上 下
94 / 516
第4章 幸せの向こう側 ついに発見!ワタルの塔

エピソード31-5

しおりを挟む
ワタルの塔―― 2階 娯楽室

 中央の半円形のソファーに残りの五人がいた。
 五人はソファーの前に置かれたモニターを、食い入るように見ている。

〔あ、ああ、イイ。もっと突いてぇ〕
〔俺、もうイク!〕
〔ああん。来てぇ、早くぅ!〕ピッ

 いきなり画面がブルーになる。 

「何じゃ? 今丁度イイ所だったのに!」
「故障? かしら?」

 動画が強制終了した事に隊長が憤慨している。
 澪は故障かと思っているらしい。

「ひっ! た、隊長」クイクイ

 萌は隊長の腕をつかみ、引っ張る。

「何じゃ萌? 今、忙しいんじゃ……へ?」

 萌が引っ張るので後ろを振り向く。すると、

「お楽しみの所、すいませんね、皆さん?」

 仮眠室から帰って来た静流が、薫子を「お姫様だっこ」して四人を見ていた。

「し、静流クン! ち、違うのよ。これは、大昔の文明について検証していたの!」
「そ、そうだぞ静流。決してスケベ動画を楽しんでいたわけではないからな?」
「そうよ、問題無いわ。ただ保健体育の勉強、してただけ」

 最後の忍のひと言で、澪と隊長の必死の弁明は、台無しになった。
 動画を停止させたのは、古代文字が読める忍であった。

「イイぞ忍、こいつは一本取られましたな、お姉様方?」

 薫はこの最悪の光景を面白がっている。

「もうイイですから、拭いて下さいよ、鼻血」
「え? はれぇぇぇ」

 静流に言われ、鼻を触る四人は手に付着した血液を見て、失神した。

「んもう。私も見たかったのにぃ」
「薫子、戻れたの?」

 エロ動画の続きが見られなかった事を本気で悔しがっている薫子に、忍は聞いた。

「忍ぅ。心配かけて、ごめんね」
「大丈夫、心配してなかったから。それよりも静流」シュン

 忍は静流の顔を見た途端、瞬歩を使って静流に接近した。

「怪我してる。今直すから」ペロン
「わ、忍さん、何するんですか……あれ?」しゅぅぅ

 静流の左頬に付いていた爪痕が、忍に舐められただけでみるみる治癒していく。

「これでよし」
「ちょっと忍、その傷は私が治してあげようと思ってたのに! んもう!」
「薫子、いい加減静流から降りて。静流も疲れてる」
「ご、ごめんなさい。もうイイわ」

 静流の「お姫様だっこ」のあまりの心地よさに、身体を委ねていた薫子は、はっと気づいた。
 静流は薫子を静かにソファーに座らせた。



              ◆ ◆ ◆ ◆


ワタルの塔―― 2階 食堂

 一同は、娯楽室の隣にあった食堂で、円形のテーブルでお茶を飲んでいる。

「1500年物の紅茶か。美味いな」
「ここの冷蔵庫は、インベントリと同じで永久に鮮度を保ってるの。補助電源が生きてたからもあるけど」
「しかし、ここまで上手くいくとは、正直、思わなかったぜ」パァァ
「静流のお陰よ。ありがとう」パァァ
「いやぁ、照れるなぁ」パァァ

 三人で笑い合っていると、周囲の明るさが半端では無かった。

「くっ眩しい! 閃光弾並みだ」
「恐るべし、『桃髪家の一族』」

 静流は、仮眠室であった事を娯楽室にいた5人に説明した。

「そう。そんな事があったの? お疲れ様。静流クンは大丈夫なの?」
「大丈夫だよミオ姉。少し疲れただけだよ」

 澪は静流の労をねぎらった。

「むう。ここまでで私が隊長らしい事って何があった?」
「イク姉は、ちゃんと電源確保に活躍してくれたじゃないですか!」
「うむ。そうであった。もっと褒めろ! ハハハ」

 隊長は椅子の上に立ち、腰に手を当て、胸を張っている。

「しかし、ブラム殿は凄まじい能力でありますな。ダメージを受けた皮膚を脱いでしまわれるとは」
「玉ねぎ、みたいなものですか?」 

 佳乃と萌は、ブラムのハイスペックぶりに驚きっ放しだった。

「あ、ウチの抜け殻って、高く売れるらしいよ?」
「そうなの? でもそれで防具作ったら、カッコイイんだろうなぁ、『黒竜の鎧』とかって。憧れるなぁ、フルプレート」

 静流は頬杖をつき、妄想に耽っている。

「と、とりあえずは加工業者ね。売るのはその後、考えましょう!」

 静流のつぶやきに澪は反応し、売る事は置いといて、鎧に加工する計画を立てようとしている。

「あそこの生産者ギルドに発注してもイイんじゃないか? 腕は確かだぞ?」
「ホントに? 嬉しいな」パァ
「ひと段落したら、行ってみような、静流」
「うんうん! 楽しみだなぁ」パァァ

 ティータイムもそろそろお開きのようだ。

「とりあえずお疲れさん。あとは上の階に行くだけか?」
「そうなりますね。ブラム、上の階にはどうやって行くの?」
「大丈夫。問題無いよ。ウチに任せてちょ」



              ◆ ◆ ◆ ◆


ワタルの塔―― 3階 管理室

 ブラムはとりあえず静流だけを3階にいれるようだ。

「インベントリの利用権限をランク2にすればイイんでしょ? 簡単だよ」

 そう言うとブラムは、静流とエレベーターに乗った。

「ここが3階。じゃあ、左手にこれを付けて」

 ブラムは腕輪を静流に渡した。

「こうかな?」 
「そう。じゃあ、入るよ。 ピッ」プシュー

 ブラムがスロットに手をかざすと。グリーンに光り、扉が開いた。

「やけにあっけなく入れたな」
「そりゃあ、ウチがいるからね」
「ブラム様様だね。頼りにしてます」ニパ
「どういたしまして、シズル様」ニパ

 ブラムは、静流のニパに自分のニパを返した。

「ちょっと待っててね」

 ブラムは静流を待たせ、奥に行き、オシリスに念話した。

〈くぅ。久しぶりだな、この感じ。オシリスちゃん、この子、ワタルの子孫で間違いないや〉
〈ブラムちゃん、あなたもやっぱりそう思う?〉
〈ただ、子孫って事だけなら、カオルも、カオルコもそうだと思う〉
〈そりゃあそうよ。なんつっても『桃髪家の一族』だもん〉
〈ううん、ウチが言ってるのは、『転生』って事〉
〈静流がワタルの生まれ変わりって事?〉
〈ウチはそう思うよ〉
〈まあ、どうでもイイ事よね、そんなの〉
〈確かに。肝心なのは、現世だもんね?〉

 オシリスとの念話を終え、静流の元に戻ったブラム。

「お待たせ。ここに来てちょ」クイクイ

 ブラムに手招きされ、何かの操作盤の前に立つ静流。

「じゃあ、右手をここに置いてちょ」
「はい」ピー
「次、ここを見てちょ」
「見たよ?」ピー
「じゃあ最後、耳たぶに針刺すからチクッとするよ」
「痛ぅ」

[生体認証、全て完了しました]
[ようこそ、五十嵐静流サマ]

 どうやら認証には指紋、網膜、血液が必要らしい。
 1500年以上前のロストテクノロジーには驚かされる。

「ほい、これで3階まではパス出来るよ。腕輪はゲスト用だから、ウチが預かるよ」

 ブラムに腕輪を返し、静流は3階を見渡した。

「ブラム、それで、インベントリの利用権限のランク上げって、どこでやるの?」
「ここに入れるって事はもうランク2なんだよ、シズル様」
「そうなの? おいロディ、変身」パシュ

 静流は、ロディを本から豹型に変身させた。

「はい、何でしょう、静流様」
「僕のインベントリ利用権限のランク、今はいくつ?」
「はい、おめでとうございます、ランク3です」
「ランク3? 2じゃないの」
「間違いなくランクは3です」
「ブラム、どういう事?」
「う~ん、よっぽど経験値が溜まってたのかなぁ?」
「で、ランク3だと、何が出来るの?」
「3なら、塔を好きなところに移動出来るね」
「本当? じゃあ、あの砂の川をまた渡らなくてもイイんだ」
「それどころじゃありませんよ、静流様」
「どういう事? ロディ?」
「静流様のお屋敷の裏に塔を移動する事も、可能です」
「うん、確かに【ワープ】を使えば出来るね」
「うわぁ、それはちょっとマズいかも」
「何でマズいの? シズル様ぁ?」
「あまり目立つと、『元老院』に何かされそうで……」
「『元老院』!? その組織につかまったんだよ、ウチ」
「それなら余計マズいよ。とりあえずアマンダさんに相談しよう」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,726pt お気に入り:1,163

薬の錬金術師。公爵令嬢は二度目の国外追放で最愛を見つける。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:504pt お気に入り:1,903

ホロボロイド

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ある工作員の些細な失敗

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

さよならイクサ

現代文学 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...