1 / 23
◇第一部◇
第一話 ご近所さん。
しおりを挟む
「おはようございます、加藤さん。今日も良い腐り加減ですね」
田中さん、開口一発、良い腐り加減って。
牛肉か納豆に見えてんのかよ!
「やぁ、おはようございます、田中さん。そうなんですよ、最近は加齢臭もキツくて。年頃の娘に『パパ、生ゴミの臭いがする』と鼻を摘む仕草で嫌がられちゃって」
加藤さん、アンタらは腐ってんだから、そりゃ臭うわな?
ちなみにそんなことを言ってるアンタの娘さんにしても、良い感じに腐ってるけどな?
「そうなんですか? 僕も髪の毛が異様に抜け落ちて、この歳で脳味噌が見えるくらいになっちゃって。ははは……若禿って嫌な感じですね」
鈴木さん、それ抜け毛レベルとは違うくね?
頭皮も一緒に禿げてるよね?
「お二人とも元気そうで宜しいじゃないですか。儂なんかね、もう腕が自由に動かなくて……歳はとりたくないですな」
いやいやいやいや、田中さん。
自由に動く以前に間接が剥き出しで、二の腕から骨が見え隠れしてんでしょうが!
歳とかは絶対に関係ないと思うから。
「皆さん、おはようございます。今日も死の雨が燦々と降る、全身が溶けるような、茹だる蒸し暑い天気ですね~」
何を仰ってんすか、佐藤さん。
そりゃ、有害物質をも含んだ酸性雨だからね?
単に焼け爛れて、暑いならぬ熱いだけなんと違う?
暗雲立ち込める腐り切った空の下、とある廃墟に原型を留め、奇跡的に残ったボロッボロのアパートがあった――。
そこで生活を共にする愉快な住人らが、何が愉しいのか、朝っぱらから井戸端会議をしているのだ。
田中さん、加藤さん、鈴木さんの男性陣と、唯一の女性である佐藤さん達だ。
田中さんは体育会系のガッチリしたお爺さん。
加藤さんはサラリーマンの重役っぽく肥え太った中年男性で、小学生の娘さんと二人暮らし。
鈴木さんはイケメン大学生で二十歳前後の青年。
和かにあとから現れた美人の佐藤さんは、このボロッボロのアパートの管理人で、皆の纏め役。
そんな老若男女な皆さんは、
生ける屍、所謂、ゾンビだった――。
男性陣三人は、皮膚が爛れ肉が腐り、所々が捥げたりして、直視するのも憚られるほどに醜悪な身体だ。
妙齢でスタイルも良い、息を飲むほどの凄い美人である管理人さんだけは、紫斑が浮き出て青白い肌以外、他の三人に比べてもかなり人の形を留めている。
だが、顔が背中側を向いている時点で、どんだけ美人でも即アウトだっつーの。
◇◇◇
「皆さん、おはようございます」
部屋の窓から顔を出し、いつも通りに和かに挨拶する俺。
「「脳味噌をくれ!」」
「阿呆か」
田中さんに加藤さん、人を見るなり速攻で喰らおうとすな!
「あらあら、私は脳味噌よりこっちのが良くってよ」
おーい、佐藤さん、人を性的な目で見るだけでなく捕食しようとすな! 一応は管理人だろ?
「ちょちょ、皆さん! 朝から巫山戯過ぎでしょ⁉︎ ――潰しちゃいますよ?」
部屋の中で対ゾンビ用の鈍器――自作の釘バットを握りしめ、満面の笑顔で和かに威圧しておく。
「じ、冗談だよ。ち、茶化すのが面白くてね……ははは」
その割には目が人を至高の食材として見てますよね、加藤さん?
「ご馳走は最後まで取っておくものだぞ?」
田中さん、脊髄反射で動いてねぇか?
アンタらは人を食うことしか考えられんのか?
「腐る前にちょっと味見したいわね……」
管理人さん……アンタもか。
性的な意味も含んでる分だけ始末悪いわ。
俺の部屋の合鍵を持って、夜中にこっそり侵入してくんなよ?
「山田さんは……この界隈で唯一の生き延びた人でしょ? こんな僕達とも懇意に接してくれてるんだし、食材として見るのは失礼だよ、田中さん、加藤さん」
おお……イケメンらしい発言。
真面な思考を保っているのは、鈴木さんだけだね。
「――死ぬ寸前まで大切に肥やして、死んだ直後に皆で美味しく戴きましょう」
前言撤回。俺は家畜か何かか?
「――言いたい放題に言っちゃってくれますね。アンタらの食糧も俺が確保してんだし、そんなだったら――俺、何処かに引越しちゃいますよ?」
皆さんの食糧を確保する、大切な役目を担っている俺。
それでどうにか生きていると言うか、生かしてもらっていると言うか……。
まぁ、引っ越すってのは冗談だけど。
何処に行こうと、俺の未来は既に確定しているに等しい――残念なことに、な?
俺の食糧が無くなり餓死するか、喰われて死ぬか、皆さんと同じく突然ゾンビ化して人として終わるか、だ――。
俺が助かる見込みは、万に一つも絶対にない……。
先の知れている過酷な世界で、俺は今日もしがなく生き抜いていく――。
――――――――――
退廃した世界に続きはあるのか?
それは望み薄……。
田中さん、開口一発、良い腐り加減って。
牛肉か納豆に見えてんのかよ!
「やぁ、おはようございます、田中さん。そうなんですよ、最近は加齢臭もキツくて。年頃の娘に『パパ、生ゴミの臭いがする』と鼻を摘む仕草で嫌がられちゃって」
加藤さん、アンタらは腐ってんだから、そりゃ臭うわな?
ちなみにそんなことを言ってるアンタの娘さんにしても、良い感じに腐ってるけどな?
「そうなんですか? 僕も髪の毛が異様に抜け落ちて、この歳で脳味噌が見えるくらいになっちゃって。ははは……若禿って嫌な感じですね」
鈴木さん、それ抜け毛レベルとは違うくね?
頭皮も一緒に禿げてるよね?
「お二人とも元気そうで宜しいじゃないですか。儂なんかね、もう腕が自由に動かなくて……歳はとりたくないですな」
いやいやいやいや、田中さん。
自由に動く以前に間接が剥き出しで、二の腕から骨が見え隠れしてんでしょうが!
歳とかは絶対に関係ないと思うから。
「皆さん、おはようございます。今日も死の雨が燦々と降る、全身が溶けるような、茹だる蒸し暑い天気ですね~」
何を仰ってんすか、佐藤さん。
そりゃ、有害物質をも含んだ酸性雨だからね?
単に焼け爛れて、暑いならぬ熱いだけなんと違う?
暗雲立ち込める腐り切った空の下、とある廃墟に原型を留め、奇跡的に残ったボロッボロのアパートがあった――。
そこで生活を共にする愉快な住人らが、何が愉しいのか、朝っぱらから井戸端会議をしているのだ。
田中さん、加藤さん、鈴木さんの男性陣と、唯一の女性である佐藤さん達だ。
田中さんは体育会系のガッチリしたお爺さん。
加藤さんはサラリーマンの重役っぽく肥え太った中年男性で、小学生の娘さんと二人暮らし。
鈴木さんはイケメン大学生で二十歳前後の青年。
和かにあとから現れた美人の佐藤さんは、このボロッボロのアパートの管理人で、皆の纏め役。
そんな老若男女な皆さんは、
生ける屍、所謂、ゾンビだった――。
男性陣三人は、皮膚が爛れ肉が腐り、所々が捥げたりして、直視するのも憚られるほどに醜悪な身体だ。
妙齢でスタイルも良い、息を飲むほどの凄い美人である管理人さんだけは、紫斑が浮き出て青白い肌以外、他の三人に比べてもかなり人の形を留めている。
だが、顔が背中側を向いている時点で、どんだけ美人でも即アウトだっつーの。
◇◇◇
「皆さん、おはようございます」
部屋の窓から顔を出し、いつも通りに和かに挨拶する俺。
「「脳味噌をくれ!」」
「阿呆か」
田中さんに加藤さん、人を見るなり速攻で喰らおうとすな!
「あらあら、私は脳味噌よりこっちのが良くってよ」
おーい、佐藤さん、人を性的な目で見るだけでなく捕食しようとすな! 一応は管理人だろ?
「ちょちょ、皆さん! 朝から巫山戯過ぎでしょ⁉︎ ――潰しちゃいますよ?」
部屋の中で対ゾンビ用の鈍器――自作の釘バットを握りしめ、満面の笑顔で和かに威圧しておく。
「じ、冗談だよ。ち、茶化すのが面白くてね……ははは」
その割には目が人を至高の食材として見てますよね、加藤さん?
「ご馳走は最後まで取っておくものだぞ?」
田中さん、脊髄反射で動いてねぇか?
アンタらは人を食うことしか考えられんのか?
「腐る前にちょっと味見したいわね……」
管理人さん……アンタもか。
性的な意味も含んでる分だけ始末悪いわ。
俺の部屋の合鍵を持って、夜中にこっそり侵入してくんなよ?
「山田さんは……この界隈で唯一の生き延びた人でしょ? こんな僕達とも懇意に接してくれてるんだし、食材として見るのは失礼だよ、田中さん、加藤さん」
おお……イケメンらしい発言。
真面な思考を保っているのは、鈴木さんだけだね。
「――死ぬ寸前まで大切に肥やして、死んだ直後に皆で美味しく戴きましょう」
前言撤回。俺は家畜か何かか?
「――言いたい放題に言っちゃってくれますね。アンタらの食糧も俺が確保してんだし、そんなだったら――俺、何処かに引越しちゃいますよ?」
皆さんの食糧を確保する、大切な役目を担っている俺。
それでどうにか生きていると言うか、生かしてもらっていると言うか……。
まぁ、引っ越すってのは冗談だけど。
何処に行こうと、俺の未来は既に確定しているに等しい――残念なことに、な?
俺の食糧が無くなり餓死するか、喰われて死ぬか、皆さんと同じく突然ゾンビ化して人として終わるか、だ――。
俺が助かる見込みは、万に一つも絶対にない……。
先の知れている過酷な世界で、俺は今日もしがなく生き抜いていく――。
――――――――――
退廃した世界に続きはあるのか?
それは望み薄……。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる