に苛まされて……悲しい事よね……」

 ミミが眉根を寄せて、嫌そうに呟いた。

「容疑者の方――直接的に虐めに加担していた下衆な連中は十数名に及び、その中心的人物であるのがこのアバズレ。普通にしょっ引くなら相当に厄介な相手だな」

 だが、そんな少女を妬んだ者が居た――所謂、逆恨みってヤツだよ。

 リーダー格であるアバズレが、少々、厄介な人物で、権力を傘に着る政治家の娘ってわけ。
 自分の取り巻きや親を利用して、かなり陰険且つ胸糞悪い悪さをやらかしてやがる。
 しかもその罪自体を、親と共謀して全てを揉み消し、しれっと無かった事にしやがった。

「後な、その写真。首の所を良く注視してみてくれ。刺青で誤魔化して解り難いけどな」

「これは……狂信者の紋⁉︎」

 目を見開き素っ頓狂な声を上げる金髪メイド。
 事前に情報を渡してあるので、それが何を意味する物かを知っているからだ。

「そう言う事。アンタ等が追っている、人に成り代わるとか言うケッタイな連中――人為らざる者達とは別者ってわけ。俺の管轄――悪夢に魅せられただ」

 に精神を壊され悪夢の苗床にされた者には、必ず身体の何処かに生贄の印であるケッタイな紋様が浮かび上がる。
 悪夢に魅せられて自らの囁きに従う忠実な下僕――それが狂信者ってわけだ。
 始末の悪い事に精神を壊された者は……もう元には戻せない。


 最悪の場合、次なる使徒屍人になり、殺戮の限りを尽くす脅威となり得る。


「俺の権限を行使すれば、そのアバズレは直ぐにどうとでもできる。問題はそのアバズレを貶めた元凶であるの方だ。俺は元凶であるそいつを叩く」

 つまり、下僕であって元凶では無い。
 下僕をいくら排除した所で、何も解決しないのだ――。

「畏まりました。私共は引き続き、関係者の内定調査及び監視の任に就くとします。直接的に支援はできないと思い知らされました故」

 溜息を吐き項垂れる金髪メイド。

「まさか対物ライフルが無効って……Schopスコップで戦い初めた時は何のJoke冗談かと本気で驚いたからね!」

 お手上げだと言わんばかりに、両手を大袈裟に広げて戯ける黒髪メイド。

「まぁ、内定調査自体は必要ないかな、うん。俺んトコの幸薄いロリ巨乳な微笑女が事に当たってるから。監視ついでに面倒見てやってくれ」

「意外に出来る子なんだけど、どうにも幸薄くて、ね?」

「畏まりました。早速、お申し出の通りに」

「俺の大切な妹分になる子だ。宜しく頼む。で、話を戻すが、こいつらの溜まり場はこの――」

 二人のメイドに頼み事を終え、残りの情報の擦り合わせを行い色々と煮詰めていく。

 一生懸命……否、多分、突拍子もない所で意外な難儀をさせているであろう、俺の部下を少し心配しながら――。



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