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第1章 ハイスクールララバイ  静流の日常

エピソード8

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 静流は深い眠りについている。

 静流は深い森にある湖のほとりでうたた寝をしていた。
「んっうん……ここは?」

 立ち上がり、湖の水で顔を洗おうとした時、水面に見慣れない少女がいた。耳の先が尖っており、髪の色は銀髪で長く、目は青かった。

「ん?僕?女の子になってる!?」
 ささっと体を確認すると、やはり女の子になってしまったようだ。

「とりあえず状況整理だ。えーっと持ち物は?」
 服装は使い古したレザーアーマーで、武器は短剣。ポーチの中にはアンプルが3つと身分証明書のようなものがあった。

「『C』ってC級ってことかな?冒険者みたいな?名前は?『皆殿みなとの・キャロライン・洋子』か」
 大体の現状を把握した静流は、とりあえず歩き出した。

「太陽があっちで……て2個ある!?ここ、地球じゃないの?」
 どうやら地球ではないらしい。

「闇雲に歩いてもしょうがないし……よし、木の上から見てみよう」
 シュタッ!と軽快に木を登っていく。

「お、何か体が軽いな。【強化】してないのに」
 あっという間にてっぺんに着いた。辺りを見渡す。

「えーっと、あ、あっちに村があるみたいだ!ちょっと遠いか」
 一応の目標を見つけた静流。

「よぉし、あの村目指して出発だ!」
 村に向かって走り出す。暫くして森を抜けるかどうかの所で、いきなり鳥の大群が空に舞い上がった。


   バサバサバサッ


「うわっ!びっくりしたぁ。いきなりどうしたって、はっ!」
 物凄い殺気を感じた。周囲を警戒する。と、遠くからどどどっと大きな音がして、木が次々に左右に倒れている。


「何か、来る!」
 戦闘は極力避けねばならないと思い、身を潜める場所を探す。


「ここっ!」
 ちょっとした茂みに伏せ、やり過ごす魂胆のようだ。暫くすると走ってくるものの全貌が明らかになった。

「イノシシ!?で、でかいぞ、逃げなきゃ!」
 予想以上の大物が出現したからか、静流は冷静さを欠いていた。

「もう、こうなったらやるしかない……か」

 【身体強化】【加速】
 体術は苦手な静流であるが、何となく上手くいくような気がしていた。


「これは『夢』だ。ちょっと位無茶しても大丈夫だろ?」
 100mほど先に見える黒い塊を見据え、短剣を抜いた。

「確か、漫画で見たヤツは額が弱点だったような……」
 猪の怪物が目の前に迫った。すかさず、


「てぇい!」


 猪の額に短剣を突き付ける。しかし、


 パキィィィン!


「へ?」
 短剣はいとも簡単に折れた。猪は尚も向かって来る。



「う、うわぁぁぁ!」
 万策尽きた静流はぺたんと腰を抜かし、手で顔をガードするしか思いつかなかった。


   バシュゥッ!! ズズゥーン!


 ガードした手を少しズラし、恐る恐る前を見た。すると、自分の前に男が立っている。



「大丈夫か?キミ」



 首をはねられた猪の前に、学生服を着た桃髪の男が立っていた。


「今のは、【剣技】!?」

「こんな雑魚、薫様にかかればイチコロよ♪」
 耳元でささやく深緑の髪の小さい存在はもしや、 

「妖精?(何か真琴に似てるな)」

「おいケツ!さっさとこのブツ何とかしろや!」

「ケツ言わないで!私は『風の精霊 オシリス』よ!」
 精霊は猪を空中に浮かせた。そして、

「薫様ったら精霊使いが荒いんだから……カマイタチ!」シュバッ
 瞬時に解体され、肉片になった。

「す、すごい!」

「どお?すごいでしょ?もっと褒めなさい♪」

「調子に乗んなよ?ケツ、キリキリ働きやがれ!このクソ精霊」
 桃髪の男が、長剣を鞘にしまい、くるっと静流の方に向いた。

「あ、ありがとう、ございました」
(この人精霊に対しては何でこんなにブラックな対応なんだろ……)

「どれどれ、ん?怪我してるね。【ヒール】これでよし」
 桃髪の男が回復魔法を掛けた。

「立てるかい?」
「はい、何とか(か、かっこいい……かも)」
 男がを静流を引っ張り上げた。

「しかし、アイツに短剣で挑むか。その度胸、あっぱれだね♪うん……惚れた!(ニパァ)」

「え?えぇぇぇぇ!?(ドキドキドキ)」カァァァァ
(あれ?今僕、ときめいちゃってる!?)
 静流は回れ右をして手を胸の前でクロスして顔を真っ赤にしている。

「ちょっとアンタ、今の、真に受けない方がイイわよ」
 妖精は耳打ちをした。

「それって、どうゆうこと?」
「薫様はね、『惚れっぽい』のよ」

「はあ。そうですか……」
 疲れがどっと出た。

「そういえばキミ、名前は?」
 男が名前を訊いてきた。

「えっと、五十嵐じゃなかった、『皆殿洋子』と申します」
 面倒なのでミドルネームは省いた。

「ああ、キミが洋子クンなんだね?手間が省けたよ。」

「え?何でですか?」

「もちろん、キミを探すことが今回のクエストだからね」

「夕食も手に入ったし、ギルドに顔出したらウチに来なよご馳走するからさ」

「は、はぁ。ありがとうございます」
 冒険者ギルドと思われる場所に連れて行かれ、流されるままに薫のアジトに行く。

「ただいま!みんな今日はご馳走だぞ!」

「兄貴ィ、お疲れっス」
 ヤンキー調の金髪の男が薫を出迎えた。

「おうサブ、今帰ったぞ!雪乃、これで適当に飯作ってくれよ」

「お帰りなさい、薫。はいはいわかりました」
 物腰の柔らかそうな薄紫の髪の女だった。

「おいズラ!せいぜい美味いもん作るんだな」

「当然よ!私にかかればどんな食材だって」
 前言撤回。なかなか気性は荒いと見える。

「うるさい。黙って、その娘、誰?」
 黒髪短髪のスレンダーガールはクールな印象を受けた。

「シノブ、いたのか?ああ、この娘は今回のクエストで探してた娘だ」 

「始めまして、皆殿洋子です」

「ふむふむ中の上ってとこかな?」

「サブ、あなた何失礼なこと言ってるの?ごめんなさいね?この単細胞が!」

「なんだとヅラ!正直な感想を述べただけだろ?それに悪くない評価だと思うゼ」

「おい!とっとと散れ!キミはここに座っていてくれ」


「「はいはい」」
 うるさい二人は言い争いながら奥の方に消えた。

「アイツらも結構使えるのよ?ああ見えて(シャクシャク)」
 妖精はテーブルにあった果実をむさぼっている。
 やがて夕食の時間となった。それぞれが飲み物を取った。

「洋子ちゃんが無事に見つかったことを祝って、カンパ~イ」

「雪乃さん、これ、美味しいです」

「んふぅ、そう言ってくれると作り甲斐があったわ」

「ま、お前から料理取ったら何も残んないもんな?」

「何ですって?この完全無欠の私が」

「うるさい。御飯が不味くなる」
 このにぎやかな雰囲気に静流は安らぎを覚えた。

「フフッ。皆さんってとってもチャーミングですよね」
 静流はほくそ笑んだ。


視界がホワイトアウトした。 
 

            ◆ ◆ ◆ ◆


 目が覚めた。目覚ましの設定時刻より少し早かった。

「おはよ」
 階段をストトンと降りてくる静流を見て、美千瑠が驚いている。

「何ィ!嘘でしょ?しづ兄が自力で起きて来るなんて」

「僕だってそういう時あってもいいだろ?」 

「そうだね、とーっても残念だね」

「何が残念なのさ」


「だって今日、土曜日だもん」


「え?うわぁ、もっと寝とけば良かった……」
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