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第4章 幸せの向こう側 ついに発見!ワタルの塔

エピソード28-6

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学園内 食堂――

「お嬢様校と言っても、やっぱり女子高生なのでありますね」
 佳乃は先程のやり取りを見て、しみじみと語った。 

「私も女子校だったけど、男の子の話はやっぱり定番だったわね」

「でも、その頃の澪殿にはもう想い人がいた、と?」
 佳乃はニヤつきながら、澪をいじった。

「も、もう、イイじゃないの、その事は」

「ふむ。つまらん」

 隊長は一人、話に付いて行けなくて、ムスッとしている。
 夕食が終わり、それぞれが自分たちの寮に帰っていく。

「じゃあね、シズムちゃん!」

「うん。またね」
 軽く挨拶を交わしながら、みんな寮に帰っていく。すると、

「ねえ、シズムちゃん? ちょっと、イイかな?」
 女生徒が二人、シズムの前に来た。

「ほら、自分の事でしょ?、ちゃんと言わなきゃ」

「う、うん。でもぉ」

「ん、どうしたのマーヤ? サトコがどうしたの?」
 ヨーコが首を突っ込んだ。

「ちょっとお願いがあって。この間やってもらった、女神様の『施術』この子風邪ひいてて受けられなかったの」

「そうなんだ。でもなぁ、先生には相談したの?」

「恥ずかしくて、言えなかった……の」
 サトコと名乗った女生徒は、顔を赤くしてそう言った。

「イイ?サトコ、女神様の『施術』は、必ず奇跡が起こるとは限らないの」

「そんなの、わかってるわよ、この子だって」

「何か、事情がありそうね」
 ナギサが興味を示した。

「私、魔力欠乏症……みたいなの」

「この子はただでさえ病弱なのに、魔力欠乏症なんかになったら、この学園を退学させられてしまうわ」
 友達のマーヤはサトコを心配し、シズムに直談判を挑んだようだ。

「ちょっとカチュア先生?」クイクイ
 ヨーコは保健の先生を呼んだ。

「何よ、静流クンとの楽しいひと時を邪魔する気ぃ?」
 カチュア先生は急に呼ばれたのでイラつきながらしぶしぶ寄って来た。

「それもそうですけど。コホン、サトコの件なんですけど」

「病状の件、かしら?」

「ええ。で、どうなんです? シズルカ様の施術で、回復出来ますかね?」

「さあ? やってみない事には……アレは謎が多いから。ちょっとイイかしら? 静流クン」
 カチュア先生は、静流を呼んだ。

「はあ。何でしょうか?」

「この子に、『施術』してあげて頂戴」

「『施術』ですか?いきなりですね」
 カチュア先生は今までのいきさつを、静流に説明した。

「そうだったんですか。それはお気の毒に。以前、同じような症状の人を施術したことがあって、その人
は回復されましたよ」
 静流はサトコにやさしく声を掛けた。

「も、勿体なきお言葉」

「話は聞かせてもらったよ、シズム、私からも頼む」
 話を聞いていた寮長先生は、シズムの手を握った。

「どうする? 静流クン」
 シズムは静流の指示を仰いだ。

「アレって、学校行事でしたよね? 無許可でやってもイイんでしょうか?」

「責任は私が持つ。やっておやり」

「わかりました。シズム、ちょっと来て」

「なぁに、静流クン」
 静流はシズムを呼び出すと、耳打ちをした。

「イイかい、頃合いを見て、僕と入れ替わるぞ」

「うん、わかった」
 静流は席を外そうとこう言った。

「シズム、男子トイレに案内してくれるかい?」

「オッケー。こっちだよ」
 シズムは静流の手を引き、食堂を出て行った。


          ◆ ◆ ◆ ◆


 トイレから帰ってきた静流は、装備を整え、すでにノーマル女神に変身していた。
 その頃には他の女生徒は全て寮に戻っていた。

「お待たせしました。シズム、シズルカに変身して」

「わかった。いくわよ?」

 ノーマル乙女神の静流は、目を閉じ、精神統一の後、ぱっと目を開く。
 腰にベルトがあるような仕草から、腕を振って風を腰のベルト付近に送るような動作を行う。
 
  【セターップ!】と叫び、操作パネルをいじる。

 パァァァァ! 桃色のオーラに包まれ、最終形態となる。シュゥゥゥゥ。

「ムフゥ。久々の変身でありますなぁ」

「お、これがシズルカ様か?」

「私も初めて見ました。スゴいオーラね」
 女性軍人たちはそれぞれ感想を述べた。

「おおお、シズルカ様が降臨された……素晴らしい」
 神父がひざまずき、お祈りのポーズをとった。
 シズルカは、サトコの前に立った。

「あわわわ、どうしよう、わたし。あ、脱がなきゃ」
 サトコは慌てて衣服を脱ごうとした。シズルカはそれを止めた。

「そのままでイイんですよサトコさん、では、気を楽にして下さい」

「はい……ありがとう、ございます」
 サトコは手を胸の前で組み、目を閉じている。
 シズルカはサトコの背中に施術を試みた。

「では施術を始めます……【弱キュア】ポッ」

 両手に淡い桃色の霧をまとい、サトコの背中に当てる。

「失礼します!」ポォォ


「きゃっふぅぅぅぅん」シュゥゥゥ


 サトコは後ろにのけ反った。桃色のオーラが体内に吸収されていく。
 シズルカはサトコを受け取り、そっと寝かせた。

「どうですか? 何か変わりました?」
 じっと目を閉じているサトコにシズルカは声を掛けた。

「ああっ。あたたかい……です。何かが体内を回っています」
 サトコの身体を水色のオーラが覆う。

「どうなの? サトコ!」
 マーヤは心配になり、サトコに近寄る。

「だ、大丈夫だよマーヤ」
 サトコは立ち上がり、手を組み、念じた。【咲け】
 すると、サトコを中心に数mの範囲の床から植物が無数に伸び、色とりどりの花を咲かせた。

「ふわぁ、スゴい。綺麗ね」

「これが、あの子の魔力?」
 ヨーコたちが感想を述べた。

「そう。これがあの子の魔法、【大地の息吹】よ。今日のが一番の出来みたいね」
 カチュア先生が技の出来栄えを称えた。

「素晴らしい、ああっ、女神様」
 神父が涙を流しながら祈りを捧げている。

「また、救っちゃったみたい」
 シズルカは照れながらつぶやいた。


          ◆ ◆ ◆ ◆


「本当に、ありがとうございました」

「前の調子良かった時よりスゴかったわよ? サトコ」

「良かったね、調子が戻って」
 二人からお礼を言われ、変身を解いたシズムに扮した静流は、照れながらそう言った。

「改めて見たけど、やっぱりスゴいわね、アナタの『施術』は」
 カチュア先生は静流を称賛した。

「自分でも、上手く行き過ぎて怖いくらいです」

「最早、魔法の域を超えているわね、ある意味」
 二人は寮に返った。残りの生徒もわずかになったので、この場もお開きになった。

「ミスター・イガラシ、おわかりかと思いますが。念のため」

「大丈夫です。僕は車で寝ますから」
 ニニちゃん先生に釘を刺され、静流に扮したロディは、セオリーの返事をした。

「ならば結構。では失礼します」
 ニニちゃん先生たちは教職員宿舎に帰っていった。と思ったら、

「静流さん、ちょっと」クイクイ
 静流を呼んだのは、ジルベール・コクトー神父であった。

「どうしたんですか、ジル神父」

「よろしかったら、来ます? 私の所」

「神父様の部屋で寝かせてもらえるんですか?」

「いいえ、寝かせません!」
 神父は、ここぞとばかりに熱く語った。

「私と一晩中、女神様の事について語り明かしましょう。ベッドの中で」

「どう言う意味です? 神父様とピロートークでもするんですか?」

「そうです! それはつまり、『賢者タイム』を堪能するという事なのです! ムハァ……素晴らしい」
 神父は勝手に妄想を膨らませ、悦に浸っている。

「はいはい、妄想はそこまでです。【フリーズ】パキィ さあ、帰りましょう」ガシィ
 フリーズしている神父は、ニニちゃん先生に引きずられ、連れて行かれた。

「よしっ! 邪魔ものは去った。ニヒヒ」
 ヨーコは、何か企んでいるようだ。

「さぁ、シズム、次はお風呂に入りましょう!」スッ
 ヨーコはシズムの腕に抱き付いた。

「ち、ちょっとヨーコ、僕だよ、静流」

「わかってます。もう慣れたもんでしょう? シズム」
 ヨーコは静流と入浴するつもりだ。

「そう言う事ね? じゃあ、私も」スッ
 反対の腕を、ナギサがホールドした。

「私たちも頂こうかしら、お風呂」

「うむ。大きい風呂はイイぞ?」

「自分も入るであります!」
 軍人たちも入浴するようだ。

「ちょっと二人共、冗談はよしてよ」

「観念するのよ、シズム」

「さぁ、着替えを取りに行きましょう?」
 シズムは、両側からがっちりガードされ、寮に連行されそうになっていた。すると、

「じゃあ、私は静流クンにマッサージしてあげる。保健室にいらっしゃい♡」ムニィ
 カチュア先生は、静流に扮したロディの腕を、自分の胸をあてるように抱えた。

「チイッ、しまった。まだこの人がいたか……」
 ヨーコは自分へのいらだちに、親指を噛んだ。

「さっきの『施術』で魔力を消耗したでしょう? 私が体中にワセリンを塗りたくってマッサージしてあげるわぁ♡」

「いやあ、参ったなぁ。カチュア先生、面白い冗談でしたよ。ドキッとしちゃいました」
 静流に扮したロディは、上手い事かわしたように見えたが、

「あら。ワタシは大真面目よ? さぁ、『ゴー・トゥ・ベッド』しましょう。ね、静流クゥン♡」 

「もう寝るんですか? まだ早いですよ」

「そうね。夜はこれからよ」
 カチュア先生は大マジであった。すると小声で、

「アナタ、静流クンの完コピなんでしょ? 隅々まで堪能させてもらうわぁ。ムフフ」
 カチュア先生は、ニンマリと微笑み、自分の胸をグリグリと押し付けている。

「うっかりしてた。その手があったのね。年の功ってやつかしら?」
 ヨーコはギリッと歯を鳴らした。

「シズム、早くロディに変身解かせて!」

「でも、まだ残ってる子、いるじゃん、ヤバイよ」

「マズいわ。静流様の『全て』が、あの妖怪に……」
 ナギサの顔はみるみる内に青くなっていった。

「カチュア先生、取引、しませんか?」
 ヨーコは、賭けに出た。

「何よ。取引って」

「生身の静流様の方が、何倍もイイと思いません?」

「それはそうだけど」

「混浴にしましょう、今夜だけ」

「そんな事出来るの? ニニや、寮長だっているのよ?」

「私に、考えがあります」
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