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第2章 ミッション・インポッシブル  ミッション系お嬢様校に潜入ミッション!

エピソード14-3

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アンドロメダ寮―― 白百合の間 早朝
       
「静流!起きなさいよ、いい加減、マズいわよぉ!」
 オシリスが騒いでいる。

「んん……。もう朝かって今何時?」

「まだ6時30分じゃなぁい。ふあぁぁん」 むにゅ

「うみゅぅ? 静流様ぁ……。静流様ぁ……」 ふにっ
 静流は今の状況を把握するのに数十秒を費やした。

「わっ!二人共! そんな恰好で……あれ?変装は?しまった!」

 夕べ飲んだワインのせいにしたい静流だが、記憶はしっかりあった。
 幸いメガネはしたままだったようで、【魅了】が漏れた形跡は無かった。

「とりあえず【復元】シュン」
 静流はいそいそとシズムに変装した。

「静流様ぁ、もう食べられませんよぉ」 

「静流様ぁ、私も連れてって……下さぁい」 

 それぞれが静流との夢を見ているようだ。
 頃合いかと静流は二人に声を掛けた。

「二人共、もう起きたらどぉ? いつまでもそんな恰好じゃ……ダメでしょ?」
 変装が完了したシズムは、平静を装い、二人を起こした。

「う……うん? はっ! 私ったら……はしたない」

「やっぱワイン飲み過ぎたかなぁ、頭痛ぁい」

 二人は毛布の中でもぞもぞと夕べ脱ぎ散らかした下着を着けた。

「あれ?このブラ、ちょっとキツイわね?」

「それはわたしのですっ!」
 いつも通りの二人に、シズムは安心した。

「さ、顔洗って、朝ごはん行くよ!」

「「ふぁぁーい」」 


アンドロメダ寮―― 食堂 朝

 白百合の間のメンバーが食堂に着いた。

「シズムちゃぁ~ん、もう帰っちゃうの?」

「そのまま夏休みまでコッチにいればイイのにぃ」
 寮生たちが別れを惜しんでいる。

「ありがとう、みんなの事、忘れないよ! ニパァ」

「ムフゥ。この感覚もこれで最後かぁ……」  
 シズムから湧き出る癒しのオーラを浴び、しみじみと味わっている。
 寮長が号令を掛ける。

「準備出来たかい?」
 食堂に入ってきた寮長は配膳を済ませたか確認している。

「よし、祈りを捧げなさい」
 生徒たちが食前の祈りを唱える。ローメン。

「「いただきます」」

 食器がカチャカチャと鳴る音しかしなかった。
 この静けさも今思えば心地よい雰囲気だとシズムは感じた。
 食事の時間が終わった。

「祈りを捧げなさい」
 生徒たちが食後の祈りを唱える。ローメン。
 食事を済ませた寮生たちが、シズムに声を掛けながら、各々の部屋に帰っていく。

「シズムちゃぁん、気を付けて帰ってね?」

「アナタの施術、また受けたいわぁ」

「私たちの事、忘れないでね?」

「ありがとう、また会おうね」
 しばらくして寮長先生がシズムの所に来た。

「シズム、少しいいかい?」

「はぁ、何でしょう?」

「これを、持ってきな!」 ズシッ
 そう言って寮長先生はシズムに何かを渡した。

「わ、重いな、何です?これ」

「ケースから出してみな!」
 シズムは樹脂製のケースを開けた。革のホルスターに収まった小型の拳銃だった。

「う、コレって……拳銃?」

「ナンブ式小型拳銃 ベビーナンブと呼ばれている」

「モデルガン、じゃなさそうですね?」

「実弾は使わない。使うのは『魔弾』だ」

「なぜ、ぼ、私にコレを?」

「このベビーナンブは、私の相棒だった男の形見だ」
 よく見ると、エジェクシションポートの付近に「恩賜」と読める。

「『恩賜』って、国王陛下からの賜りものじゃないですか!?」

「そうさ。奴が士官学校を首席で卒業した時にもらったもんだ。私はいつも二番だった」

「こんな大事なもの、受け取れませんよ」

「いいんだ。もらってくれ! 手続きは済んどる!」

「理由、聞いてもイイですか?」

「夕べの施術を受けた時、軍で奴と走り回ってた頃の事が目に浮かんだ。私は昔、ヘマをして肩に傷を負い、奴は私を護ってくたばってしまった。私はその傷のせいで思うように魔法が使えず、挙句に軍を去った」

「はぁ、それは大変でしたね」

「夕べ、お主が放った魔法は、その傷を見事に完治させた! しかもどーだい! このみなぎる力!」

「へ? あれは余興ですよ? 私に【エクストラヒール】は使えませんから」

「見てみな むんっ!」ゴゴゥ
 寮長の手に赤い霧が渦を巻いている。

「これは【煉獄】という技のほんの1%以下の出力だ。若かりし頃、私が編み出した技でね」しゅうぅぅ

 見せるだけだったみたいで、すぐに解除され、霧散した。

「この技が出せるのが、完治した証拠だ」

「す、凄い技ですね。完治したんでしたら、軍に戻られるんですか?」

「まさか。この力は守るべきものに使うさね」

「守るべきもの……ですか」

「お主はこの先、幾多の壁にぶつかるであろう」

「それは予言、ですか? 何か怖いな」

「コイツはね、私を幾度となく救ってくれた。きっとお主の力になるものだ」

「何となくわかりましたが、私の国では民間人は拳銃を所持出来ないんですよ」

「そんな事かい、問題無い。私がもう手を打っておいた」

「そう易々とうまくいきますかね?」

「この私が良いと言ってるんだ! うだうだ言っとらんで、持っていけ!」

「わ、わかりました。大事にします」

「違う! コイツの主人となり、存分に使え! いずれ現われる『守るべき者』たちの為に!」

「は、はい。肝に命じます!」

「よし、行って良し!」

「エスメラルダ先生、お元気で」

「うむ。お主もな」
(アレを使いこなす事が出来るか否かは、お前さん次第だよ。静流)
 シズムが静流である事がこの先生にはバレている事をシズムは知らない。


アンドロメダ寮―― 白百合の間 朝
 
「寮長先生って、実は凄い方だったんだね?」

「何でも『戦神』と呼ばれてたとか? ただの噂話なかったんだ」

「昨日のってやっぱスゴい魔法だったんじゃないの?」

「でもアレは思い付きでやったから、多分もう一回やっても同じ効果が出るかわからないよ」

「ま、それが『奇跡』ってやつよね?」
 コンコン ドアがノックされ、ムムちゃん先生が入ってきた。

「シズムさん?準備はイイかしらぁ?」

「あ、ムムちゃん先生。もう少しで終わります」

「結構。じゃあ、職員室に寄って先生方にお別れを言いますから、付いてきて」

「はい、今すぐ!」

「私たちは、正門で待ってるわね?」

 アンナたちと別れ、アンドロメダ寮を後にしたシズム。
 職員室でニニちゃん先生たちと談笑したあと、保健室でカチュア先生にお別れの挨拶を済ませた。

「アナタ、また凄い事、やったみたいね? エスメラルダ様があんなにはしゃいでるの、見たことなかったわ」

「そうらしいですけど、よくわからなくて」

「アナタは大丈夫よ。私が太鼓判、押してあげるわ」

「ありがとうございます」

「お礼を言うのはコッチ。何せ、女の素晴らしさを思い出させてくれたんだから」
 軽く一礼をして、ドアを閉めた。

「不思議な子ね……五十嵐静流……クン。きっと、また会えるわ」
 カチュア先生にもバレていたようだ。大方ベッドで寝ている間に「身体検査」されたのだろう。


聖アスモニア修道魔導学園―― 正門

 先生たちとのお別れを済ませ、正門に向かう。

「そう言えば、ムムちゃん先生って、学園で何してたんですか?」

「む?失礼ね。ちゃんとあなたのバックアップしてましたよ?」

「具体的には?」

「ニニとお酒飲んだり、シスターとお酒飲んだり、エスメラルダ先生とお酒飲んだり……」

「毎日酒浸りですかぁ?」

「大人には大人の付き合いってもんがあるのよ! フンッ」
 ムムちゃん先生は開き直った。

 正門に着いた。待っていてくれたのは、ヨーコ、アンナ、ナギサ、サラの四人だった。

「みんな、本当にありがとう。とっても楽しかったよ」ニパァ
 シズムは満面の笑顔を振りまいた。

「アタシ、日本に行くから、待ってて」

「たまにはオシリスちゃんの動画、送ってね」

「薄っぺらい本にも、イイものがあるって言わせますから」
 そして、ヨーコは今にも泣きそうな顔で言葉を絞り出した。

「静流様、大好き……です!」


「うん、惚れた!」ニパァァ

 なぜか薫の口癖が付いて出た。 


「「「「きゃるるぅぅ~ん!」」」」


 四人と先生は大きくのけ反った。


 そんな事をしていたら、正門にオリーブ色の大型車が止まった。

「これってハンヴィー?」
 シズムは目をキラキラさせている。

「統合軍極東支部特殊部隊ブラッディシスターズ所属、村雨佳乃伍長であります! 井川シズム殿はおられますか?」

 ハンヴィーから出てきたのは、軍服に身を包んだ女性だった。

「うわぁ、超絶美人さんだ」

「何で軍人さんが静流様を迎えに来たのかしら?」

「あ、乗り込みましたよ? ヨーコ」

「静流さまぁー! 私たちの事、忘れないで下さいねー!」
 ハンヴィーが動き出した。助手席で静流が叫んだ。


「みんな! 元気でねぇー!!」


 残された四人は、ハンヴィーが見えなくなるまでずっと手を振った。

「静流様、絶対にまた会える。どんな手を使ってでも……」 
 ヨーコはそう心に誓った。
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