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第4章 幸せの向こう側 ついに発見!ワタルの塔

エピソード30-4

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 薫や薫子たちの回想録が終わり、神妙な顔つきの面々であった。

「おい、ケツ、さっき言いかけた、あの塔に何かあるのか?」
「ええ。あの塔って、ブラムちゃんが作ったんだと思うの」
「ブラムが? 何で?」
「ワタルとの『愛の巣』だとか言ってたような……」
「ワタルの後世は、あの塔にこもりっきりだったと言われているわ。何かの心的ショックを受けたらしいの」

 モモは知っている情報を可能な限り伝えた。

「それまでは、自分の空間に難民を住まわせたり、妻も何人もいたとか」
「ブラムちゃんはワタルの5番目の奥さんだったのよ」
「え? そうなの? やっぱあの計画?」
「そう。それで、塔のフロアが奥さんの部屋だったと思う」
「それで上の階層になるとセキュリティレベルが上がるのか」
「で、なんだけど、静流、ブラムちゃんを呼び出して?」
「は? 何で僕が? 呼び出すって?」

 静流の頭上に、?マークが三つ並んだ。

「イイから。呼んでみて! あ、外に出た方がイイかも」

 オシリスは静流を建物の外に出るように指示した。

「わかったよオシリス。来い!ブラム!」

 静流は何が何だかわからないまま、ブラムを呼んだ。すると、

「イエス、ましゅたー」ババッ

 肌は青く、頭に角が二本あり、コウモリのような羽が生えている。

「うわぁ、何だコイツ! ましゅたーって僕の事?」
「この子がブラムよ」
「…………」
「何もしゃべらないね。おい、何か言え!」
「イエス、ましゅたー」
「それだけ? まるでロボットみたいだ」
「死んだ魚みたいな目ェしてんな」

 静流と薫は、ブラムを見てそう言った。

「恐らく、【隷属】の魔法が掛かっているせいね」

 オシリスはブラムをスキャンし、そう分析した

「隷属って言うと、本人の意思なくして従属させるって事かな?」

 澪は隷属という言葉の意味をそう解釈した。

「つまり、感情を殺してるから、元々感情の無いロディみたいな状態、って事?」
「何ともえげつない魔法だな、誰が掛けたんだ? 一体」

 隊長は顎に手をやり、ブラムを観察している。

「オシリスとお姉様は知ってるんだよね? 事の顛末」

 静流はそれぞれの顔を見て、じと目で見た。

「ちょっとオシリスちゃん、こっち」クイクイ

 薫子Gはオシリスを呼んだ。

「どう説明したものかしら?」
「さあ、私に振られてもね……」

 一人と一匹は、腕を組んで首を傾げている。

「禁忌魔法を使ったのよ」

 と後ろからモモが話し始めた。

「いにしえの魔法を、ヨーコさんに使ってもらったの」
「ヨーコに?」
「ちょっと、伯母さん、イイの?しゃべっちゃって」

 オシリスはごまかす方向だと思っていたようだが、モモは正直に話すつもりらしい。

「ここは任せといて? ね?」パチッ

 モモはオシリスにウィンクした

「【パラドックス・サモン】、矛盾召喚という意味よ」
「矛盾召喚、だって? どんな魔法なの?」
「この魔法を掛けられた者の、前世あるいは来世の自分と入れ替わる魔法よ」

「え? だから僕はその間の記憶が無いの?」
「そういう事。ヨーコさんが呼び出したのは、数年後の静流、だと思うわ」
「確かに無精ひげを生やしてた。タバコも吸おうとしてたわ」

「数年後の、僕? じゃあ、前世でも来世でもないじゃないか」
「むぅ? だとすると、ガキの静流が召喚されてたって、おかしくないという事になるぞ?」
「そう。残念ながらこの魔法は『諸刃の剣』、どんな奴が現れるかは予測不能。ある意味、賭けだった」
「そんな不安定な魔法じゃ、禁忌にもなるわな」
「ここでややこしいのは、魔法が発動した時点の世界線から来た静流だから、もう一度呼び出す事は難しいのよ」

「バタフライ効果、でしょうか?」

 萌が口を開いた。

「そう。蝶の羽ばたきくらい些細な事柄が、のちに大きな影響を及ぼす事もあるか?という学説ね」
「パラレルワールドの線も捨てきれないでありますな」

 SFにも詳しい佳乃が、顎を手にやり、つぶやいている。

「それもあると思う。あの静流はとにかく、別世界の静流という事でイイと考えているわ」
「ふう。余りにも現実離れしてて、付いて行けないな」

 静流は、今の説明ではとても納得出来なかった。

「とにかく、その時ヒゲ静流はブラムちゃんに、【服従】と【支配】と【隷属】を掛けているわ」
「そりゃあ、ひでぇな」

 薫がうなった。

「ブラムを魔法で押さえつけるのに、それだけ手こずったって事よ。なにせ、『伝説級』なんだから」
「でも伯母さん、これじゃあブラムが可哀そうだよ」

 無表情で主人からの次の命令を待っているブラムを、静流は不憫と感じた。

「もうちょっと、自分の意思がある状態で従事してくれると助かるんだけど、ムシが良過ぎる……かなぁ?」
「シズ坊は甘ちゃんだなぁ」
「あら、従者にだって感情はあってもイイと、わたくしは思いますわ。忠誠心とか?」

 リナと雪乃はそれぞれの感想を述べた。

「フフ、静流クンらしいわ」
「それが、静流様なのであります!」

 澪と佳乃がそのあと言った。

「そんな事言われてもね。どうする事も……あるわ」
「どんな方法? 伯母さん」
「【隷属】だけを解除する。シズルカの『祝福』で」
「祝福って、施術の事?」
「似たような物よ。準備するからあなたもシズルカに変身して」
「わかった。途中の過程は省くよ」 シュン

 静流は腕の操作パネルを操作し、いきなりシズルカになった。パァァァァ!
 
 桃色のオーラに包まれ、最終形態となる。シュゥゥゥゥ。

「お、これが戦女神モードか?」
「ふぅん、イイ感じのオーラだな」
「イイ。イイわぁ」

 薫の感想に続き、リナ、雪乃が感想を述べた。

「これが、本物のシズルカ様?」

 萌は初めて目の当たりにする女神に圧倒されている。

「伯母さん、何をすればイイの?」
「先ず、【鑑定】を使いなさい」
「え? 使えないよ」
「そのモードでなら出来るわ。やってみなさい」
「わかった。【鑑定】!」パァァ

 静流は両手を前に出し、双眼鏡を覗くような仕草でブラムを見た。

「見えた! 確かに【服従】と【支配】と【隷属】が掛かってる」
「【隷属】の文字を白から赤に変えるのよ、集中して」

 静流はモモに指示されたようにやってみる。

「うう~ん、なかなか変わらないよ」
「諦めないで、念じるのよ」
「もう少し……あ、変わった」
「よし、こう唱えなさい【メテオ・ブリージング】」

「行くぞ!【メテオ・ブリージング】」 ファァァァ

 静流の身体を覆っていた桃色のオーラが両手に集まり、ブラムめがけて放出された。


「きゃわわぁぁぁん」


 放出されたオーラは、ブラムのオデコを直撃した。ブラムはそのまま意識を失い、膝を突き、くずおれた。
 技を放った静流は、少しぐらついたが何とか耐えた。シュゥゥゥ

「うーん、メテオというからにはこの魔法、宇宙規模、究極かもしれないわね」

 澪は顎に手をやり、うなっている。

「伯母さん、どうなったの?」
「鑑定してみなさい」
「【鑑定】!」パァァ

 静流は鑑定を使い、ブラムを見た。

「やった、【隷属】だけ外れてる。成功だ!」

「よし、よくやった静流!」
「大したもんだぜ、女神様はよぅ」

 薫とリナが静流をねぎらった。
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