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第3章 失われた時を求めて  転移魔法、完成……か?

エピソード18-2

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魔導研究所内 魔導測定室―― 午後

 午前中にブリーフィングが終わり、具体的な検査項目が確定した。
 メニューは、 

   ①魔力レベル測定
   ②黄昏因子の測定
   ③【魅了】Lv.0 範囲測定
   ④魔法発動条件の検証

 主にこの4項目である。①と②については、計器に寝ているだけでいいらしい。

「では先ず①と②をやるから、魔導測定室に行くわよ」

 魔導測定室に入った静流。ものすごく大袈裟な機械が並ぶ中、たとえるならMRIのような計器の前に連れて来られた。

「じゃあ、ここに寝て、目を閉じてじっとしてるのよ。数分で済むわ」

「はい」ウィィン

 寝ている床が動き出し、空中で止まると、大きな輪がいくつも床を通過していく。
 体の中を隅々まで覗かれている感覚が、不快感を覚えた。
 数分後、ピーという電子音が鳴り、床が元の位置に戻った。

「お疲れ様。運動着に着替えて、10分後に修練場に来て」

「ふぅ。わかりました」
 静流は一度詰所に戻って、運動着に着替える。すると、 

「検査の進捗はどうでありますか?」

「あ、佳乃さん、今何か寝るだけのやつが終わったんで、後は魔法の実技じゃないかと」

「イイですね。自分も見学したいであります!」

「多分大丈夫だと思いますよ? 見に来ます?」

「はい! 喜んでであります!」
 佳乃はワクワクしていた。

         ◆ ◆ ◆ ◆

魔導研究所内 修練場―― 午後

 運動着に着替えた静流は修練場で準備運動をしていた。
「さて、次の検査は何だろうな」

「はい、注目!」ピィー
 ジャージに着替えた少佐が、笛を吹くと、ガタイの良い男たちが集まった。赤と白の横ストライプ柄、つまり「ラガーメン」である。

「アマンダさん、ジャッカルの練習とかするんですか?」

「君の軽口が聞けるのも今だけよ? いい?これから矯正措置を解除した状態、
つまり素の【魅了】Lv.0 範囲測定を行います!」

「うぇ? だってそれはマズいですよ」

「つべこべ言わない! じゃあ、ココに立って、合図があったら解除するのよ?」 
 静流は修練場の中央に立ち、1mごとに白線で輪が書いてある。

「野郎ども、10mラインに立ちなさい!」

「ウッス!」ズン
 10mラインにざっと20人はいると思われるラガーメンを配置した。

「配置OK。静流クン、解除!」

「もう知りませんよ。解除」
 メガネの電源を落とした。

「10mライン、セーフ。次、9mラインに移動開始!」

「ウッス!」ズン

「9mライン、セーフ。次、8mラインに移動開始!」

「ウッス!」ズン
 じりじりと1mずつラガーメンはにじり寄ってくる。静流はある意味恐怖を感じた。
 そして、5mに差し掛かった時、異変は起こった。

「ぐ、ぬふぅ」

「何だ? この言い知れない興奮は……」

「次、4mラインに移動開始!」
 ラガーメンたちは明らかに異常だった。周りがうっすらと桃色のオーラに包まれている。

「どうかしてるぜ、俺は……」

「ハァハァ、もう我慢出来ん!」

「愛おしいぞ、小僧!」

 ラガーメンたちの様子が変わった。


「「「「好きじゃあー♡」」」」


 ラガーメンたちは静流にむしゃぶりつこうと突進してくる。

「う、うわぁぁぁ」

 静流は逃げ場を失い、手をクロスにガードさせ、しゃがんでしまう。すると、


  ぐぉ――――――ん!!


 静流の周りに障壁が出来、それにぶつかったラガーメンたちは目を回している。

「た、助かったぁ」

 見学用の椅子に座ってみていた佳乃は、爆笑していた。

「クハハハ! いやぁ、実に痛快でありましたなぁ」

「こら、佳乃! 静流クンが可哀そうでしょ?」
 いつの間にか仁奈も見に来ていた。

「一回目は4mね。次行くわよ! 女子サッカー部、前に来なさい!」

「はいっ!」

 他の兵士たちがラガーメンたちを担架で運んでいく。
 次は女子サッカー部であった。

「アタシたちはあんなモヤシみたいなガキに、興味ないんだからね!」

「さあ、10mラインに立ちなさい!」

「10mライン、セーフ。次、9mラインに移動開始!」

「はいっ!」ズン

「9mライン、セーフ。次、8mラインに移動開始!」

「はいっ!」ズン

 そして、3mに差し掛かった時、周りがうっすらと桃色のオーラに包まれた。

「あふぅ、ヤバいかも」

「ぬふぅ、よく見るとイケてるじゃなぁい?」

「むふぅ、何か、母性本能くすぐられちゃう」

 女子サッカー部員たちの様子が変わった。



「「「「好きいぃぃぃ♡」」」」



「障壁出してくれるんだよね? ってうわぁぁぁぁ!」
 今回は障壁が展開されず、静流はもみくちゃにされている。

「ああ、たまんない」むちゅ

「どや、ココがエエのか?ん?」

「た、助けて下さいよぉ!」
 静流を散々いじり倒した女子サッカー部員たちは、満足したのか白目をむいて気絶している。他の兵士たちが担架で運んでいく。

「あの川を渡ったら……地獄だ」ガクッ

 静流は無数のキスマークを着けられ、体操着はボロボロになっていた。

「二回目は3mか。やはりメンタルに左右されているようね……次、行くわよ!」

「うぇ? まだやるんですか!? 勘弁してくださいよぉ!」
 この後、駐屯地にいる従業員、老人と託児所の保母さんや子供にも試すこととなる。

「大体データが揃ったか。よし、終了よ! メガネを起動して!」

「や、やっと終わったんですね? よかったぁ」
 検証に協力してくれたひとたちは、【状態異常回復】を掛け、正常に戻したのち、引き上げとなった。

「いやぁ、実に興味深い検証でありましたなぁ」

「あなた、ドサクサに紛れて参加してたでしょ?」

「そういう仁奈先輩も参加していたではありませんか?」
 二人は意図的に静流に飛びつき、むさぼっていたようである。

「何でありましょうか?この安らぎというか癒されている感は」

「静流クンの【魅了】をもろに受けたというのに……。状態異常にはならない。これが『賢者モード』なのかしら?」

「澪殿、申し訳無いであります。この気持ちはやはり……本物」

「ああ、澪がいつも話していた子が彼なのね?」

「そうであります。わかっていたつもりでありましたが……」

「佳乃? アナタまさか」

「静流様の場合、遠くから『愛でる』といった方がしっくりくるかな……と思っていたであります。しかし、静流様の人となりを知れば知るほど、この方に尽くしたい、そばにいたいと思うのであります」

「この気持ち、ただの状態異常ではない……みたいね」
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