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第5章 夏の終わりのハーモニー

エピソード32-1

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五十嵐家――静流の部屋

 塔の発見及び主要箇所とのゲート設置が終わり、インベントリ内に仮設宿舎を作るA班に後を引き継いだ静流は、
 技術少佐の計らいでとりあえずお役御免となった。

「先ずは睦美先輩に報告だ」

〔睦美先輩、今イイですか?〕
〔やあ静流キュン、感度良好だよ〕
〔昨日、軍のミッションがとりあえず完了しました〕
〔何? それは本当かね?〕
〔ええ。全て〕
〔全て……という事は?〕
〔会えましたよ、薫子お姉様に〕
〔そ、そうか! 無事だったんだね? お姉様は〕
〔ええ。リナさんや雪乃さんたちも。あと薫さんとも会いましたよ〕
〔そうか。良かった。本当に良かった〕
〔それで、お会いします? お姉様に〕
〔会えるのかい? 本当に?〕
〔カナメ先輩もどうですかね?〕
〔ん? あいつはどうかな? 一応誘っては見るが〕
〔じゃあ、午後にでも家に来て下さい。待ってます〕
〔わかった。必ず行く!〕ブチ

「よし、これでOK。あとはお姉様に連絡しないと」

 静流はノートパソコンを起動した。

「伯母さんの所に繋いで、伯母さん!いる?」

 画面に映ったのは薫子だった。

「静流ぅ、会いたかったわぁ」
「昨日会ったばかりじゃないか」
「もう、もっと早く連絡頂戴よ」
「わかったよ。それでね、お姉様」
「今から来てくれるの? 嬉しい」
「静流なの? 静流ぅ」

 横から忍がひょいと顔を出した。

「あ、忍、ちゃん。ごきげんよう」
「うん。合格」

 忍は自分をちゃん付けで呼んでくれた事に満足し、親指を立てた。

「んもう、今は私と話してるのよ! 退いて頂戴!」
「それでさ、お姉様、今日、塔に来ない?」
「イクイク。今から?」
「私もイク」
「ち、ちょっと待って、睦美先輩を呼ぼうと思うんだけど、イイかな?」
「睦美を? 構わないわ。あの子にもお礼が言いたいしね」
「じゃあ、午後にでも塔の二階で会いましょう」
「わかったわ。楽しみにしてる」プチ

 通信を終わらせ、支度を始める静流。

「美千留は? そうか部活だったな。まあ、いつでもイイか」
 


              ◆ ◆ ◆ ◆



 午後になり、睦美が静流の家を訪れた。

 ピンポーン

「はぁい、どうぞ」ガチャ
「やあ、静流キュン」
「あれ? 先輩だけですか?」
「いやあ、カナメも楓花も連絡付かなくてな」
「そうでしたか。じゃあ、行きましょうか」

 睦美は静流の部屋に通され、クローゼットの奥にある黒い穴を見た。

「これが【ゲート】なのかい? なにやら面妖だな」
「大丈夫ですよ。さあ、行きましょう」グイ

 静流は睦美の手を取り、穴の中に入って行く

「わ。静流キュン、大胆になったね」ムフゥ

 一瞬で塔の1階ロビーに出る。

「む。ここは? これが塔の1階なのかい?」
「そうです。うわ。外は大荒れだな」

 静流は窓の外を見て、そう言った。

「む? スゴい砂嵐じゃないか! 竜巻レベルだぞ?」
「大丈夫です。塔は安全ですから。さ、エレベーターに乗りましょう」

 静流は睦美をエレベーターに案内した。

「ふむふむ。塔は10階が最上階なんだね?」
「そうです。僕は3階までしかまで行けないんですけどね」
 そうこうしている間に、2階に着いた。


 ウィーン


「もう誰か来てますね。コッチです先輩」
「う、うむ。わかった」
(ヤバい、緊張してきたぁ)

 娯楽室で何やら物音がしている。

〔いやぁん、もうちょっと上〕
〔ここか? ここがエエんかぁ?〕
〔そう。そこ。あん、もっと優しくぅ〕

「むぅ……? ちょっと、待ってて下さいね」
「あ、ああ」

 異変に気付き、静流は息を潜め、ばっと飛び出た。

〔あん、イイ〕
〔次は後ろからだ〕
〔いやぁん、前でイカせて頂戴〕

「隊長?」ツンツン
「なんじゃ澪、今イイ所なんじゃ、後にせい!」
「隊長!、マズい、です」
「くどいぞ澪! もうちょっとでイク所なのだ、」

「イク姉? 何してるんですか!」

「うわっ、脅かすなよ静流、ってうわ」
「忍さん、止めて下さい! 静流クンが」
「わかった」プチ

「どう言う事ですか? 皆さん?」

 腕を組んで仁王立ちしている静流。

「あ、あのね、静流クン、これにはワケが……」
「どんなワケ? ミオ姉?」
「だ、だから昔の人が、どんな生活を送っているか、とか?」

 澪はわたわたと言い訳を始めた。とそこに、

「澪殿、もう始まってしまったでありますか?」

 佳乃がタイミング悪くエレベーターで上がって来た。

「皆さん、お昼休みは終わったんじゃないんですか?」コォォォ

 静流の背後を、負のオーラが覆っている。

「あり? 静流様、今日は何の用でしたでありますか?」
「何の用でもイイでしょう? 佳乃さんもグルなんですね?」
「さ、さあ? 何の事でありましょうか?」
「早く基地に戻って下さい!」
「「「り、了解、であります」」」
「皆の者、退散するぞ!」
「了解! 静流クン、本意じゃないのよ? 信じて~」
「お騒がせしたであります。では失礼」
「ど、どうも」ぺこ

  ウィーン

 女性軍人たちは、ぴゅーとエレベーターに飛び乗り、1階に降りた。
 何事かわからなかった睦美は、とりあえず会釈をした。
 隊長たちを見送った静流は、溜息混じりにこう言った。

「ふう。全くあの人たちは、目を離すとすぐこれだもんなぁ」
「静流キュン、今の方たちは、軍の方かい?」
「そうです。薄木基地にいる人たちです」
「今そこのモニターで見てたのって?」
「フン、エロ動画ですよ。1500年前の」
「そ、それは貴重な。そんな昔のメディアが再生可能とは、素晴らしい」
「先輩も観たいんですか? アレ」
「い、いや。ただの好奇心だよ」

 気を取り直して娯楽室に向かうとそこには、

「静流、来てくれた。嬉しい」ヒシッ
「うわ、忍、ちゃん、いきなり抱き付くの、禁止にしません?」
「ヤダ」スリスリ

 忍は静流に後ろから抱き付き、背中に頬ズリをしている。睦美はその人物に心当たりがあった。

「あ、忍お姉様!」
「誰? ああ、鼻血の子」
「手厳しいですね。久しぶりに会ったのに」
「静流とはどういう関係なの?」
「へ? ただの先輩と後輩ですが?」
「違う。メスの匂いがする」
「ち、ちょっと忍ちゃん? 睦美先輩は僕のお客さんなんですから、もうその位にして下さいよ」
「ちゃん付け? 忍お姉様?」
「イイの。私がお願いしたの」
「薫子お姉様は? 忍ちゃん?」
「もうすぐリナとかと来る。ほら」

 そうこうしていると、エレベーターが着いた。

  ウィーン

「だからよう、生産ギルドに発注するんだろ?」
「まだ底値がわからないのよ、加工費だってバカにならないのよ?」
「もう黙って、静流、もう来てるかしら」

 懐かしい声に睦美はウルウルと目に涙をためている。

「薫子お姉様ぁー!!」
 
 睦美は立ち上がり、薫子に抱き付いた。

「まぁ。睦美、久しぶりね?」
「うぐわぁ~ん。お姉様ぁ~」

「ムッツリーニちゃん、か?」
「ああ、鼻血の子ね」

 睦美に対しては、やはり鼻血しか印象に無いようだ。
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