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第1章 ハイスクールララバイ  静流の日常

エピソード9

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ある日の図書室――

 静流は最近図書室で居眠りをすることが多い。
「んっうん……は、ここは?」

 どうも夢を見ているようだ。
 周りを見渡す。薄暗い建物で、工場?いや研究所の様だ。妙に気になった部屋に入る。円筒状のガラスケースがいくつも並んでいる。
 ケースには怪しい色の液体が充満しており、自分の顔が映った。

「うわ、僕? 若いな」
 年の頃5、6歳児のようだ。

「しかし、どこなんだろう、ここ」
 ガラスケースを一通り見て回った所、ひとつのケースの中に長い髪の少女がうずくまって液体の中をフワフワ浮いていた。

「女の子かな?髪の毛、桃色って、まさか」

 思考を巡らせていると、少女の目がいきなり開いた。
 
   
   ギロッ


「う、うわぁぁぁぁ!」
 少女は静流を見た。静流は思わず腰を抜かした。

「何の騒ぎだ?キミはたしか五十嵐さんの所の」
 研究所の職員らしき者に事情を話す。

「あ、あの中にいる女の子がこっちを見たんです!ほんとです!」

「アレと目が合ったのかい?」

「はい。確かに」

「まずいな、教育プログラム前だぞ。どんな影響が出るかわからん」ブツブツ
 職員は考え込んでいる。他の職員も駆けつける。

「おい!何があった?」
 職員の上司らしい人と隅っこで何やら会話を始めた。

「『素体』が覚醒したらしいんです」

「バカな! ありえん」

「そこの少年と目を合わせたようです」

「まずいな、『刷り込み』が起きてしまう」

「直ぐに記憶の抹消を」

「まだ自我が確立していない以上、消去出来ません!」

「やむを得ん、先ずその少年の記憶を消去しろ!」
 職員が静流に近寄って来た。

「キミ、悪く思わんでくれ」
 そう言って職員は静流のおでこにてを置いた。【忘却】ポゥ


   シュゥゥゥゥ

 
 視界がブラックアウトした。 
 


            ◆ ◆ ◆ ◆


「う、う~ん、ハッ!」
 目が覚めた。

「何だったんだろう、あの夢」
 夢の詳細を思い出そうとしながらズレていたメガネを直す。 

「よしよし、もう怖くないよぉ」
 机に突っ伏していたはずだがいつの間にか並べた椅子に横になっている。頭にムニュッとした感覚があるのに気づいた。

「へ? 白ミサ先輩?」
 白ミサと目が合った。

「キミがうなされてたんで介抱していた所」

「わっすいません、僕、うなされてましたか」
 起き上がりながら謝罪する。

「うん、かなりね。もうイイのかい?」

「だ、大丈夫です、あ、もう帰らなきゃ」
 静流は何度も頭を下げ、足早にその場を去った。

「ムフゥ。マーベラス」
 白ミサは至福のひと時を反芻していた。



またある日の2-B教室――

「最近生徒会室に行ってないなぁ。行くにも理由が無いし……」
 あいかわらず机に突っ伏している静流。理由なんぞ問題ないと思うが。

「俺だって綺麗どころとお茶会してみたいよ」
 達也は遠い目で呟いた。

「『あの本』の件を解決したんだろ?報告したのか?」

「木ノ実先生辺りが報告してると思うよ。結構ヤバかったし」

「アレを学校で見なくなったのは良かったな」

「ほんとそれ!アレはメンタルがヤバいんで」
 静流は心から喜んだ。すると、

「あ、いたいた。シズルンめーっけ♪」シュタッ!
 いきなり現われた「影」に、達也は躊躇した。

「うわ、びびった!なんだよ篠崎か」

「やあツッチー、元気かい?」

「篠崎さん、僕に用……かな?」
 静流は気まずそうに声を掛けた。

「そーなんすよ。シズルン。殿下がね、生徒会室に来てほしいんだって」

「睦美先輩が?」ガタッ!
 思わず立ち上がった。

「そんなことだから、シズルン借りてくよ」シュバッ
 イチカは静流を「お姫様抱っこ」して教室を出た。

「じ、自分で行くから、降ろしてよ!」

「だって、コッチのが早いんだもん、テヘ」
 そうこうしているうちに、生徒会室に着いた。

「篠崎入ります!」

「よし!」ガラッ

「シズルン、もとい静流様をお連れしたであります!」

「ご苦労。下がって良し」

「はっ」シュタッ
 とこかの軍隊のようなやりとりの後、睦美は重い口を開いた。

「や、やあ静流キュン、調子は如何かな?」

「ええ、おおむね良好……で、あります」
 静流はその場の雰囲気につられ、妙な言い方になった。

「ちょっとぉ?彼は抜きでって言ったわよね?」

「木ノ実先生?」 
 静流は意外な先客に驚いた。

「やってくれたわね?書記長殿?」

「何の事でしょう?」
 睦美は顔の前に手を組んでメガネを光らせている。

「静流キュン、キミをここへ呼んだのは他でもない」

「『アノ本』の件ですよね?すいません」
 さっきからずっと下を向いて謝罪モードになっている。

「いささか独断専行が過ぎただけ、で済んで良かった。つまりは結果オーライという事だ」

「事前に相談すべきでした。ですが、最近僕は睦美先輩に頼りっきりで、何か情けなくって」

「うむ。わかってくれたか。もう充分懲りたろう?独断はいかんよ?」

「はい、気を付けます」

「ま、その後の采配は素晴らしかったぞ静流キュン!直に見てはいないが私の思惑のさらに上を行く結果であり、僥倖であると言えよう」

 実際、「あの本」の取り締まりはもちろん、「あの本」等の売上の純利益を、生徒会への「みかじめ料」として納めるなどといった上乗せコンボをやってのけた静流の功績は、生徒会役員が静流に足を向けて寝られないレベルとなった。

「そう言ってもらえると少し嬉しいです(ニコ)」
 控えめながら久々に笑顔を見ることが出来た睦美は安堵した。

「ヌフゥ。その件はもういいんだ。問題は、あの黒瀬ミサと白井ミサが何で静流キュンと懇意にしているのだ?」

「そんなに仲良くないですよ?あそこの人たち、変なひとばっかだし……」

「最近静流キュンの近辺をウロチョロしてると報告があったが?」

「この間ちょっとビビらせたら、急にゴマをすり始めて」

「何?ゴマをすったとな?」

「別に肩凝ってるわけじゃないのにマッサージしようとしたり」

「何ぃぃ!」

「図書室でうたた寝をしていたら、いつの間にか膝枕されてたり」

「ぐぅぅ。何とけしからん所業!」ゴゴゴゴ

 睦美は怒りに震えていた。

「いらっしゃい。静流キュン」 
 紅茶とお菓子を携えた会長が出てきた。

「ヒッ。会長……こんにちは」

「おいっ楓花!」

「なによ怖ぁ~い、何もしないわよ。どうぞ♪」
 静流の前に紅茶と例のクッキーを置いた。


「あ、僕このクッキー、好きなんですよ♪(パァァ)」 


「うっそれは……」
 睦美が焼いたクッキーを嬉しそうにつまむ静流。

「これ、睦美先輩が焼いたんですって?先輩って何でも出来ちゃうんですね(ニパァ)」

「うむ。お口に合ったのなら……良かった(ムフゥ)」
 睦美は静流の死角になるように楓花に親指を立てた。

「で、何か用だったんですよね、先輩?」

「私もこう見えてそんなに暇じゃないのよ」
 先生がぼやいた。二人は本題に入るよう促した。

「ん? ああそうだった。キミに確認したかった事があってな?」

「何でしょう?」

「以前、薫子お姉様の件は話したな?」

「五十嵐薫子って交換留学生の一人よね。私が来る前だから直接は面識無いけど」

「はい、どうも親戚じゃないかってヤツですよね?あの後母さんに訊いたんですけど、
 何か煮え切らないというか胡麻化そうとするんですよね」

「ミミが何か隠してるって疑ってるのかしら?」

「ええ。まあ」

「確かに親戚ってことで合ってるんじゃない?」

「は?」

「薫子さんの母親って、あなたの伯母さんにあたる人よ」

「先生?何をさらっと重大な事を言っているのですか!?」
 あっさり真実に近づいてしまい、拍子抜けしてしまう睦美。

「隠してもいずれわかる事でしょうし」

「でも母さんに姉妹なんていないはずですけど?」

「いないことになってるのよ」

「え? どうしてですか?」

「あなたの伯母さん、モモは異次元にいる」

「異次元、平行世界のようなものでしょうか?」

「そうね。にわかに信じ難い事でしょうけど、事実よ」

「つまり、薫子さんは、従妹ってことですか」

「多分。その薫子さんがコッチの世界に干渉したらしいの」

「存在自体が曖昧なのはその為……か」

「僕が最近変な夢を見るのって、まさか伯母さんが?」

「察しがいいわね。十中八九、モモの仕業でしょうね」
 あまりに飛躍しすぎている為、状況を整理が追い付かない。

「ここ一連の不可解なこと、同人誌がらみも含めて恐らくモモが絡んでいると私はにらんでいるわ」
 睦美は先日の夢について語った。

「先生、実は私も妙にリアルな夢を見たのですが、誰かに見させられているような気がしたのです」

「まあ、母さんと同じ能力を持っていれば他人に夢を見させることくらい簡単に出来ちゃうんですけど」

「その夢はね、私が知る留学生四人組の性別が反転している夢だった。」

「つまり、留学生の方たちが男性キャラになってたってことですか?」

「そう言う事だ」

「あの『お姉様』たちが、『お兄様』たちになってるなんて、私もその夢、見てみたいわ」
 楓花が茶化した。

「あまりお勧めはせんよ……」

「睦美先輩、実は似たような夢、見たんですよ。僕も」

「ほぉ。どんな夢だい?」

「舞台はファンタジーな感じでしたけど、僕は『洋子』っていう女の子でした。でピンチの僕を助けてくれたのは、『薫』さんというガクランを着た男の人でした」

「むむ!? で、連れは?」

「ヤンキーっぽい男の人で確かサブ、綺麗な女の人はズラって呼ばれてましたね。あと無口な女の人はシノブさんでしたよ」

「うむ、あの方たちでほぼ間違いないだろう」

「妖精もいましたよ。オシリスってゆうんです」

「オシリスですって?」
 先生が口をはさんだ。

「薫さんには『ケツ』って呼ばれてましたけど」

「こうも似ていると、やはり何かありそうだな」 

「それは薫子さんからのビジョンかも知れない」

「先生、それはどういう事でしょうか?」

「あなたは薫子さんを完全に認識しているようね?」

「はい、もちろん」

「でも、会長さんはどうかしら?」

「確かに曖昧かも知れないわね。特に薫子お姉様は」

「恐らくイメージが強い程、存在を維持する力になり得るということみたいね」

「それで私の夢枕に立った……とでも?」

「男女が反転しているのも、何かしら意味があるんじゃないかしら?」

「で、どうするんですか、先輩?」
 静流は今後の動向を睦美に尋ねた。

「無論、静流キュンのお母上に直接お会いして、確かめたいんだが」

「もしかして【真贋】を使うつもりですか?」

「ああ、場合によっては使う。」

「面白そうね?私もお邪魔しようかしら?」
 ネネは興味深々のようだ。

「わかりました。母には僕から言っておきます。前から一度来てもらいたかったんですよ。妹とかも紹介したいし」

「そ、そうか?それなら良いんだが。」
 五十嵐宅に行く日を後日改めて決めることとなった。

 静流たちが帰った後。
「ヌハァ。いよいよ静流キュンの家に乗り込むぞ!(ワクワク)」

「殿下! 心の声が駄々洩れであります!」

「し、しまった。声に出していたとは」
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