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第二部 彼の国編――。

第一三話 懐かしき異界――彼の国で。

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 俺が今現在、立っている場所の景色。
 見渡す限りの長閑のどかな平原が視界に入っている。

 現在から遡ること数年前のとある日、意味不明にこの異界の地――彼の国へと俺は降り立った。
 そして生きるか死ぬかの地獄の日々を、何年にも渡って味わった――そんな俺が間違える筈もなく、間違えようもない。

 思い出したくもない、辛い記憶が脳裏を過ぎる、ここ。
 異界にしかない筈の、魔素を含んだ独特の空気を肌で感じる、ここ。


 異界である『彼の国』で間違いはない――。


 ◇◇◇


「転移門も潜らずに異界に来ただって? しかもこんな何もない辺鄙へんぴな場所に降ろされるって……どう言うこと?」

 何故か城内でもなければ、城下町近郊ですらない。
 王城にある転移門が設置されている召喚の間ではなく、遠く離れた国境付近――人の住まない未開拓の平野に降ろされている。

「意味不明に壁に埋まるとかじゃなくて、良かったと言えば良かったけどさ……」

 王城付近の何処かに降り立っていたならば、まぁ、解らんでもない。
 術を放った召喚士が「え? 転移失敗……成功?」と座標をミスったとか、そう言った色々な理由も考慮して解釈ができるからだ。

 だがしかし。今の彼の国は、正規の手順で悠長に俺を呼べる状況ではない筈――で、あれば。


 ここ彼の国に降ろしたのは、一体、誰だ?


 普通なら十中八九、敵勢力絡みにはなるんだろうが……こんな平和で長閑な場所に、態々、招待される謂れもない筈。
 漂流者のように、稀に起こる偶発的な異界渡りが、偶々、偶然、偶発的に、神がかったタイミングのミラクルで起きてしまった――とも考えられないこともないけどもさ。

「くっそ……全てが推測、憶測の域を出ない。ならば何が起きたのかを追及する以前に、現状把握に努めるのが最優先か。まぁ、確実に敵勢力の仕業ではないな。少なくとも」

 俺の視界にチラチラと映っていた、直ぐ側で横たわっている四人を注視していく。

 その内の二人はミサと姫君。
 浅い呼吸だがちゃんとしているし、二人とも血色も良く目立つ外傷もないところを見るに、単に気絶しているだけっぽい。命には別状はなさそうで、まぁ、その辺りに問題はない……ないんだけれども。

 メイド服に身を包んで倒れているミサの方は、特に大丈夫そうで良い。
 と言うのも、姫君の方が実はある意味でめっさ悲惨だったから。


 素っ裸でのM字開脚おっぴろげはない。


 未婚かつ王族の姫君がだ、そんな誰にも見せたことのない霰もないミラクルたっゆーんな姿でだよ、白目向いて涎垂らして大口開けてのポカーンで気絶しているってんだから……色々な意味で大惨事。

「これは……気絶してて良かったと言うか……サービス、或いはギャグか? ――って、そういや服は着せてやってなかったな。マリーが嫌がるのを弄って辱めるとかなんとかの理由で、そのまま寝かしてたんだっけ? 本人が気づいた時には、毛布に包まってただけだったもんな。ただその毛布すらないってのは……鬼畜過ぎるな」

 この写真を撮っておけば、後々の嫌がらせには都合が良いな――とか、つい思ってしまった。中々に鬼畜な俺だと今更に自覚。

「ま、とりあえずは華麗にスルー。残る問題は――」


 そう。残るだった。


 まず美幼女姿のマリー。
 本来の姿であるマリアンヌ嬢に戻った状態で、扇状的な真紅のドレスに身を包み、優雅に横たわっていると言う点。

 もしも敵勢力の仕業だとすればだ、態々、元の姿に戻し、敵に塩を送る意味が全く解らない。

「マリー……じゃない。今はマリアンヌにしてもだけども、これは一体どう言った類いの冗談だよ……」

 そして更に意味不明の大問題なのが、姫君の側で倒れ込んでいる下衆徒君だった。

 一目で元の中性的なイケメンである、魔に連なるゲシュタルト君と解るほどの面影を残しつつ、十歳前後くらいに小さくと言うか幼くしたものっそいイケメン超絶美男児の姿で、無様ではなく超絶格好良い香ばしいポーズで倒れていると言うか寝っ転がっていると言う点。


 それこそパッと見だけは幼女と見間違うくらいの摩訶不思議さで、だ。


「なんで下衆徒君……って、イケメン執事の時は、ちゃんとゲシュタルト君と呼ぶ約束だったな。でも……なんでイケショタ 美男児姿になって、更に格好良いポーズを取ってんのよ?」

 首を傾げつつ考えるも、現状、正しい答えを得られるわけもなく、頭にハテナマークがただ乱舞するだけに終わるのだった――。



 ――――――――――
 新たな悪戯はまだまだ続く。(笑) 
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