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第4章 幸せの向こう側 ついに発見!ワタルの塔

エピソード27-1

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五十嵐宅 静流自室―― 作戦初日 午前

 いよいよ作戦初日となり、静流は持ち物の確認を行っていた。

「こういう時ロディは重宝するよな。気付いたもの全部を入れればイイんだから」

「だからってしょうもないもん入れないよ」
 真琴は静流がインベントリに持ち込もうとしている物をチェックしている。

「このリュックは何?」

「それはイイの。そのままで」

「気になるじゃない、見せなさい」
 真琴はリュックを静流から奪い、中を見た。

「やけに重いと思ったら、マンガとゲームばっかりじゃない。 ん? これは?」

「それは!」
 真琴は小さい袋を見つけ、中を出した。

「ぬっ!! ごめん、武士の情けね」
 縞柄のトランクスであった。

「大体ゲームするのにアノ空間って電源はあるの?」

「軍の技術者がインフラ整備するって言ってたから、電気は最優先だろうね」

「そっちは丸投げでも何とかなりそうね。あとは……」

「そう。僕に掛かってるんだよね、責任重大だよ」

「そんなの夏休みに突貫でやろうってのが強引過ぎるのよ。もっと計画を練ってからやらないと」

「『善は急げ』みたいな事言ってたよ、アマンダさん」

「アノ人も、公私混同って言うか、職権乱用って言うか、無茶するよね?」

「稟議が通ったんだから、国も認めてるんじゃない、このプロジェクト」

「ますます責任重大じゃない? 大丈夫なの? 静流は」

「僕って、いち民間人なんだよな、これでも」

「ん? 何これ……んん!?」
 リュックにあったマンガを整理していた真琴が、あるものを見つけ、小刻みに震えている。

「どうしたの? 真琴」

「何に使うのかなぁ? コレ」
 真琴が持っていたのは、薄い本だった。タイトルは、『サルでもわかる解説 秘奥義・愛の四十八手』
であった。

「わっ! 何でソレが!? それはロディから取り上げたヤツで、黒ミサ先輩がロディに渡した本なんだ!」

「おんどれにはまだ早い!」バンッ
 真琴はこのいかがわしい本を床に叩き付けた。

「わかってるよ、そんなの。大体、結婚もしてないのに、そんな事、できるワケないじゃん!」

「そ、そうよ。わかってるんなら、イイのよ」
(こういう時、静流の小学生並みの貞操観念は助かるわぁ)

          ◆ ◆ ◆ ◆

 持ち込む荷物が大方まとまった。
「そうだ、サラと連絡を取っておこう」

〔サラ、いきなりごめん。静流です〕
〔ふぇ? 静流……様!?〕
〔今、大丈夫?〕
〔大丈夫じゃないですけど、大丈夫……です〕
〔はっきりしないなぁ、今日の夜、そっちに行く予定、聞いてるよね?〕
〔はい! ドラゴン寮の調査に来られるって〕
〔みんなはどうしてる?〕
〔アンナは両親が帰って来いってうるさいんで、おととい田舎に帰りました〕
〔そっか。他の子はいるんだ。でも当日はあまり相手出来そうにないや〕
〔お仕事ですもんね。仕方ないですよ〕
〔安全策で、作戦中あの辺一体は人払いが行われるんだ〕
〔我慢します。ヨーコにもきつく言っておきますから。近寄るなって〕
〔助かるよ。あ、鎧のアップデートと武器のリファインを、後輩ズに手伝ってもらってやっといたよ〕
〔むぅ? 荒木・姫野コンビがですか? ちょっと複雑ですが、静流様のイイ感じになったのなら、良しとします〕
〔あの子たちも褒めてたよ。秀悦だって〕
〔それは光栄ですね。でもわたし、一応年上なんだけどなぁ。くちゅん〕
〔あれ、風邪? 気を付けてよ?〕
〔だ、大丈夫ですよ。じゃあ、お気を付けて〕
〔うん、またね〕ブチ

 念話が終わり、サラはため息をついた。

「ふう。いきなり来るから心の準備ができないよぉ、ムフゥ」
 サラは、先ほどのやり取りを振り返り、妄想を膨らませていた。

「ちょっとサラ? アナタいつまでトイレにこもってる気?」
 ナギサがトイレから戻ってこないのを気にして、前まで来たところだった。

「い、今出るよ……ちょっと余韻を味わいたいの。クフゥ」

「また静流様の事を考えて、変な事をしてるんでしょう?」

「し、してないよ……もう」
 図星、だったのかは当人しかわからない。


          ◆ ◆ ◆ ◆


五十嵐宅 家の前―― 作戦初日 午後

 静流は先ず薄木にてB班を連れ、アスガルド駐屯地に行き、A班をインベントリ内に収容後、学園に行くというコースを取る予定だ。
 A班及びB班のメンバーは、作戦中インベントリ内で生活してもらう場合もある。
 静流は家の前に小型バギーを置いた。

「オシリス、薄木基地の第7倉庫に転移するよ!座標確認!」

「オッケーよ! 静流」

「じゃあ真琴、行ってくる」

「しばらく基地にいるの?」

「うん、その予定」

「気を付けるのよ? 静流」

「わかってるよ」
 静流は前に、ロディはシズムの姿で後ろの座席に座った。

「じゃあ、行くよ!」
 静流はキャノピーを閉めた。

「オシリス、魔法陣、展開!」

「オーライ」ブーンッ
 オシリスが魔法陣をバギーの下に展開した。

「静流、カウントダウンする必要あるかな? いっぺんやってみたかったんだよね?」

「じゃあ、お願い」

「行くよ? 10秒前! 9、8、7……」
 真琴がカウントダウンを始めた。

「5秒前! 4、3、2、1、ゼロ!」

「【転移】!」ブンッ
 静流とロディを乗せた小型バギーは、残像を残し、消えた。

「うわぁ、消えた。マジ?」
 真琴は【転移】を目の当たりにして、ふと思った。

「スゴいや静流……どんどん遠くに行っちゃうみたい」
 真琴は少し寂しそうであった。

          ◆ ◆ ◆ ◆


統合軍 極東支部 薄木航空基地 第7格納庫――

「隊長、もうすぐ約束の時間であります」

「む? そうか、静流めが来るか!」

「隊長? もう準備は終わったんですか?」

「ぬかりは無い! フハハハ」

「佳乃? アンタ最近、ボーっとしてる事多いよね?」

「いやぁ澪殿、静流様のそばにいないと、どうもダメなのでありますなぁ。ハハハ」
 三人で談笑していると、萌が話しかけてきた。

「あの、私って、補欠扱いらしいんですけど、付いて行く必要、あるんですか?」
 萌は自分が補欠だという事に疑問を感じていた。

「お前はどうしたい? 静流めと関わるチャンスだろう?」

「わ、私は……行きたい、です」
 隊長にイジられ気味だった萌は、自分の思いを素直に告げた。

「なら問題無い、ついて来い!」

「はい、隊長」
 萌は、憑き物が取れたように微笑んだ。

「いいなぁ、萌」

「アタシたちも静流様に会いたぁい!」

 そう言って頬を膨らませているのは、工藤美紀・真紀の双子であった。
 ペパーミントグリーンの髪を姉の美紀は長髪、妹の真紀は短髪にしている。

「悪いな、双子共、お前たちはメンバーに入っとらんのでな」

「たいちょー、推薦してくれても良かったんですよ?アタシら」

「今回は少数精鋭で臨むという事らしいぞ。精鋭、でな」

「ぐぅぅ、悔しいなぁ」

「アタシらこの間出張で静流様に会ってないんだからね?」

「もうすぐ会えるわよ。アナタたちも」
 悔しがる双子に、澪は声を掛けた。

「澪先輩、静流様と付き合い長いらしいですね?」

「それが、ちょっと違うんだなぁ。知り合ったのが古いだけ」

「正直、思ってたのと違うのよね? 静流様って」
 萌は実物と二次創作のギャップに違和感があると前から思っている。

「そう言えば萌、何で髪の毛、元に戻したの? て言うか変だよ、最近」
 美紀は萌の髪色もさる事ながら、仕草も前と比べ違和感を覚えている。

「実物を見ちゃったから……ね。やっぱ敵わないなって思ったから」
 以前桃色だった髪は、プラチナブロンドになっていた。

「萌殿? 静流様は実物の方が数倍イイでありますよ!」

「まあね。あんな薄っぺらい本の設定とは違うわ」
 先輩二人にそう言われ、萌は戸惑っている。

「もっとこう、グイグイ引っ張ってくれる人、なんだけどな。私のイメージは」

「無理に好きになってもらわなくても、結構よ」

「だから、それ以前の問題でしょう?」
 澪に言われ、つい反論してしまう萌。

「そろそろ着く頃合いでありますよ?」
 佳乃が時計を見た。とその時、


 ブーンッ!

 
 まるで不可視モードを解除した時の様に、上から何かが実体化していく。

「来たぁぁぁぁ!」

 シュゥゥ

 小型バギーのマフラーから、水蒸気のような煙が少し出ている。

 バシュゥ!

 一同が見守る中、キャノピーが跳ね上がった。

 座席に座っている静流が、席から立ちあがり、ヘルメットを脱いだ。

「ど、どうも。お疲れ様です」

 髪を搔き上げ、注目されているからか、緊張しながら挨拶をする静流。
 周りを見渡すと萌の雰囲気が前と違っていた。

「あ、萌さん、髪、戻したんですか?」

「ええ。だって本物には敵わないもん」

「そっちの方がカワイイですよ、萌さん」ニパァ

「はひゅぅ」
 萌は不意にニパを食らい、よろけた

「大体アレじゃあ妹を思い出しちゃうんですよね、雰囲気似てるし」

「い、妹さん?」
 萌は自分が妹レベルの認識だった事に少し落ち込んだ。すると、

「静流様、お疲れ様であります!」

「あ、佳乃さん!」

「静流クン、お疲れ様」

「ミオ姉!」

 両腕をそれぞれ二人に取られ、やじろべえのようになっている静流。とそこに、

「よく来たな、静流!」

「隊長、こんにちは」
 静流が隊長に挨拶すると、隊長は、

「チ、チ、チ、そうじゃないだろう? 静流よ」

 隊長はビールケースに立ち、人差し指を立てて左右に振る動作をし、そう言った。

「ただいま、『イク姉』」
 静流は頬を少し赤らめ、そう言った。

「うむ。それで良いのだ! おーお帰り、わが弟よ! フハハハ」
 隊長は静流の肩をバシバシと叩き、満足そうに笑った。

「ミオ姉、隊長にとって、僕は舎弟、みたいなものなのかなぁ?」

「さあね? そうなんじゃない?」

「悪気はないんでありますよ? 静流様」

「わかってます。お姉さんか。イイかも」
 隊長に弟扱いされ、満更でもなかった静流。

「姉枠はまだ空席みたいでありますよ? 澪殿?」

「私は静流クンと、対等に付き合いたいの!」
 佳乃にイジられ、つい本音を漏らしてしまう澪。

「今、何て? ミオ姉? 対等って?」
 澪の今の発言に引っかかった静流。

「仕事!仕事の事よ。静流クン」

「ああ、仕事ね。頑張らなきゃなぁ」
 「仕事」という言葉に今回の重みを思い出した静流。すると、

「澪先輩、アタシたちを紹介してくださいよう」

 しびれを切らした双子たちが、静流に紹介してもらうべく動いた。

「静流クン、この間出張でいなかった、工藤姉妹よ」

「工藤美紀です。よろしくね」

「同じく真紀です。よろしくね」

 紹介を受け、双子は名乗った。

「五十嵐静流です。こちらこそよろしくお願いします」ニパァ

「「きゃるるぅーん」」

 静流の挨拶程度のニパにのけ反る双子。
「おお、無事に洗礼を受けたか、双子よ」
 隊長は双子の反応に満足げにそう言った。

「んふぅ。隊長、この方は神ですか?」

「うむ。女神、だな。惚れたか?」

「もう、ゾッコンです」ハァハァ

「あそこまでハッキリ言えるあの子たちが羨ましいわ」
 澪はあからさまな双子に呆れとともに尊敬の意を表した。

「であろう? こやつにはそう言うオーラのようなものが溢れとるのだ!」

「それって、『養分』ってことですか? 隊長」
 萌は今のやり取りの中に、気になる点があった。

「そうだぞ萌、『養分』だ!」
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