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◇第一部◇

第十三話 玩具店でのひととき。【後編】

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「これは――ちょっと酷いな……」

 それは崩れた瓦礫の下敷きになって埋まり、飛び出ている上半身がぐちゃぐちゃに喰い荒らされた大人。
 その直ぐ側には、ゴミ屑と化した子供の残骸が残っていたのだ。


 野良ゾンビに喰い荒らされたと思しき、無残な親子の姿だった――。


 どちらも性別は解らない――は不適当だな……ただの肉片になり下がっているんだから。

「私も食べる側に属する身……こうして客観的に見せられると……存外、嫌なものね」

 肩を落とし残骸を見ながら、そう哀しげに呟く佐藤さんだった。

 俺はそんな佐藤さんに掛ける適当な言葉が選べず、そっと抱き寄せるに留め、気を引き締め直した。

 佐藤さんにしても人格があるかないかの違いだけで、喰い荒らした野良ゾンビと同種のゾンビ。


 その事実だけは、否定はできない。


 人格が残っている限り、罪の意識に苛まれ続け、罪悪感も拭えないのだろうな……。

「――周囲には充分に注意しておきましょう」

 肩を抱く手でポンっと叩き、そっと伝える。

 お互いに気を取り直して凄惨なその場をあとにする。

 移動する途中でカートを拾って、女児玩具コーナーから順に巡っていく――。

「この動物達のドールハウス可愛いわね」

「結構、種類あんのな……」

 手の平サイズの動物を模した住人と、凝った家具とかが沢山あった。

「着せ替え人形も、最近のは良くできてるわね?」

「――げ⁉︎ ブランド品まであんの⁉︎ お父さんとかお兄ちゃんってのもあんのかよ!」

 着せ替え人形で、家族のままごとができるようにの配慮らしいことが、パッケージに記載されていた。

 細かすぎる設定に脱帽だよ。
 更にリアルなブランド品が実名ってのも凄いわ――うは、玩具でも高級価格かよ!

「おっきな熊の縫いぐるみも持っていきましょう。――こっちは私の分で」

 定番のリラックスできる熊と、血染めの継ぎ接ぎ兎の縫いぐるみをカートに入れた佐藤さん。


 この退廃した世界で、あえて継ぎ接ぎ兎の縫いぐるみをチョイスとは。
 ブラックジョークとか言うヤツでしょうか?


 周囲に気を張るのは忘れずに、小学生な女の子が喜びそうな玩具を相談し吟味して、カートへと積み込んでいく――。

「オセロとか将棋は? 田中さん達が喜びそうね」

「人生ゲーム……世紀末の大富豪って笑えねぇ。うは、これ名前ヤべぇ! ゾンビ危機一髪だって」

 ボードゲーム売り場では定番の双六、懐かしい黒髭危機一髪のバージョン違いが目についた。
 田中さん達の暇つぶしに、将棋やオセロにトランプもカートに入れて持っていく。

 最後に立ち寄ったパーティグッズの売り場では、もう大変だった、うん。

「おお、被り物かよ! 馬まであんのか? こっちは髭メガネ、懐かしい! エロい衣装まで……パーティグッズも中々にやるな」

「好みのがあれば、着てあげても良いわよ?」

「定番の看護婦とかバニーちゃんも良い。うはは、ミニスカポリスまで……」

「聴いてる? 山田さん」


 勿論、聴こえてますが、全力でシカトぶっこいてます。


 そして吊るしてあったゾンビの被り物を身に着けて、佐藤さんに向けてゾンビの物真似を披露した。


 本物のゾンビに、するこっちゃねーのな。


 態と仰々しく戯け、暗い雰囲気を少しでも明るくするように努めてた俺だったんだが――、

「ちょっと、山田さん。お巫山戯けが過ぎますよ? ……メっ!」

「――前が見えん。す、すいません。つい懐かしくて……」


 被り物をクルリと回され、軽く怒られてしまった。


 そのあとも、子供の頃に遊んでた玩具を見つけて懐かしいとか、筋肉ムッキムキのアメリカンチックなゴリラの縫いぐるみが、妙に田中さんそっくりだとか誰が買うんだとか、そんなたわいもない会話を挟んで、色々と物色し続けていった――。

 幸いにも邪魔する野良ゾンビには遭遇せずに済んだ。
 結構、まったりした時間を過ごせたのは幸いだよ。

「大体、こんなもんですかね?」

「一杯になりましたよ。こんなに安全と解ってたら、一緒に連れてきてあげたら喜んだでしょうね」

「偶々、そうだっただけです。あまり楽観的に考えては、足元を掬われて酷い目に遭いますよ?」

 何がなんだか解らなかった当初は、油断し過ぎて地獄を見せられたからな、俺。

「――ご、ごめんなさい」

 まぁ、野良ゾンビがごった返していないなら、今の俺には問題にもならん。
 対処のしようもあるし、ここは割りに安全そう。

「次の機会――もしも好みの物がなかったり飽きたりしたら、娘さんと一緒にまた来ましょう」

 なので言葉を継ぎ足しておく。

「――わ、私も……良いですか」

 パァっと明るくなった佐藤さんが、言いにくそうに俺に求めてくる。

「勿の論……と言うか寧ろ一緒に居て下さい。娘さんの相手をしてあげて欲しいから。俺は周囲の警戒に意識を取られるだろうし、相手をしても空返事になっちゃうと思うんで」

「やっぱりお優しいんですね、山田さん」

 カートを押している腕に絡んで、俺にしな垂れ掛かる佐藤さん。

「よ、用事も済んだし、そろそろ次に行きましょうか――ははは」

 やっぱり今日の佐藤さんはガンガン攻めてくるのな……既に籠絡されてんだけどもさ。


 普段見れない可愛い過ぎの佐藤さんに、照れ臭いんで笑って誤魔化した俺だった――。



 ――――――――――
 退廃した世界に続きはあるのか?
 それは望み薄……。
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