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Chapter two. 三年後の今。
Report.11 見目麗しいことを良いことに、着いた職種は家政婦事業?
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与えられた任務を無事に終えてとっとと帰宅したオレは、色んな物が付着して汚れてしまっているライダースーツを無造作に脱ぎ捨てた。
そしてなんの柄も入ってはいない地味なカーテンに覆われた窓を全開にしたあと、大きく深呼吸をして外の空気を全身に取り込んだ。
コンクリートが剥き出しで打ちっ放しな壁で囲われた、時筆するべき物が何もない寂しい部屋――ここが“ フェアリーズ ”となってしまった今現在のオレの住まいとなる。
食事も睡眠も特に必要としない身体になってしまったと言うかされたオレは、人が生活する上で必須となる物が全く不要。
連絡手段としてのスマホやタブレットすら、今のオレには必要ないんだから。
何せ情報が必要であれば、ホストである中枢コンピュータ、或いは稼働中のインプロやマスプロ・フェアリーズ達に、ダイレクトにリンクすれば良いだけ。
それどころか通信チャンネルをホット、リニューアルをリアルタイムにしておけば、随時、世界中のありとあらゆる情報にアクセスできてしまうってんだからな。
態々、通信機なんぞ使うこともなく、頭の中で全て解決のお手軽さ。
更にその情報量を簡単に捌けてしまう、オレのオペレーション・キャパにも、正直、驚いたが。
「ふぅ……最新の素敵ボディになって身体的疲労はないに等しいとは言えども……心が疲れる感覚だけは、生身であった以前と同様に感じるのな」
壁に凭れ掛かりスラリとした両脚を投げ出して、脱ぎ散らかしたスーツの上着ポケットから煙草を取り出し、軽く一服。
バイオノイドであるオレが煙草を嗜んだところで、体内に蓄積、残留する有害物質の殆どは、ものの見事に綺麗に浄化されてしまう。
なのでニコチン中毒者ではなくなったし、なることもなくなったわけだが、長年の癖っつーもんは、早々、簡単には抜けやしないし、何よりもオレ自身が全く落ち着かないので、今もこうやって続けていたりだ。
「ふぅ……生き返る……って、笑えねぇ」
紫煙と溜息を一緒に吐き出しつつ、静かに窓の外の景色に視線を送った――。
オレの目に映るのは、夜の摩天楼郡。
この部屋がある高層ビルの一角から見える大都会の景色は、とても鮮やかで煌びやかに映る。
だがしかし。こんな平和な街に、第三の存在――人に害なす“ 人為らざる者 ”どもが、人知れずに蔓延っているなど、誰が思うものだろうか――。
「アンドロイドにバイオノイド。時代の革新のお次はケッタイなクリーチャーってか? しかも人知れずに排除しろって……なぁ? 厄介な仕事をテメェらの都合で寄越すなっての。テメェらの失敗の尻拭いなんざ、テメェらで勝手にやってろっつーの。まぢギャグかよ」
窓から見える景色を見やりつつ、呆れたような笑みを浮かべて、誰に言うわけでもなく、そう吐き捨てた。
何故ならそのケッタイな存在とは、オレ達フェアリーズと同義の存在。
同じ場所から狂気を孕んで産み出された、別種の人工生命体で生物兵器――バイオクリーチャーなのだから。
「――ったく、嫌でも命令には従わねばならない誓約か……難儀な縛りだったんだな、フェイト。今なら命令で縛られてたお前らの気持ちが良く解るわ。ただオレには元からの人権があった分、随分と良心的でマシな扱いにはなってるけどな?」
今のオレはフェアリーズであっても、正しくフェアリーズではなく、元軍人で元人間だ。
それゆえに理不尽かつ無茶苦茶な命令に対する拒否権は行使することができるものの、組織に与する身分である以上、原則、上からの命令には従わざるを得ないのだから面倒臭い。
「ふぅ……。フェイト、あれからもう三年も経つのか……早いもんだな……」
忘れもしない最後の出撃からもうそんなに経っている。
結局、巡り巡って最終的にオレが行き着いた先は、ステフ義姉に紹介されていた民間の職場だった――。
世界シェアに名を連ねる『とある大企業』が立ち上げた家政婦事業に、現在のオレは身を置いている。
色々とややこしいことこの上ない素性を伏せて、ここで由緒正しきメイド服なんぞに身を包み働かされているってわけで。
だがしかし。それは偽装された表向きの話し――。
その実態は、軍に匹敵する新しい形態の傭兵組織――簡単に言えば民間軍事機関だった。
別の言い方で近しいのは、民間警備会社、或いは謎の裏組織がモアベターだな。
そんな謎組織に所属しているオレは、今日みたいにわけの解らん任務に、時折……違うな。毎度毎度、有無言わさず駆り出されるってんだから、正直、やってられないっつーの。
「軍役時の功績を買われ、新たに雇用される先が何処かと思えば……家政婦事業? そんな阿呆なと思いつつ出張ってみれば、おかしな謎組織だったって……何処かの小説か漫画か? 単に配属先が軍から民間の謎組織になっただけで、な~んにも変わりゃしねーっての、全く」
煌びやかに映る摩天楼郡の夜景を静かに眺め、ぶっきらぼうにそう愚痴るのだった――。
――――――――――
そしてなんの柄も入ってはいない地味なカーテンに覆われた窓を全開にしたあと、大きく深呼吸をして外の空気を全身に取り込んだ。
コンクリートが剥き出しで打ちっ放しな壁で囲われた、時筆するべき物が何もない寂しい部屋――ここが“ フェアリーズ ”となってしまった今現在のオレの住まいとなる。
食事も睡眠も特に必要としない身体になってしまったと言うかされたオレは、人が生活する上で必須となる物が全く不要。
連絡手段としてのスマホやタブレットすら、今のオレには必要ないんだから。
何せ情報が必要であれば、ホストである中枢コンピュータ、或いは稼働中のインプロやマスプロ・フェアリーズ達に、ダイレクトにリンクすれば良いだけ。
それどころか通信チャンネルをホット、リニューアルをリアルタイムにしておけば、随時、世界中のありとあらゆる情報にアクセスできてしまうってんだからな。
態々、通信機なんぞ使うこともなく、頭の中で全て解決のお手軽さ。
更にその情報量を簡単に捌けてしまう、オレのオペレーション・キャパにも、正直、驚いたが。
「ふぅ……最新の素敵ボディになって身体的疲労はないに等しいとは言えども……心が疲れる感覚だけは、生身であった以前と同様に感じるのな」
壁に凭れ掛かりスラリとした両脚を投げ出して、脱ぎ散らかしたスーツの上着ポケットから煙草を取り出し、軽く一服。
バイオノイドであるオレが煙草を嗜んだところで、体内に蓄積、残留する有害物質の殆どは、ものの見事に綺麗に浄化されてしまう。
なのでニコチン中毒者ではなくなったし、なることもなくなったわけだが、長年の癖っつーもんは、早々、簡単には抜けやしないし、何よりもオレ自身が全く落ち着かないので、今もこうやって続けていたりだ。
「ふぅ……生き返る……って、笑えねぇ」
紫煙と溜息を一緒に吐き出しつつ、静かに窓の外の景色に視線を送った――。
オレの目に映るのは、夜の摩天楼郡。
この部屋がある高層ビルの一角から見える大都会の景色は、とても鮮やかで煌びやかに映る。
だがしかし。こんな平和な街に、第三の存在――人に害なす“ 人為らざる者 ”どもが、人知れずに蔓延っているなど、誰が思うものだろうか――。
「アンドロイドにバイオノイド。時代の革新のお次はケッタイなクリーチャーってか? しかも人知れずに排除しろって……なぁ? 厄介な仕事をテメェらの都合で寄越すなっての。テメェらの失敗の尻拭いなんざ、テメェらで勝手にやってろっつーの。まぢギャグかよ」
窓から見える景色を見やりつつ、呆れたような笑みを浮かべて、誰に言うわけでもなく、そう吐き捨てた。
何故ならそのケッタイな存在とは、オレ達フェアリーズと同義の存在。
同じ場所から狂気を孕んで産み出された、別種の人工生命体で生物兵器――バイオクリーチャーなのだから。
「――ったく、嫌でも命令には従わねばならない誓約か……難儀な縛りだったんだな、フェイト。今なら命令で縛られてたお前らの気持ちが良く解るわ。ただオレには元からの人権があった分、随分と良心的でマシな扱いにはなってるけどな?」
今のオレはフェアリーズであっても、正しくフェアリーズではなく、元軍人で元人間だ。
それゆえに理不尽かつ無茶苦茶な命令に対する拒否権は行使することができるものの、組織に与する身分である以上、原則、上からの命令には従わざるを得ないのだから面倒臭い。
「ふぅ……。フェイト、あれからもう三年も経つのか……早いもんだな……」
忘れもしない最後の出撃からもうそんなに経っている。
結局、巡り巡って最終的にオレが行き着いた先は、ステフ義姉に紹介されていた民間の職場だった――。
世界シェアに名を連ねる『とある大企業』が立ち上げた家政婦事業に、現在のオレは身を置いている。
色々とややこしいことこの上ない素性を伏せて、ここで由緒正しきメイド服なんぞに身を包み働かされているってわけで。
だがしかし。それは偽装された表向きの話し――。
その実態は、軍に匹敵する新しい形態の傭兵組織――簡単に言えば民間軍事機関だった。
別の言い方で近しいのは、民間警備会社、或いは謎の裏組織がモアベターだな。
そんな謎組織に所属しているオレは、今日みたいにわけの解らん任務に、時折……違うな。毎度毎度、有無言わさず駆り出されるってんだから、正直、やってられないっつーの。
「軍役時の功績を買われ、新たに雇用される先が何処かと思えば……家政婦事業? そんな阿呆なと思いつつ出張ってみれば、おかしな謎組織だったって……何処かの小説か漫画か? 単に配属先が軍から民間の謎組織になっただけで、な~んにも変わりゃしねーっての、全く」
煌びやかに映る摩天楼郡の夜景を静かに眺め、ぶっきらぼうにそう愚痴るのだった――。
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